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『アメリカ暮らしの素人投資-5: ゲームストップ株で何が起きたか』

1月後半に株価が異常なレベルに上がり、大騒ぎになったアメリカのゲームストップ(Game Stop)株。安値時には数ドルだった株が一時は483ドルまで急騰しましたが、2月に入って急落しました。

我が家の近くにも店舗がありまして、子供にせがまれて時々行っておりましたが、そこはクリスマスシーズンの直後に閉店となりました。「あー、コロナ禍を生き残ることができなかったんだなぁ・・・」と、しみじみしたばかりでした。

ゲーム用DVDやコンソールなどの新品・中古を販売するお店で、オンラインでゲームをダウンロードすることが主流となった今、時代の流れに乗れなかったのは明らか。「ゲームストップ終わったわ」と思ったばかりでしたので、株が急騰したのには心底驚きました。

そのゲームストップ株がファンダメンタル(根本的な企業価値)的に根拠なく急騰したのは、SNSサイトレディット(Reddit)で株を買う動きが盛り上がったからです。レディットには、手数料無料で株の売買ができる投資アプリのロビンフッド(Robinhood)を使って投資を始めたミレニアル投資家ロビンフッダー(Robinhooder)たちが多く集まっていました。

*私もこれらロビンフッダーがレディットで交わすチャットを読んでみましたが、いきがったにーちゃんたちがスラングをがんがん飛び交わしてる場でした・・・。どっひゃー、テストステロン(男子ホルモン)のにおいぷんぷん・・・って感じで、ワタクシは即退場しました。

もとい。

この株価急騰の背景にはいろいろ複雑な事情がからみあっています。

そもそもゲームストップ株は値下がりを予想したヘッジファンド会社(さまざまな取引手法を駆使して市場が上がっても下がっても利益を追求するプロの機関投資家集団。基本顧客はかなりの大金持ち。)が空売りを仕掛けていました。空売りとは、よそから株を借りてきていったん売り、一定期日までに買い戻して株を返す取引です。買い戻す際に株価が下がれば、差額が利益となります。

そのヘッジファンドの動きに対して、ロビンフッダーが買いに回るようにインターネットで呼びかけた結果、株価は急騰し、空売りしていたヘッジファンドは大打撃を受けました。

機関投資家やヘッジファンドなどプロたちの独壇場の株式市場で、個人投資家がプロを打ち負かしたことを称賛する声も多くあがりました。

ですが、この動きをはたから見ていた私は「これ、バブル時代に起きていたことの小さな小さな縮図版みたいだな」と思っていました。

バートン・マルギール著の「ウォール街のランダム・ウォーカー」と呼ばれる大ベストセラーの投資指南書に、アメリカで90年から20年初頭にかけて起きたインターネット・バブルについて書かれた章があります。多少文章を省略しつつまとめると以下のようになります。

バブルはネットブームに関係が深いと思われる銘柄が買い上げられることから始まる。株価が上がり始めると、さらに多くの投資家がそれらの銘柄を買い始め、それをテレビや雑誌が盛んに取り上げる。これにより広範な投資家が引き寄せられることになる。こうして初期にゲームに参加した投資家は、大きな儲けを手に入れる。彼らは金もうけがいかに簡単かを自慢げに吹聴して歩き、それを耳にした多くの人々がゲームに参加し、株価は一層上昇する。

しかし、これは結局のところ「ポンジ・スキーム(ねずみ講)」そのものであり、ブームを持続するためにはますます多くのお人好しの投資家を引き入れて、株を転売し続けることが必要なのだ。問題は「より馬鹿」な投資家の供給には限度があるということだ。

実際、ゲームストップ株を買うように煽ったレディットの主要投稿者には自称アマチュアでも実はプロの投資家がいました。また大損をしたヘッジファンドもありましたが、一方で大儲けした別のヘッジファンドもいました。

つまり、「アマチュアの個人投資家がプロの機関投資家を打ち負かした」という説明は100%正しかったわけではありません。

実際、このブームに気がついてから慌てて株を買ったロビンフッダーの大半は損をして終わったと言えます。つまり、初期にゲームに参加した投資家は大儲けをし、「より馬鹿」な投資家は損をして終わったということです。

自分たちが何をやっているかわかっていた(ずる)賢い胴元と、すごい確率で幸運をつかんだ一部のアマチュアだけが儲け、残りは熱狂的な祭りにのせられて損して終わったように私には見えました。

問題は、自分はどちらだと思うのか?

ってことです。私自身はゲームストップ株には興味がありませんでしたが、例えばバブルが起きているときに、いつ雰囲気に飲まれて安易に株を買わないとも言えません。バブルの問題は、今がバブルであると理解することは難しく、かつバブルだとわかっていてもそれがいつはじけるかは誰にもわからない、ということです(プロでも難しいのです)。

素人の私は、間違いなく「より馬鹿」グループ所属です。

情報収集力・分析力に優れ、また資金管理に優れる機関投資家を出し抜いて自分が個別株で勝てるとは到底思えません。勝つことがあるとするならば、それは幸運が重なったときの宝くじを当てたとき。ですがくじ運が悪い私は、宝くじで老後資金など貯えを作る気には到底なれないのです。

だからこそ、勝たなくても負けないように投資するにはインデックスファンドのような少ない手数料の投資信託を使い、

(1)分散投資を
(2)長期にわたって
(3)低コストで行う

ことをすべきだと思っています。

特に、ネイティブスピーカーでもない外国人が、たとえその国に住んでいたとしても、情報取集に優れたプロの機関投資家に勝つリターンを出すのはほんとに難しい。

ちなみに「ウォール街のランダム・ウォーカー」では、プロであっても株価の予測をするのがいかに難しいかをこれでもかと説明し、だからこそインデックスファンドをドルコスト平均法(定期的に一定額で株や債券を購入し続ける手法)で購入することが大切であると説明しています。今は第12版まで来ている大ベストセラーです。

また、なぜ個人投資家はインデックスファンドに投資をして、それをひたすら持ち続けるべきかを詳しく説明したチャールズ・エリス氏の「敗者のゲーム」も現在6版まで出ている名著です。

普段本を読まない人、また金融の知識がそれほどない人がこれらの本からいきなり入るのは難しいかもしれませんが、一生に一度は読むべき名著だと思います。

世の中には尋常ではないリターンをもたらす秘策を語った投資本やウェブがあふれています。そういった本ははなから信用すべきではない、ということが日米問わずきちんとした投資解説書には書かれています。

正直これは、たまたま金の鉱脈を当てた(か当てたふりをした)人が、金脈マップやツルハシを売ってお金儲けをしようとしているだけなのだと思います。あなたに儲けて欲しいのではなく、あなたで儲けようとしている。そういうハイリターンを謳う本を買ったからと言って、同じように大きな金脈を当てることはほぼほぼ不可能と言うわけですね。

ちなみによく日本では「お金に関する教育が家庭や学校でなされない」と言う方がいますが、アメリカでもまったくもって同じ嘆きを聞きます。つまりどこでも「お金についての教育不足」は同じこと。

ただ、日本よりもずっとアメリカ株が好調であったこと、401(k)への移行が早かったこと、もともと安定化志向が日本よりも弱いことまた、多くのミレニアムは多額の学生ローンを抱えていて普通にコツコツ働いているだけではいつまでたってもお金がたまらないなどの事情もあって、投資が日本より少しは身近かもしれません。

いずれにせよ、ファイナンシャルリテラシーというのは、どこの国においてもだいたいが一部の人(主に知識階級であったりお金持ちであったり特権階級)のものってことなのでしょう。だからこそ、平民は勉強し、地道に実践するしかないと思います。

が、言い換えれば、日米など民主主義の国においては、書籍などに情報は山ほどあるのです。問題は良質な情報とそうではない情報を見分けることができるように、ある程度の量を読まねばならないということですね。(と言っても、良著を3-5冊繰り返し読めば基本的なファイナンシャルリテラシーはつく!)

また、さんざん素人が個別株に手を出すなと書きましたが、老後資金ではなく(ここ重要!)、失っても構わない程度のお金でなら個別株を買い、体験すること自体には私は賛成です。身銭を切って勉強して始めてわかることもありますし、ね。

ですが、株は難しくてよくわからないと悩むならば、個別株になんか手をださんでよい!インテックスファンド買っとけ!と割り切れるとも言えます。

<英語メモ>
空売りする: sell short
機関投資家: institutional investor
個人投資家: retail investor

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