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ベトナム統一鉄道、寝台列車の旅(カンボジア・ベトナム徘徊記⑤)

 さて、珍しくきちんと書いている旅行記、今日はなんと記念すべき5回目である。今回は、ベトナム統一鉄道での旅の様子を記録していくことにしたい。これは何度か記事中で指摘していることだが私のPCはなぜか毎回「○○したい」を「○○死体」と変換してしまう。もちろん私が「死体」という単語を日常的にタイプしているわけではないので私のPCにそういう趣味があるだけだと思っている。この記事で誤字脱字があったところで別に誰も困らないからいいのだが、メールで誤字があると困るので特殊な趣味は他人に影響を与えないように楽しんでほしいものである。
 ベトナム統一鉄道というのはベトナムを南北に走っている鉄道で、南はホーチミンから北は中国国境まで運行されている。今回私が乗ったのはホーチミンからダナンまでの区間で、この記事を書いている翌日にはダナンからハノイまでの区間に乗車する予定である。私はタイでも寝台列車に乗ったことがあるのでそのことも思い出しながら鉄道旅の模様を記録していくことにする。

一説によるとベトナムの鉄道は撮影禁止らしいが特に何も言われなかった。

きっぷの購入

 きっぷはネットで買える。もちろん駅に行っても買えるのだが、カードが使えないのでネットで買った方が良いと思う。私は旅行に多額の現金を持っていきたくない人なので(持っていきたい人はいないと思うが)、カードで切れるものはできるだけカードで切ることにしている。というわけで、きっぷは事前に手配しておくことにした。
 ベトナム統一鉄道のホームページは「Vietnam railway」などと検索すれば出てくるのだが、一番上に出てくるのは公式ではなくてエージェントのサイトだから注意が必要である。私は最初そちらに引っかかったのだが、どう考えても高すぎるのでよく見たら公式サイトを発見することができた。値段が倍くらい違ったので要注意だ。サイトの言語は一応英語にすることもできるのだが、あくまで「一応」であって英語に設定しても随所にベトナム語が残っている。偽サイトの方は全部英語なのでその点でも判別できるかもしれない。こちらが本物のサイトである。

 操作はとても簡単で、出発地と目的地を入力したら列車を選べるようになっている。ちなみにホーチミンから乗る場合、駅名は「Sai Gon」である。意外なところにサイゴンという呼び名が残っていた。列車はたくさん走っているので時刻と値段を見ながら選べばいいと思う。たまに午前3時に出る列車や午前1時に着く列車が紛れ込んでいるので要注意だ。いくらベトナムが安全な国だとは言っても真夜中に目的地に着くのはオススメしない。
 座席のタイプも色々あって、グレードが高い順に4人用のベッド、6人用のベッド、ソフトシート、ハードシートとなっている。上二つは寝台、下二つは椅子である。よほどお金に困っているのでないなら4人用のベッドにしておくのが良いと思う。0の多さに圧倒されるが1ドンが0.006円くらいなので実際のところは大した金額ではない。ホーチミンからダナンまで4ベッドに乗って5000円くらいだったと思う。ダナンからハノイが7000円くらいだった。値段が何で決まっているのかよく知らないが、距離はそれほど変わらないので空席連動なのかもしれない。いずれにせよ、移動と一泊の宿代が含まれていると考えたら高い買い物ではないだろう。そこに窓から見える景色と旅情、思わぬ出会いが付け加わると考えたらむしろ安い買い物のように思えてくる。タイ国鉄と比べると高いのだが、万年赤字と引き換えに運賃が異常に安いタイ国鉄と比べるのはかわいそうである。
 予約しようとしたら一度支払いに失敗したのだが、やり直したらうまくいった。複数のチケットをまとめて買おうとするとエラーが出るのかもしれない。前に航空券を予約するときに二重決済されてしまったので不安を感じながら決済したのだが、今回は本当に支払いに失敗していたようだった。
 きっぷを買ったらとりあえずプリントアウトしておいた方が良い。これは前にも書いたことだが、海外旅行の時にはこの手の書類はプリントアウトしておくのが鉄則である。特に帰りの航空券はイミグレで要求されることもあるし、イミグレはスマホが使えないから紙でないと困るのだ。

サイゴン駅前には蒸気機関車が展示されていた。

いざ、ダナンへ

 私の列車はホーチミン19時30分発だったので、少し余裕を持って18時30分頃にサイゴン駅に向かった。前回タイで乗った時には時間ギリギリに滑り込むことになってしまったので、余裕を持って行動しようというわけである。しかも、バンコクはメトロがあるので時間通りの移動ができるがホーチミンは(今のところ)メトロがないので交通渋滞に巻き込まれると大変なことになってしまう。私は基本的には時間にルーズだが、外してはいけないところは外さないので今回のようなケースでは類い稀な定時性を発揮するのである。
 改札は列車ごとに行うシステムになっていて、列車の出発時刻のおよそ30分前からホームに入れるようになる。アナウンスは英語でも入るのでそれを聞いていれば問題ないし、聞き取れなかったら周りの様子を見てついていけば良いだけだ。ちなみに待合室はきちんと整備されていて、飲み物も軽食も買うことができる。何と、ロッテリアが営業中だった。ただし、市内で買うよりは若干高いと思う。ただ、バンコクのクルンテープ・アピワット中央駅のようにシャワーはないのでシャワーはどうにかして浴びておいた方が良い。ホーチミンは暑いので日中活動してからだと汗だくで乗る羽目になってしまう。私はホテルで聞いてみたら共用シャワーを浴びさせてくれた。この辺は交渉次第だと思う。街中のマッサージ店を利用すると施術後にシャワーを浴びられるらしいが使ったことがないのでよくわからない。
 ホームに入る前にきっぷの確認があって、車両に入る前にもう一度きっぷを確認された。車両ごとに車掌が乗っているようだ。車内に入ったら自分の席を探して座るだけだ。4人で一つの空間を共有することになるので軽く挨拶して、無事に安住の地を手に入れることができた。同室の4人中私以外の全員がベトナム人だったので「シンチャオ」以外の会話をすることなくそれぞれが自分の世界に入っていたのだが、やはりベトナム人は積極的に英語を話そうとはしないらしい。アメリカと戦った過去が影響しているのだろうか。
 部屋にはドアがついていて、鍵をかけることもできるようになっている。各席には読書灯とUSBの充電ポートがついていて、下段ならコンセントも一人一口ついていた。上段だと一つを二人で共有することになるらしい。タイでもそうだったが、寝台列車は下段の方が高い分だけ乗り心地が良かったり景色が見えたり充電環境が良かったりと色々な面で恵まれるので四の五の言わずに下段に乗っておいた方が良い。特にベトナム統一鉄道は景色が良いので下段の、それも進行方向に向かって座れる席にするのが得策である。

4人のコンパートメントはこのようになっている。

 タイの寝台列車と比べてみると最大の違いは寝台の向きである。タイの場合は真ん中に通路があって、その左右に進行方向と平行の寝台が備えられていたがベトナムの場合は通路が車両の片側に寄せられていて、寝台は枕木と平行になっている。どちらが良いのかは何とも言えないが、寝ているときの快適性はベトナムの方が高かったと思う。ただし、列車の状況は線形や速度、保線状況によっても変わるので寝台の向きがどこまで影響しているのかはよくわからない。
 他の違いはというと、寝台にカーテンがあるかないかというのがある。タイの場合はその構造上通路と寝台が直接面しているのでカーテンがあるのだが、ベトナムの場合はドアを閉めて通路と完全に区切られた空間を作ることができるのでそれぞれの寝台にはカーテンがないのだ。実際問題としてこれが気になるかというとそれほどでもないのだが、車内で着替えようとすると気を遣うことになる。とはいってもどこかに空いている寝台はあるし、同室の人がいなくなったタイミングでささっと着替えてしまえば大丈夫である。
速度は意外と速くて、最高で時速70キロくらいは出ていた。あくまで体感だが、大体合っていると思う。乗り鉄には体感で速度がわかる人が多いのだが、私もその一人だ(ちなみにプロの運転手は1km単位でわかるらしい)。そして、予想に反してと言ってはベトナムに失礼だが列車はほぼ時刻表通りに運行していた。この点はタイもそうだったのだが、最近の鉄道は時間に正確になったらしい。東南アジアやアフリカというのは時間通りに来る公共交通機関が飛行機しかない、というのは一昔前の話になってしまったようである。列車に関して言えばヨーロッパの方が定時性に劣るかもしれない。

のどかな車窓が広がる。

 夜はとても快適に眠ることができた。同室の人がいびきをかく人だと目も当てられないことになったことが予想されるが、この時の私はだいぶ幸運だったようである。翌朝目覚めたのは同室の人が列車を降りるために荷物をガサゴソやっていた時だったが、それが朝5時半とかそれくらいだったと思う。それから二度寝に入り、7時くらいに正式に起床した。
 そういえば、ベトナム統一鉄道では行商人が乗り込んでくるということはなかった。タイだと通路を絶えず物売りが歩き回っていたが、ベトナムではそのような人の乗車は認められていないらしい。その代わりに車掌が軽食を売りに来てくれるし、駅に止まった時には列車に弁当を売りに来る人がいるので食事の確保に困るということはなかった。
 中身も見ずに弁当を買ったら黄色いご飯の上にチキンが乗っかっていたのだが、これで5万ドン(300円)である。高いと感じるか安いと感じるかは人によると思うのだが、私はそんなものかと思っていた。すると、すでに降りた人の寝台を整えに来た車掌さんがGoogle翻訳で「普通は5万ドンもしないから、次にそれを買うときは教えて。きちんとした値段で買えるようにする」と話しかけてきた。私は知らない間にぼったくられていたらしい。そしてそれをわざわざGoogle翻訳を使ってまでして教えてくれる車掌さんはずいぶん親切である。ベトナムの人はあまり外国人から搾り取ってやろうという感じがしないのだが、それは列車の中でも徹底されていた。真面目な人たちである。

5万ドンの朝食。

 そのあとも列車はベトナムの田園風景の中を小刻みな揺れと共に快調に走り続け、13時少し前にダナン駅に到着した。ダナンで10分ほど停車して、そのあとハノイに向かう列車だったようである。

続いてハノイへ

 ダナンに着いた翌々日、私はハノイに向けて旅立った。ダナンに着いた日は市内を徒歩で徘徊し、翌日はミーソン遺跡とホイアンを訪問し、翌々日にはマーブルマウンテンを訪問してからTwitterで知り合った同じ大学の先輩とランチを楽しんだのだが、こう書くと私もだいぶ積極的に動き回っているのだなということを実感する。私は公共交通機関を組み合わせた移動の計画を作るのは人一倍うまいと自負しているが、どこかに出かけてその街を見て回るという現地での行動を組み立てるのがどうしようもないくらい下手なのである。そもそも移動を目的に旅行しているので仕方のないことなのだが、「パリに行ったのにルーブル美術館には行っていない」「ロンドンに行ったのに大英博物館にもビッグベンにも行っていない」「NYに行ったのに自由の女神を見ていない」みたいなことを平気でやってしまう。これは昔からで、中3の修学旅行で京都に行ったときには金閣も銀閣も清水寺もすべてパスして嵐山に出かけ、トロッコに乗ったり川下りしたりして遊んでいた。高2の修学旅行で沖縄に行ったときも国際通りの裏路地を徘徊していた。ぼくからしたら嘉手納基地に遊びに行ったり瀬長島に行ったりしていないだけほめて欲しかったのだが、誰もほめてくれず変人扱いされただけだった。
 私の旅行記を熱心に読んでくれている人(多分いない)は私が「どこに行くか」よりも「どう行くか」を研究しているのはよくご存じだと思う。来月はスターラックスに乗るために台湾に出かけるのだが、旅行の動機を素直に話すと変人扱い待ったなしなので最近は少し気を付けている。とはいうものの、ここ2か月はその半分くらいを海外で過ごすことになるのでその時点で十分変人である。

機関車はこのような車両。かなり古いと思う。

 ダナンを満喫した私はダナン駅に向かうことにした。交通手段は例によってGrabである。綺麗なトヨタの車がやってきた。KIAとヒュンダイに乗ってからトヨタに乗ると、その品質の高さを実感する。明らかに振動と騒音が小さく、質感が高かった。株主として誇らしい限りである。
 そんなことはどうでもいいのだが、この列車はダナン発らしい。ホーチミンと同様に30分前にホームに入れるようになったので早速乗車し、同室の人と挨拶を交わした。ポーランドからの旅行者で、日本にも来たことがあるそうだ。あとからベトナム人が二人乗ってきて、総勢4人での旅となった。
 今回の車両は内部が更新されていて、壁に鳥の絵が描かれている綺麗な車両だった。もちろん前の車両が汚かったわけではないのだが、相対的に綺麗だということである。シーツが海上自衛隊幹部候補生学校かというくらいピンと張られていて、座るのがためらわれるくらいだった。

先程の写真と見比べると違いは一目瞭然である。

 ダナンを出てしばらくすると峠越えが始まる。ベトナム統一鉄道でも有名な絶景区間である。というわけで楽しみにしていたのだが、絶景というほどの景色を見ることはできなかった。アンコールワットを訪問したときと同様に天候に恵まれなかったのである。日中は明るかったのに夕方になったら曇ってきてしまった。こればかりはどうしようもないが、ベトナムにはまた来るだろうからその時のお楽しみということにしておこう。こういう風に旅先にはそこが気に入った場所であればあるほど見残しを作っておくのが良い。また行こう、というモチベーションになるからである。
 しばらくしたら車内販売が回ってきたので夕食を食べることにした。5万ドンである。これを見ると、ダナンに行くときに買った弁当が明らかなぼったくりであったことが分かった。あちらは冷えて固まった米にチキンだったが、こちらは温かいご飯にチキン、それに副菜も添えられていた。もやしがやたらと大量だったのには辟易したが、おいしい夕食だった。そういえば、JALのファーストクラスに乗ったら機内食にもやしが出てきて、その時にCAがこのもやしがいかにすごいか、ということを熱弁していたのを思い出した。まあ、どうでもいい話である。

これもまた5万ドンである。車内販売を使おう。

 同室だったベトナム人は英語を話せる人で、夜まで話が盛り上がった。ベトナムは恐ろしいほどに英語が通じない(まあ私が屋台をほっつき歩いてばかりいるからなのだが)のだが、やはりインテリ層は英語を流暢に話すようだ。ハノイで銀行員をしているという彼女は、ハノイでオススメのフォーの店を教えてくれたり、お土産を買うならここが良い、という店を教えてくれたりした。そして彼女の同僚は一橋大学に留学していたそうだ。まさかこんなところで出身大学の名前を聞くことになるとは思わなかったので驚いた。そして、実は留学生は留学生用の授業があったらしいということを卒業してから知ることになった。私が商学部出身だと話したら「MBA取らないの?」と言われたので、一度ビジネスの現場を経験してから必要だと思ったら行けばいいと思っている、と答えておいた。こういう時に英語がある程度できて良かったなということを実感する。別に私は英語が達者なわけではなくて洋画は字幕があって何とか理解できるくらいのレベルでしかないが、それでも何でも英語が話せるというのは大きなメリットである。
 色々話していたら眠たくなったので寝ることにしたのだが、この区間の列車は夜通し大揺れしていて騒音もひどく、あまりぐっすりと眠ることはできなかった。例のベトナム人も「I couldn’t sleep well.」と言っていたのでそういうものだったのだと思う。寝台自体は先述の通り快適だったのだが、線路が悪いのか何なのか乗り心地はお世辞にも良いとは言えなかった。
 乗車していた列車は少しゆっくり走る列車だったようで、途中の駅で何度も対向列車との行き違いをしていた。ゆっくりしているなと思ったらゆっくりしすぎたようでハノイには20分ほど遅れて到着していた。ま、そのあとに用事があるわけではないので特に問題はない。同室の人たちに別れを告げ、Grabでホテルに向かった。Grabにしては高かったが、需要が高い時間帯だったらしい。

ハノイ駅にこれから出発する列車が入線してきた。

 やはり寝台列車での旅は良いものだなと思った。今度は欧州で乗ってみようと思う。本当はシベリア鉄道に乗りたいのだが、当面の間は実現できそうにない。

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