シンガポール航空搭乗記:復路編:乗り継ぎ失敗記(カンボジア・ベトナム徘徊記⑥)
さて、旅行記は進んでいないが旅行は進んでいくので私はいよいよ帰国である。2月7日に日本を旅立ってから早二週間、カンボジアとベトナムを満喫してきた。これくらいの期間を海外で過ごしていると5日目~7日目くらいにさっさと帰国したくなるものだがその期間を超えると逆に帰りたくなくなってくるものである。
と思っていたら、帰国を延期することになったので今日はその顛末を紹介していくことにしよう。今回の旅行記は「カンボジア・ベトナム徘徊記」になっているがシンガポールも徘徊することになってしまった。いや、なってしまったという表現は適切ではないだろう。シンガポールにも1泊だけだが滞在できることになった。しかもホテル代は航空会社持ちである。ホテルが高いシンガポールで宿泊代を浮かせられたというのは大きい。では早速見ていこう。
嫌な予感はしていた
今回のトラブルは「この旅行はやけにスムーズだな。カンボジア航空が7時間遅れになったこととカンボジア出国で賄賂を要求されたこと以外には問題が起こっていないぞ」と思っていたら発生した。まあ半分くらいは私が悪いのだが、まずは前提から説明していこう。
今回私が予約したのはシンガポール航空である。そういえば往路の模様を記録しておいたのでそちらもぜひ読んでいただきたいのだが、復路のスケジュールの方がどちらかというと問題だった。何と、チャンギ国際空港での乗り継ぎ時間が50分しかない便を予約してしまったのである。公式ホームページ上で出てきた経路だからSQとしては乗り継ぎできるということになっているのだが、何とも不安な思いを抱えながら予約した。フライトはハノイ18:25分発シンガポール着 23:05着のSQ193便とシンガポール発23:55発成田着07:30(+1)着のSQ638便である。あとになって調べてみたら、このSQ193便というのが曲者でなんと搭乗前7日間のうち定時運航されたのが3日だけという素敵なフライトだったのだが、これのせいで私のスケジュールがずいぶん大きく変わることになった。
悪い知らせは突然に
2月20日、ハノイを満喫した私はノイバイ国際空港に向かうことにした。フライトが曲者なら私も曲者なので空港までの交通手段はなんとバスである。普通の人はホテルにタクシーを手配してもらうなりGrabを呼ぶなりすると思うのだが、私は路線バスで行くことにした。バスに関する記事も最近執筆したところだが、ベトナムのバスは少なくとも都市部においては超イージーモードになっているので文字を読解する能力さえあれば簡単に乗ることができる。空港までのバスは本数が少なく45分に一本くらいしか来ないうえに市内の路線バスの7倍くらいの値段がするのだが、私はバスで向かうことにした。7倍とは言っても基準になる値段が6000ドン(36円)くらいなので7倍になったところで300円もしない。ちなみにバス停で待っていると大量のタクシーに絡まれることになるのでこれまで培ってきたにこやかにすべての誘いを拒絶する技を巧みに利用し、すべてやり過ごすことができた。
バスの車窓を楽しむという最後のハノイ観光をしていたらApple Watchが振動し、SMSが来たことを教えてくれた。見てみると「There have been changes to your booked flights.」と書いてある。要するにフライトの予約に変更があったからお知らせするぞ、というわけだ。「ああ、やっぱり来たか」というのがその時の素直な感想だった。折り返し便のシンガポール出発が遅れているのは知っていたので乗り継げないかな、ということは予測していたからである。詳細はeメールに送ったと書いてあったのでメールを見てみたらシンガポールから台北までCHINA AIRLINESで飛び、台北から成田までEVA航空で飛ぶというルートを再予約したということが書かれていた。ちなみに機材は前者がA330-300、後者が787-10と書かれていた。
さて、ここで考えるべき問題はこのオファーを受け入れるかどうかである。私のこの時点での答えは明確に「No」だった。なぜなら、私がこのSQ638便を予約したのはこのフライトがA380-800によって運航されているからに他ならないためである。わざわざA380に乗りたくてSQを選び、このフライトを選んだのに、どこでも乗れるA330だの787だのに振り替えられたらたまったものではない。というわけで交渉開始である。
このメールのせいで車窓を楽しむどころではなくなったわけだが、ひとまずノイバイ国際空港に着いた私はチェックインカウンターに行ってみることにした。行ってみたらなんとまだカウンターがオープンしてすらいなかったのでその辺のスタッフに聞いてみたら荷物を預け入れるときに対応するから並んでいてくれと言われたので列に並び、自分の番が回ってきた。そこで私が言ったのは「とにかくA380のフライトに変えて欲しい。SQを予約したのもこのフライトを予約したのもA380に乗るためだからここは譲れない。その代わり、乗り継ぎがあってもいいし到着時間も乗り継ぎ時間もどうでもいいから、とにかくA380のフライトにしてくれ」ということである。カウンターのスタッフは「なんやコイツ」みたいな顔をしていたがとりあえず私の言いたいことは理解してくれたようで、「自分には判断がつかないからマネージャーに相談する」と言い、マネージャーに取り次いでくれた。
最初のスタッフから事情を聞いたマネージャーは、どの便ならA380なのか聞いてきた。それを調べるのは私ではなくスタッフの仕事のような気がしてならないのだが、SQ638便か香港行きのフライトがそうだ、と答えたら翌日のSQ638便への振り替えを提案され、それに伴って発生するホテル代はシンガポール航空が負担するからそれでどうか、と言われたのでそれをOKして、ひとまずこの問題については一件落着となった。荷物はシンガポールでピックアップしたいから一度返してもらえるようにして、搭乗手続きは無事に完了した。ホテルのバウチャーはシンガポールでもらえるように手配する、というのでハノイでの交渉は終わりとなった。
今回の交渉結果は私にとってほとんど完全勝利に近いものだった。ほとんどと言ったのはシンガポールで明日着る服がなくなってしまったからである。まあ、そんなものは柳井商店(通称ユニクロ)で買えばいいのでどうとでもなる。乗りたかったA380に乗れるし、ホテル代を払わずにシンガポールを観光できるし、願ったり叶ったりだ。シンガポールのホテルはアホみたいに高いので以前行ったときにはカプセルホテルに泊まったのだが、今回はきちんとしたホテルである。こんな遅くにシンガポールに着いてホテルまでの移動手段があるのか知らないのだが、まあいいようにしてくれるだろう。シンガポールならGrabもあるしタクシーもぼったくりはいないはずである。
737MAX8に搭乗
さて、A380問題が片付いたところでハノイからシンガポールまで飛ぶことになる。機材は737MAX8だ。ドアが吹き飛ばないことを祈りつつ飛行機に乗り込むことになった。そう、アラスカ航空でドアが吹き飛んだ機材の兄弟である。当該機は確かMAX9だったので厳密には違うのだが、まあ似たようなものだ。
私は先日、SQが誇るオンボロ機材である737-800NGに乗ったところだが、それと比べるとMAX8は別世界と表現するにふさわしいものだった。個人用画面が装備され、シートピッチにも余裕があり、スマホの充電もできればWi-Fiも使えるし、照明もLEDの間接照明で美しく、機材が全体的に新しく綺麗である。本当は行きもこれに乗れたはずだと思うと、つくづくボーイングには真面目に仕事に取り組んでほしいものだ。最近ではボーイングは航空機製造業界のビッグモーターだと思っている。
フライトはどうだったかというと、遅延していたこと以外はスムーズだった。離陸直後に墜落することも、上空でドアが吹き飛ぶということもなく順調な飛行を続けシンガポールに日付が変わる直前に到着した。タキシング中におそらく私が乗るはずだったと思しきA380がゲートにいるのが見えたのだが、ターミナルが違うのでどうにもならなかったらしい。
前回のフライトでは英語が一切通じず、地上走行中にいきなり食事を始める謎の人がいて辟易したが、今回の隣人はこの後イギリスへ向かうという上品な夫婦だった。この人たちに限らず、東南アジアにいる欧米人は民度が高い人が多い。反対に、東南アジアにいる中国人、韓国人、日本人には民度が低い人が多い。中国人がぶっちぎりで酷いが、日本の中年オヤジ(特に集団)も相当に酷いと思う。遠くから来る欧米人は経済的に余裕のある人が多いから上品で落ち着いた振る舞いの人が多く、近くから来る人はそうでない人もいるから必然的に民度が低下してしまうのだろう。人混みでぶつかった時にsorryと言葉をかけてくれるのは100%欧米人だったし、写真を撮ろうとしたら避けてくれるのもそうだし、まあつまりそういうことである。
飛行機を降り、夢の時間が始まる
飛行機を降りるとSQのスタッフが待っていて、同様に乗り継ぎに失敗した人と一緒にこの後の説明を受けることになった。ホテルのバウチャーが渡され、まずSG Arrivalカードを出してイミグレを通過し、タクシーでこのホテルに向かってくれ、空港とホテルの往復タクシー代とホテル代はSQが負担する、と説明を受けた。私はシンガポールで荷物を受け取れるようにしてほしいとリクエストしていたので荷物を受け取り、空港からタクシーに乗り込んだ。
空港からタクシーに乗るなんて経験はほとんどないのだが、今回は自分でお金を払わなくていいので気持ちよくタクシーに乗り込んだ。何せぼったくられようが何だろうがどうでもいいのである。タクシードライバーにバウチャーを見せてここに言ってくれ、と言ったらタクシーは走り出した。ナビを使うことなく、迷いなく深夜のシンガポールを時速120キロで走り抜けるおじいちゃん運転手に一抹の不安を抱えながら車窓を眺めていると、タクシーはホテルに滑り込んだ。突っ込まなくてよかったと思う。車種がプリウスだったのでシンガポールでミサイル発射となっても困るのである。乗車中ずっと自動音声が「Drive Carefully.」と喋り続けていたので、やはり客観的に見て危険運転だったことは間違いない。
支払はどうするのかと思っていたらタクシードライバーがホテルのフロントに請求書を持っていき、ホテルが一旦建て替えるという方式だった。タクシー代はホテル経由でSQに請求されているのだろう。フロントにバウチャーを渡したら普通に泊まるのと同じ手続きが完了し、部屋へと案内された。おそらくそれほどグレードの高い部屋ではないのだが、そもそもホテルのグレード自体がこれまで私が泊まっていた1泊2000円くらいのホテルとは比べ物にならない。あとで調べたら1泊3万円近くするホテルだった。シャワールームの床がベタベタしていることもないし、スリッパは使い捨ての新品が置かれているし、お茶もコーヒーも3種類くらいずつあるし、水は冷蔵庫に入れられているし、何より部屋に入った段階で冷房が効いている。最後の点がとても重要で、暑い東南アジアでホテルに入っても部屋が涼しくないというのは勘弁してほしいものである。私は出かけるとき、適当なプラスチックカードをホルダーに差しっぱなしにしてエアコンをつけたまま出かけることも多い。良い子は真似をしてはいけないのだが。
チェックインの時に判明したのだが、何と今回の滞在には3食分の食事が付いていた。結局朝しか食べられなかったのだが、それなりに高級なホテルの朝食をタダで食べられるというのは素晴らしい。普通に食べたら36ドルするらしいので、およそ4000円の朝食である。
朝食をたらふく食べた私はシンガポール見物に出発した。チェックアウトの時間を聞いたら決まっていないからいつでもいいというので、部屋に荷物をすべて置いたままスルタンモスク、空軍博物館、植物園、マーライオン、マリーナベイサンズを見て回り、ホテルに戻ってシャワーを浴びることができた。おそらくこの便の乗客の中で最も恵まれた環境で飛行機に乗ったのはこの私である。
ホテルで夕食を食べようと思っていたらレストランが7時に閉まっていたので食べ損ねたことだけが心残りだったが、タクシーで空港に向かうことにした。別にここからならバスとMRTを乗り継いで空港に行くのは簡単なのだが、タクシーに乗っていいと言うので乗ることにしたのである。危うくフロントで「Please call me a taxi.」と言いそうになったがしっかり「Please call a taxi for me and I will use my voucher of Singapore airlines.」と言うことができた。「はじめてのおつかい」である。普段はGrabをアプリ上で呼ぶことしかしないのでタクシーを呼ぶ、しかもホテルに呼んでもらうなどと言う経験は初めてだった。やってみたら簡単である。
帰りのタクシー代はどうするのかと思っていたらフロントの人が封筒にお金を入れて渡してくれた。これをそのままタクシードライバーに渡せば空港に連れて行ってくれる、と言われたのでタクシーが来るのを待ち、封筒を渡したら中身を確認したドライバーが「ああ、なるほどね」という感じで走り出した。行灯が載っているタクシーではなかったので空港定額タクシーみたいなものがあるのかもしれない。タクシードライバーが「飛行機乗れなかったの?」と話しかけてきたのでことの顛末を話したら「ホテル代は誰が払ったのか」と聞いてきた。みんなここが気になるようである。SQが払ってくれた、と言ったらYou are lucky.と言われた。みんな同じ反応ばかりだ。まあ、客観的に見てもラッキーなので当然と言えば当然なのだが。
フライト前に天丼屋に入ったら食事中に閉店準備が始まり、みそ汁を飲んでいたら「あと2分で出ろ」と言われたのでみそ汁と茶碗蒸しを爆速でかきこむことになってしまったが、何はともあれイミグレを通過してゲートに向かった。ゲートはターミナルの端っこだったのでのんびり散歩して、ハイデラバード行きのフライトを待っている大量のインド人に囲まれながら、やはりインド人というのは全身からスパイスの匂いがするなということを考えていたのだが、どこの国の人でもその国の匂いというものがあるように思う。ちなみに日本人は醤油の匂いがすると言われているらしい。
「搭乗開始します」というアナウンスを聞いた私はトイレに向かうことにした。飛行機が巨大なので搭乗開始から私が乗れるようになるまでだいぶ時間があるはずだ、と見込んでギリギリまでセキュリティチェックを受けずに待っていたのだが、ようやく重い腰を上げたわけである。セキュリティチェックの後でやはり待たされたのでリュックを枕に寝ることにした。いつでもどこでも寝られるのはいいことである。
ボーディングブリッジを進んでいくと、A380の巨大な機体が視界に飛び込んできた。2020年3月にエミレーツで乗って以来、およそ4年ぶりのA380である。ここ数年の需要減を乗り越えて何とか生存したA380に乗れる喜びを噛みしめながら搭乗した。1階のL2ドアから乗り込んだので一旦機体の最前部に移動して階段の写真を撮っていたらCAがこちらを見て微笑んでくれたので微笑みを返して、自分の席に向かった。前日にハノイで指定された席がフォワードシートだったのでエンジンのほぼ真横のシートだった。ハノイのスタッフが気を利かせてくれたのか、偶然なのかは知らないがありがたい限りである。
肝心のフライトはどうだったかというと、正直なところほとんどの時間は寝ていた。6時間半のうち4時間半くらいは寝ていたと思う。10000ftに到達した記憶がないのでその前に寝ていたはずだし、到着前に機内食を配達しに来たCAにたたき起こされるまでは寝ていたのでおそらく睡眠時間はこれくらいである。
ちなみにシートは新しいものに変えられていたようで快適なシートだった。シートピッチも以前の777-300ERよりも明らかに広かったし、座席の幅もさすがA380と言うべき恵まれた環境だった。機内食はオムレツと西京焼きから選べたのでオムレツを選んだが、おいしい機内食だったと思う。
機内食の片づけが終わったら上空41000ftで「まもなく着陸します」という意味不明な放送が入り、そのアナウンスの後で飛行機は降下を開始した。SQらしからぬミスである。結局その40分後くらいに飛行機は成田空港に着陸した。雨だったのだが、着陸したのがわからないくらい滑らかな着陸だったのが印象的で、今まで経験した中で一番と言ってもいい滑らかな着陸だった。
コクピットを見せて欲しいと頼んだのだがこの日は追加でやらなければいけない作業があったらしく断られてしまったのでターミナルの中をダラダラ歩いて入国審査に向かうことにした。どうせ荷物はなかなか出てこないので色々な飛行機を眺めながらのんびり歩いていたらなんと搭乗機のクルーにも追い越されてしまったのだが、ちょうど荷物が出てきたくらいのタイミングでバゲージクレームに到着できたので私のタイムマネジメント能力の勝利である。そういえば、税関の前にいる存在意義のわからないオジサンオバサンたちは何なのだろうか。
成田エクスプレスに乗ろうと改札に向かう途中で充電器を挿したまま放置されているスマホを見たとき、ようやく帰国した実感がわいてきた。二週間の海外旅行を終え、無事(?)に日本に帰ってこられたという余韻を感じながらJRのホームに行ってみたら成田エクスプレスが全便運休していたのはまた別の話である。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?