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アンコールワット訪問記(カンボジア・ベトナム徘徊記⑦)

 さてさて、最近の私は熱心に旅行記を書いている。こんなことを書くとまた途中で挫折する未来が見えるのだが、まあいいことにしておこう。今日はアンコールワット訪問の話をしていくことにする。アンコールワットはカンボジアのシェムリアップに位置するアンコール遺跡を代表する巨大寺院である。最初はヒンドゥー教寺院として建てられたものが現在は上座部仏教の寺院として使われている。クメール建築の傑作とされていて、カンボジアの国旗にも描かれている寺である。
 アンコールワットはシェムリアップ市内から車で20分くらいのところに立地している。ただし、チケットを売っているのはアンコールワットではない、別のチケットセンターなので注意が必要だ。アンコールワットがある地域にはほかにもクメール建築の遺跡が点在しているが、それらのすべてに入り放題になるチケットで37ドルである。5500円くらいするので普通に高いのだが、カンボジアはビザにしても何にしても外国人観光客から金を巻き上げるのでこうなってしまうのだ。アンコールワットは世界遺産でもある世界的な観光地だが、カンボジア国内にはこれ以外に特にこれと言った観光名所がないのが実態である。プノンペンにも行ってみたが、ロイヤルパレスとシルバーパゴダ、トゥールスレン虐殺博物館にキリングフィールドくらいしか外国人が積極的に行くような観光地がないのだ。夕暮れ時になるとトンレサップ川沿いにも観光客が集結してくるのだが、金になるかと言えばそうではない。屋台のご飯が180円、アイスが36円というような調子だからどうにもならないのだ。というわけで、アンコールワットで外貨をがっぽり稼ごうというのが今のカンボジアであるようだ。

リックさんのトゥクトゥクはとても綺麗だった。安全運転なのでとても安心して乗っていられる。

 アンコールワットに行くならトゥクトゥクをチャーターするのが一番いいと思う。Grabも呼んだら来るとは思うが、例によって「TukTuk?」と話しかけてくるドライバーがわんさかいるのでさっさと1台チャーターしてしまった方が気楽である。ちなみに朝日を見に行こうとすると朝4時にGrabが捕まるわけがないのでチャーター必須になると思う。私はTwitterで知ったトゥクトゥクドライバーのリックさんに連絡して1日チャーターすることにした。朝日とアンコールワット周辺の4つの遺跡を回るツアーで20ドルだった。高いのか安いのか相場を知らないのでよくわからないが、リックさんはとても誠実な人なのでオススメである。彼とは英語でコミュニケーションできるし、今の時代にはGoogle翻訳という大変とっても非常にすごく便利なものも存在するので心配することはない。

まずは朝日を眺めに行く

 先述の通り、アンコールワットのチケットはアンコールワットに行っても買えないので、まずはチケットセンターに行くことになった。朝日を見るツアーは朝4時半にピックアップだったので、まだ真っ暗なシェムリアップ市内をトゥクトゥクで軽快に走り、チケット売り場に到着した。チケットはクレジットカードで買える。カンボジアではロイヤルパレスですらカードが使えなかったのだが、ここでは使えるという事実はここがいかにカンボジアにとって大切かということを象徴しているようである。チケットは顔写真付きだった。謎のこだわりであるが特別感があって悪い感じはしない。
 チケットをゲットしたのでまずはアンコールワットに向かうことになった。アンコールワットは真西に向かって建っているので朝は伽藍の後ろから太陽が昇ってくるのだが(つまり春秋分は伽藍の真後ろからの日の出を見ることができる)、それを見に世界中から観光客が集まってくるのだ。模範的観光客としての振る舞いを不得手とする私もこの朝日は見てみたいと思い訪問することにした。ネットには一生に一度は見るべきだとかなんとか書いてあるが、京都に八ツ橋の元祖がたくさんあるように、キラキラ旅行界隈には一生に一度見るべきものがたくさんあるようである。いちいち付き合っていたらキリがないから本当に見たいと思ったものだけ見に行くのが良い。
 朝日をどこで見るかというのには諸説あるが、外郭から昇る朝日を見たいのか本堂(?)から昇る朝日を見たいのかで行くべき場所は変わってくる。外から見るなら濠の手前で待っていればいいし、本堂を見たいなら中まで入って行って池の手前で待っていればいい。私は中まで入って行って向かって右の池で待っていることにした。ガイドブック的なオススメは左の池なのだが、リックさんは右側が良いというので右に行ってみたのだ。あとで左側に行ってみたら立ち入り禁止の塀が立てられていた。眺めは左の方が良いのだが、1時間立ちっぱなしになってしまうので右を勧めてくれたのだと思う。

夜明け前。
だんだんと建物の輪郭がはっきりしてくる。
紫色だった空がだんだん灰色になってきたが、その中に赤も混ざり始める。
完全に明るくなった。

 ただ、肝心の朝日がどうだったかというと期待していたようなものではなかった。少し雲が多すぎたようで、朝日が伽藍の後ろから差してくるというよりは伽藍の後ろが何となく明るくなってくる、というような朝焼けだったのである。むしろ、朝日が昇る前の薄明の頃には空が紫色に染まる美しい景色を眺めることができた。これはもう一度見に来る必要があるな、と思いながら伽藍を見て回り、朝食を食べることにした。朝食は敷地内にレストラン(どちらかというと屋台に近いのだが)があるのでそこで食べた。最初5ドルと言われたので「じゃあいらん」と言って立ち去ろうとしたら3ドルになったから食べたのである。骨だらけの肉が入った炒飯のようなものを食べた。味はまあ、お察しの通りである。
 アンコールワットは遠くから見るとボロい石を積み上げただけのように見えるが、近づいてみるとそんなことはなくて石の表面に細かい彫刻が施されている。回廊の壁面には何かの戦いの模様を記録した絵が彫られているし、柱の多くにも絵や文字が彫られている。仏像は壊れているものが多かったりレプリカが多かったりするのだが、雰囲気を味わうことはできる。本物の仏像を見たければ博物館に行けばいいのである。ただ、博物館で見てみても腕がなかったり首がなかったりするものが多い。おそらくクメールルージュが破壊してしまったのだろう。

壁の彫刻に目を向けてみると、クメール文明の豊かさを感じられる。

 アンコールワットを見終わってトゥクトゥクに戻ると、リックさんが冷たい水を渡してくれた。これが地味にありがたいシステムで、一つの寺を見終わるごとに小さい水を1本ずつくれるのである。カンボジアは2月でも気温が35度くらいになるので、この気遣いはとてもありがたかった。

次はアンコールトムへ

 さて、次はアンコールトムだ。城郭都市の遺跡らしい。トムというのは別にトムさんが作ったというわけではなく、クメール語で「大きい」という意味である。その名に違わず広大で、面積は9平方kmもあるそうだ。アンコールワットと比べると5倍くらいの広さがあることになる。
 まず向かったのはバイヨン寺院である。顔が彫られた塔がたくさん建っていることで有名な寺院だ。一つの塔に顔が4つ、それが54本立っているので合計216個の顔があるということになる。そんなたくさん顔を彫るとは古のクメール人が何をしたかったのかよくわからないが、壮観ではある。塔の一部にはコウモリが住み着いているようで、塔の上の方からピヨピヨと鳴き声が聞こえることもあった。
 ここの寺院にはサルがたくさんいて、フルーツを持っていると襲撃を受けるようだ。野生なのかペットなのかよくわからないのだが、サル小屋のようなものがあったので飼われているのかもしれない。ただ、いずれにせよサルはコウモリと同様に動く病原体のような生き物なので近づかないでおいた方が良いだろうと判断して遠巻きに眺めておくことにした。とにかく海外では狂犬病と食中毒が怖いので、君子危うきに近寄らずというわけである。別に私は君子でも何でもないのだが。

このようなサルがたくさんいる。

 バイヨン寺院を見ながらふと気づいたのだが、私は遺跡を見学するという行為には向いていないらしい。いい景色を見たり、アクティビティをしたりするのは好きなのだが1000年近く前に建てられた建物を見てもあまり心を動かされるということはなかった。すぐに飽きてきてしまうのである。絶景の広がるところに行けばそれを30分くらいは平気で眺めていられるのに、どうも遺跡に30分もいると飽きてしまうのである。そういえば昔、城が大好きな生徒に「先生、ぼくは城跡に行くと昔の姿が目の前に浮かんでくるんですよ。先生には見えないんですか?」と言われたことがあるのだが、やはり私は遺跡に行っても何も見えないのだ。
 バイヨン寺院の近くには別の遺跡もあって、そちらは中国の協力で再生中のようだった。カンボジアはとにかくどこに行っても中国の支援ばかりで、遺跡の保存のみならず道路や建物も中国の金が入り込んでいるのだ。そういえばシェムリアップ国際空港から市内に向かう道もやたらと綺麗だったが、つまりそういうことなのだろう。
 あとは門があったり象が彫られた門があったり、まあそれなりに楽しむことができた。実はもっと色々見るものがあったらしい(後で調べて知った)のだが、今となっては致し方ない話である。昔は象に乗って散歩できたらしいが、今は動物愛護の観点から禁止されたそうだ。

色々な方向を向いて微笑んでいる。とにかく顔だらけである。

タ・プロムへ移動

 次はタ・プロムである。ヒンドゥー教の寺院で、私のイチオシの遺跡だ。石造りの遺跡と木が複雑に絡み合って不思議な景色が作り出されている。中に入ってみると、インディ・ジョーンズのような世界観の、不思議な光景が広がっていた。崩れた建物も多いのだが、巨大な石を積み上げて作った建物が崩れているのは不思議な眺めである。
 中に入る前に、帽子を買うことにした。あまりにも暑いからである。リックさんにも「You look tired.」と言われたので相当疲れていたはずだ。というわけで帽子を買うことにした。アンコール遺跡群はとにかく日影がないのでこれから行く人はぜひ帽子を持って行った方が良い。
 ただ、観光地だからこういうものを買うのに困ることはない。店が出ているから見てみたら帽子を出してくれて、店員3人に囲まれて品定めが始まった。ちなみに3人のうち2人はおそらく両隣の店の店員である。何度考えても意味が分からない。結局8ドルの帽子を7ドルに値切って買った。あまり安くはならないようだ。8ドルと言われたので5ドルでどうだと返し、7ドルと返されたので6ドルで手を打とうと返したら7ドルよりは下げられないと言われたので7ドルで買うことにした。多分こんなところで値切ってくる人(しかも日本人)がいるとは思っていなかったのだろうが、値札のついていない店は基本的に価格交渉の余地があるということなので聞いてみて損はない。買ってからふと気づいたがカンボジアの国旗がデザインされたものを買ってしまったのだが、私はこれからベトナムに行くのである。それならナイキかアディダスの帽子(どう考えても偽物なのだが)を買っておけばよかったかもしれない。
 遺跡に入っていくとなんと日本人が2、3組くらいいた。雰囲気からしてシンガポール駐在員といった感じである。シンガポールもちょうど旧正月で休みの時期だからカンボジアに遊びに来たのだろう。知り合いのシンガポール駐在員も月に2回くらい海外旅行を楽しんでいるが、やはり東南アジアへのアクセスが抜群に良くなるというのはシンガポール駐在の大きなメリットであるが、個人的にはヨーロッパ駐在もいいなと思っている。ドバイ駐在も魅力的で、中東地域はもちろんのことヨーロッパにも東南アジアにも出られるから最高である。サウジアラビアを旅してみたい私にはちょうどいいかもしれない。酒が高いのがネックだという人もいるが、私は好き好んで酒を飲むことはないので特に問題はないのである。

インディ・ジョーンズの世界観である。

 中に入っていくと崩れてしまった建物が他の遺跡よりも多く目についた。とはいうものの、その崩れた石の上ですでにガジュマルが大きく成長しており、全く新しい光景が作り出されているのが印象的だ。おそらく元の形に戻す計画がなかったわけではないと思うのだが、このような状況を考慮してあえて自然に任せてあるのだろう。木が絡みついていない石も苔に覆われているものや草木の芽が育ってきているものがあり、数年後、数十年後に再度訪れたらまた違った景色を眺められるのだろう。そう考えると、このような遺跡の保存方法も悪くないかもしれない。ベトナムのミーソン遺跡を訪問したら現代の技術で復旧工事をした後が不自然に見えてしまったことを考えると、下手に修復を試みるくらいなら成り行きに任せるのも一案なのだろう。

古びた建物と高く幹を伸ばした木の対比がとても面白い。

 不思議な景色が広がる中を時間をかけてゆっくりと散策し、ピックアップポイントに向かった。これでツアーは終わりだがいくつか小さな寺に行くこともできるしすぐにホテルに戻ることもできると言われたので寺を引き続き訪問してみることにした。せっかく37ドルも払ったので見ておかないと損である。行ってみたら、確かに今までの寺と比べたら小さいものだったが、壁画が綺麗に残っていたり、目の前に綺麗な湖が広がっていたりと決して見どころがないわけではなかった。
 すべての見どころを回った私はトゥクトゥクでホテルに戻ることにした。何しろ朝4時くらいに起きたので眠くて仕方ないのである。ホテルでシャワーを浴びて昼寝をし、夕飯もGrabで済ませてしまった。まったく怠惰なものだと思うが、旅行に出かけていつも模範的な観光客的行動をしていると疲れるので、特に長い期間にわたる旅行では適当に手を抜くのも大事なことである。

ここでも壁の彫刻に目を奪われる。

 そんなわけでアンコールワット訪問記は完結ということにしたい。一生に一度は見るべきだとか、一度見るごとに寿命が10年伸びるとか言われているアンコールワットの朝日だが、評判通り一度見に行って損はないと思う。私は天候に恵まれなかったので、またそのうち見に行ってみたい。カンボジアは食べ物があまり好きではないのと出国時にもめたせいであまり印象は良くないのだが、まあそのうち行ってみようというわけである。10年くらいしてから行くと目覚ましい発展を遂げているだろうから東南アジアらしさも薄れてしまっているかもしれないが、その変化も含めて再訪するのを楽しみにしている。

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