見出し画像

長編小説『凸凹バラ「ストロングリリーフ」ミシェルとランプ』58

イナモンは腕組みをして考え込んだ。

カルダモン商会の商売敵の
マカロン商会が言うことではあるが、
ホイップの調べに嘘はないだろう。

イナモンは、カフィーが
危険人物だと勘づいている。

ついにこうして行動に移して、
宣戦布告をしてきたのか?
だがむろん、確実な証拠は無い。
文字通りの「幽霊館長」カフィーは、
容易に尻尾を出さないだろう。

彼は、三角形の身体の商館長に、
ダマクワスの反乱が
どう鎮圧されていくのか、見立てを聞いた。

「最終的には、
クワス市長が抑え込むでしょうな。
ただ、もう少し時間がかかる。

仮に反乱を鎮圧したとしても、
すぐには落ち着かないものです。
見えないところで
不届き者が暗躍する可能性も高い。
また、他の都市にも騒動が波及していって、
反乱軍の勢いが盛り返していく恐れもあります。
いま、ダマクワスに寄港するのは危険ですな」

「…あなたたちは、これから
どこに向かうのですか?」

「本業の貿易がありますのでね。
船団を率いて、本国である
トムヤム君民国、カトルエピスの港に向けて
航海するところでした。
市長からも、万一、港や船に被害が及ぶ前に
出港したほうがいいと言われたのです。
そうして出港したら、
ちょうど皆様の船と出会った」

イナモンは迷った。状況はわかった。
カヌーレとホイップの見立てに、
不審なところはない。
二人の姫君と教育係を、
俺は守らなければならない。

さて、どうする?

「…少しだけ、お時間を
いただけますでしょうか」

「どうぞ、どうぞ。私たちはその間、
船長と話をして参ります。
しばらくこの船にお邪魔させていただきますよ。
何かお役に立てそうなことがあれば、
お声掛けください」

カヌーレとホイップが去ると、
イナモンは自室に三人を呼んで、
これからに向けての
作戦会議をすることにした。

怒りで上気しているパンナ。
「犯人」にでっち上げられて、
暗く沈んだ様子のココロン。
心配で青ざめているロッカ。
駱駝色、黒色、黄色の髪に、
赤色、灰色、青色の表情のコントラスト。

イナモンは、彼女たちに
意見を聞いていった。

「パンナ姫はどうすれば良い、
と思われますか?」

「うちか? ちょっと手間やろけど、
ボジョンヌの港に
戻ったほうがええ、と思う。
兄上はまだ、この状況を
詳しく知らへんやろ。

急いで戻って、
ピノグリア大公国で様子を見る。
盟王はんも、すぐに
手も打ってくれるはずや。
兄上に伝えて、護衛を多めに
回してもらえれば、まず問題はないやろ。
うん、大丈夫やで!」

イナモンはうなずくと、
今度はココロンに同じ質問をした。

「…私は、あえてダマクワスの
港に入ったほうが良いと思う。
汚名を着せられて、何もせずに
黙っているのは逆に良くない。
身の潔白を伝える。

クワス市長に協力して、
街の秩序が回復したら、
アルバボン、ガリカシスの両都市を
鎮めるのを手伝おう。
必要ならば、私が
自ら説明に向かっても良い。
両都市には兄上や姉上もいる。
それが、一番の近道ではないか?」

その意見を聞いたパンナは、
わざとらしくため息をつく。

「…はあ、これだから
世間知らずのお嬢ちゃんは困るんや。
自ら説明に行く、やて?
そんなん、捕まって
人質になったらどないする?

火事場に素人がのこのこと顔を出したら、
もっと燃え広がることもあるんやで。
あんたさあ、
王族の自覚が足らへんのやない?」

いきり立ってココロンが反論した。

「何ですって?
王族の自覚が足らないのは、
どこの姫君よ!
私は別に害されてもいい。
それを理由に父上が、その都市を
処断すればいいだけの話。

あなたたちまで巻き込むつもりはないわ。
一人で行く。
この国のことをよく知らない人は、
口出し無用」

「わかっとらんのはそっちや。
ええか。もしあんたの身に
何かあったらな、
もっと流言が広がっていくと、
うちは言いたいんや。
死人に口なし。
真犯人はココロンや!と流言が拡大する。

そうなったら、盟王はんも兄上も黙っとらん。
徹底的につぶしにかかる。
力ずくで異論反論を封じ込める。
それこそ何年もかかるやろ。
その混乱の中、万一、大将がやられたら?
国は終わりや。
誰かに何かをさせる者は、まず、
自分の身をこそ大事にするもんやで!」

「…誰でも、他人のことはよくわかるけど、
自分のことはわからないみたいね。
砂漠の暴れ駱駝、鉄砲玉のようなあなたに、
そんなことを言われたらめまいがする。
自ら先頭に立って進む者にこそ、
他人はついてくるものよ。
臆病者を助ける人なんていやしないわ!」

同時にそっぽを向く二人。

その時である。おずおずと、
ロッカが手を挙げた。

「はい、ロッカ君、どうぞ」

イナモン先生の指名を受けて、
ロッカは二人の顔を交互に見た後で、
口を開いた。

「…あのう、いっそ、
カヌーレ商館長にお願いして、
トムヤム君民国、カトルエピスの港まで
連れていってもらってはいかがでしょうか?」

思いがけない意見が飛び出してきた。
三人は目を見開いて、ロッカの顔を見た。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『凸凹バラ「ストロングリリーフ」
ミシェルとランプ』
作:ヒストジオいなお
絵:中林まどか

◇この物語は、フィクションです。
◇noteにも転載していきます。
◇リアクションやコメントをぜひ!
◇前作『凸凹バラ姉弟
ミシェルとランプ』の続編です。
(全6章のうち、5章まで公開)
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

次回はこちら↓

前回はこちら↓

よろしければサポートいただけますと、とても嬉しいです。クリエイター活動のために使わせていただきます!