見出し画像

台湾で新幹線に乗ってみる(台湾ぐるっと一周記③)

 3月25日、私はめでたく日本に帰ってきた。3月14日に日本を出発して、12日間も台湾に滞在していたことになる。台湾に行っている日本人はたくさんいるが、12日間も滞在している人はそういないだろう。大体の日本人は台北に行って夜市に行き、故宮博物院を訪れて白菜と肉を眺めているだけである。私はせっかく台湾に行くのでまずは一周してみようと思い立ち、実際に一周してきた。台北、花蓮、台東、高雄と主な都市を周遊し、澎湖諸島にも滞在した。私は人が思いつかない旅行をするのが好きなので、タイでやベトナムで夜行列車に乗ってみたり、カンボジアで路線バスに乗ってみたり、変なことばかりやっているのだが今回は割と常識的なことしかしていない気がする。
 帰国したときに思ったのだが、どうも台湾はあまり海外に行ったなという感じがしなかった。台湾に行くのはもちろんパスポートがいるわけだが、全く海外に行って帰ってきたという感慨のようなものがなかったのである。これは私が海外に慣れてきてしまっているからなのか、台湾があまりにも日本らしすぎるからなのかはわからないが、沖縄に行って帰ってきたような気分でこの旅行記を執筆している。台湾は本当に日本のような雰囲気で、セブンイレブンとファミリーマートがそこら中にあり、街行く人も日本人と似ているし、街中も列車の中も静かで綺麗だった。賄賂を要求されることも、バスに乗って命の危機を感じることも、薄汚い野犬に追いかけられることもないのは平和でいいのだが、同時に私が海外に求めている刺激は少し足りなかったようだ。今度はもう少し刺激的なところにいきたいので、中東が良いかなと思っている。
 さて、今日は台湾新幹線の話をしていこう。PCは例によって「台湾新幹線の話を指定校」などと意味不明なことを言っている。前から記事の中で何度か指摘していることだが、私のPCの予測変換は明らかにおかしくて、「~ということにしたい」は「死体」と変換されてしまうし、「~していこう」は「指定校」になってしまう。誰か私のPCに正しい日本語を教えておいて欲しいものである。

これは台北で見つけた、顎からジュースを飲む謎の人形である(写真と本文は関係ありません)。

台湾新幹線とは

 そんなことはさておき、台湾新幹線の話である。台湾では、首都であり最大の都市でもある台北と、南部の台湾第二の都市である高雄の間に新幹線が通っている。台北から高雄まで、最速達列車で2時間くらいである。台湾の国鉄を臺鐵と呼ぶのに対して、新幹線は高鐵と呼ばれており、「Shikansen」と言っても全く通じなかった。英語で言うと臺鐵が「TRA」、高鐵が「HSR」ということになるのだが、こちらなら通じる。ちなみに「捷運」と書いてあったらMRT、「軽軌」と書かれていたらLRTのことである。漢字を見ただけで何となくどういうものか想像がつくというのが台湾の便利なところだ。
 台湾新幹線は、日本の東海道新幹線をベースにJR東海とJR西日本が共同開発した車両を用いている。車両の形式が「700T型」というところからもわかるが、ベースは700系だ。営業運転における最高速度300km/hを誇り、勾配にも強い輸出用の新幹線である。先頭車両の形状は700系のようでいて700系ではなく、乗務員室の扉がないのが特徴だが、客室内の雰囲気は完全に700系そのもので、2-3の座席配置も、シートの形状も、座席を回すための東条英機も丸ごと東海道新幹線だ。窓は日本の新幹線よりも大きいように感じた。景色がよく見えるのは素晴らしい。まあ、私は営業運転している700系には乗ったことがないのでリニア・鉄道館に置かれている700系と比較するしかないのだが。いずれにせよ、日本の技術の粋を集めた新幹線と似たようなものに乗ることができるというわけだ。ちなみに東海道新幹線は16両編成だが、台湾新幹線は12両編成である。
 しかし、全部が日本製かというとそんなことはなくて分岐器はドイツ製で無線はフランス製、トンネルなどの構造物もヨーロッパのシステムが基準になっている。元々フランスのシステムを導入しようとしていたら国際関係や自然現象が絡んだ紆余曲折を経て日本の新幹線が選ばれ、総合商社や重工メーカーが立ち上げた合弁会社にJR東海とJR西日本などのスタッフが技術支援を行い、システムを作り上げていくということになったのである。トンネルのサイズの割に車両が小さめになっているのはこれが原因らしい。

先頭車両の造形は単純である。

きっぷを購入

 座席の構成も日本の新幹線と同じである。グリーン車に相当する商務席と、指定席、自由席がある。グリーン車は一両だけで、残りは全部普通車だった。今回私は普通車の指定席を利用したが、乗車率が高いので指定席にしておくのが間違いないと思う。台鐵だと空いている席は使ってもいいというのが暗黙の了解になっているが、高鐵にそのルールが適用されるのかはわからない。日本の新幹線の場合、自由席特急券で乗っている人は指定席の空席は使えない、という運用だがそれが台湾でどうなっているかは謎である。
 きっぷはインターネットで購入できる。もちろん駅で買うこともできるし、券売機だってあるのだが、わざわざ現地で買う理由もないからネットで手配してから出かけることにした。高鐵のホームページは日本語対応なので、操作に困ることもない。航空会社とタイアップした割引チケットもあるようなので、見てみるといいことがあるかもしれない。
 ただし、インターネットで購入したきっぷは現地に行かないと発券できないので要注意だ。しかも、台鐵の駅ではなくて高鐵の駅に行かないと発券できない。日本だと在来線と新幹線を同じ会社が運行しているので在来線の駅にある指定席券売機で在来線のきっぷも新幹線のきっぷも買うことができるが、台湾の場合は台鐵と高鐵は別物なので在来線のきっぷは台鐵の駅で、新幹線のきっぷは高鐵の駅で買う必要がある。その引き換えも出発30分前に締め切りになるようなので時間には余裕を持っておいた方が良いだろう。私は高雄に二泊したので、乗車日前日にきっぷの受け取りに行った。予約番号とパスポートの番号を入れるときっぷが発券される。日本の紙の乗車券とは少し違う、テレホンカードのような材質のきっぷだった。ちなみに日本の改札と違って出場時にもきっぷが出てくるので、記念に持ち帰ることができる。

改札に通す前なのにもう穴が空いていた。

いざ、乗車

 乗車当日、私は出発時刻の30分くらい前に駅に到着していた。日本で新幹線に乗るときはどんなに早くても15分前にしか行かないが、何となく楽しみで早く着いてしまったのである。駅に停車している車両を眺めていたら、出発時刻15分前に乗車する編成が入線してきた。完全に時刻通りの到着である。これは高鐵に限った話ではなくて、台鐵も定時性にはかなり優れていた。さすがに日本のように15秒刻みで走っているわけではないと思うが、やはり国民性が似ていると列車の運行も似てくるようである。
 ちなみに、高雄から高鐵に乗るなら出発駅は「左営」という駅になる。台鐵の左営とは別物なので要注意だ。これがかなりややこしくて、台鐵の左営は台鐵しか通っていないのに、高鐵の左営には台鐵とMRTが通っていて、その駅名が台鐵だと「新左営」、MRTだと「左営」になるという鬼畜仕様である。私も実際に二つの駅を訪問するまで何が何だかさっぱりわからなかった。とにかく、高雄から新幹線に乗るときに台鐵で新幹線の始発駅に向かうなら「新左営」で、MRTで向かうなら「左営」で降りればいいのだ。

700系だよと言われたら信じてしまいそうだ。

 新幹線と言えば「新幹線劇場」とも呼ばれる折り返し作業が名物になっている。折り返しの6分間だか7分間だかで車内の清掃を仕上げるというアレである。では台湾ではどうか、と思っていたらさすがにそこまでは輸入できなかったようで掃除にはたっぷり12分くらいかかっていて、乗車できたのは発車3分前だった。ただ、ここが海外であることを考えれば掃除してもらえるだけでも感謝すべきだろう。ちなみに日本の新幹線だと清掃スタッフが入線してくる新幹線にお辞儀をするという意味不明な真心のこもったサービスをしているが、さすがに台湾ではそういうバカげたことはやっていないようだった。それにしても、列車に向かって頭を下げているのは全くもって意味不明である。

座席は東海道新幹線だ。

 列車は定刻通りに左営を発車し、順調に加速を続けて行ったわけだが、走り出してすぐにそのスムーズさに驚かされた。完全に日本の新幹線と同じで、静かに、滑らかに走っているのが印象的で、あっという間に250km/hくらいの速度に到達した。
 しかし、200km/hを超えたあたりから車体の揺れが大きくなる印象があったのでこの点は日本の新幹線と違う点である。ただ、私が知っている新幹線というのは東海道新幹線で言うとN700系以降のN700系、N700A、N700S、東北・北陸・上越新幹線で言うとE5, 6, 7/W7系なのでそもそも世代的にズレているのは否定できない。特にE5, 6系は普通車にもフルアクティブサスペンションが搭載されている車両なので単純に比較するのは少しかわいそうかもしれない。また、対向列車とすれ違う時の動揺は明らかに大きくて、体が揺れるくらいの振動が発生していた。ここは減点ポイントである。
 音に関してはよく抑えられていた印象で、たまに気になる場面はあっても普段通りに会話することができるくらいの騒音だった。高速域ではやはり音が気になる場面もあったが、全体として十分に許容範囲である。

これはグリーン車。

 車内の様子はどうかというと、先述の通り完全に東海道新幹線だった。座席もそうだし、照明や壁も、ついでにトイレも東海道新幹線にそっくりである。日本と違うところと言うと、客室の両端にスーツケースを置くスペースが設けられていることくらいだろうか。東海道新幹線で言うところの特大荷物スペースにあたるスペースだが、それを無料で使えるというのはありがたい。ただ、成田エクスプレスの荷物置き場のように鍵がかかるわけではないので、なくなって困るものは置かない方が良いだろう。私はスーツケースを持って移動するときはパソコンとタブレット、パスポートは必ずリュックに入れて常に手近に置くようにしている。荷物を移し替えるのは面倒だが、海外に出るときの最低限のコストである。

東條英機も健在である。

 車内販売もあって、カートを押して販売員が歩き回っていた。あまりきちんと見ていないが、売っているのは水とお菓子くらいだったと思う。日本のようにお土産を売っているということはなかったはずだ。もちろん時代の先端を行く雑誌も販売していなかった。書いてからふと思ったがこの表現で通じる人は相当な頻度で東海道新幹線を使っているか、鉄オタかのどちらかだろう。
 左営を10時ちょうどに発車した私の列車は、11時半過ぎに桃園駅に到着した。ここは桃園国際空港を利用する際の乗換駅になっていて、ここまで来ればMRTで空港まで行くことができる。大勢の人が大きなスーツケースを引きずって歩いているので高鐵の構内もMRTの構内も大混雑だったが、何とかMRTでも座ることができて、私は無事に桃園国際空港に到着し、帰国便に乗り込むこともできた。

トイレは綺麗に清掃されていた。

 さて、一連の乗車の中で台湾新幹線のすごさを感じた一方で、日本の新幹線がいかに素晴らしく、偉大なものであるかということを実感することになった。JR東海が60年間磨き上げてきた新幹線という高速列車を安全に運行し、乗客に快適な時間を提供する技術はやはり日本の宝と言うべきものである。私はドイツのICEにも乗ったことがあるが、台湾新幹線はそれと比べても高速で、快適な乗り物だったのは間違いない。しかし、その一方で進化を続けている新幹線と比べると陳腐化している印象があったのもまた事実だ。どうしても自社で開発をできる会社とできない会社の間には超えられない壁が存在するのである。
 そんなわけで日本の新幹線のようにいっている部分も行っていない部分もある台湾新幹線だが、2026年以降に新型車両が順次導入されていく計画があるようなのでそのころにまた台湾を訪問し、乗車してみたい。台湾は国内旅行のようで退屈さを感じる場面も多かったが、特に自然環境の雄大さには圧倒され、心惹かれたので次回は台湾の自然地形を巡り、そのついでに進化した高鐵で旅をしたいと思っている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?