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長編小説『凸凹バラ「ストロングリリーフ」ミシェルとランプ』57

5、波の上での作戦会議

船団の船は、いずれも恐ろしく大きいものだ。
さすがはマカロン商会の貿易船。
イナモンたちの船も決して小さくはなかったが、
彼らの船に比べれば
大人と子ども、という感じである。

その大きな船から、小さな舟が出てきた。
こちらの船へとやってきたのは…。

「これは…商館長が自らいらっしゃるとは!
ご配慮、痛み入ります」

「なんの。ローズシティ連盟と我々は、
唇歯輔車、お互いに補い合う関係にあります。
盟王陛下の姫君と、
第一の腹心がいらっしゃるとあれば、
こちらから伺うのは当然」

マカロン・カヌーレという男が、
四人に向かって優雅に頭を下げた。
腹が少し突き出ており、
三角形の体つきをしている。
浅黒い肌に、黒髪の端正な顔立ち。
この男は、ローズシティ連盟における、
マカロン商会の総責任者の地位にあった。
イナモンとも顔見知りである。

彼の斜め後ろには、同じく
浅黒い肌に黒髪を後ろでまとめた
女性が付き従っていた。

「…ふむ、そちらさんは、姫君と腹心が
この船におると、なぜ知ってたんや?」

パンナが鋭く質問する。
カヌーレは笑顔をたたえたまま、
ゆっくりと答える。

「ええ、クワス市長からお聞きしておりました。
イナモン卿がココロン姫を
迎えに行っているのだ、とね。
そろそろこの港に戻ってくる頃だから、
もし船団がすれ違うことがあれば、
ご挨拶をしてはいかがかと、
そっと教えていただいていたのですよ」

そう答えたカヌーレは、
改めてじっとパンナの顔を見る。

「…失礼。イナモン卿、
こちらのお方はどなたでしょうか?」

「ほう、カヌーレ館長におかれては、
初めてお会いするのでしたかな。
こちらは、ピノグリア大公の姫君、
シャー・パンナ様でいらっしゃいます」

「お初にお目にかかる。よろしゅうに」

カヌーレは、この船に隣国の姫君まで
乗っていると知って、驚いた様子だった。

「これはこれは、知らぬこととは申せ、
失礼をいたしました!
私はマカロン・カヌーレ。
マカロン商会の商館長を務めております。
こちらは秘書のボンボローニ・ホイップ」

後ろに立っている目元の涼やかな女性が、
控えめに会釈をする。

「それで、カヌーレ館長。
ダマクワスで、いったい何が
起こっているのですか?」

今度は、ココロンが質問をした。
カヌーレは表情を曇らせ、質問に答える。

「…不届き者たちが、
クワス市長たちに反旗をひるがえして、
立て籠もっているのですよ。
市長たちは反乱軍たちを鎮圧しようと、
懸命に動いてはおりますが、
もう少し長引きそうですな。
今はまだ、港に入らないほうがよろしいかと」

四人は顔を見合わせた。
ロッカが、おずおず、という感じで聞く。

「長引きそう、ということは、
反乱に参加した者たちが多い、
ということですよね。
市長に対して反乱を起こしたとともに、
盟王陛下に対しても反乱を起こした、
ということですか?
なぜ、反乱軍は反乱を起こしたのでしょう?」

ダマクワスは、連盟の一員ではあるが、
独立した都市国家でもある。
クワス市長の統治に対しての
小規模な反乱に過ぎないのか、それとも
連盟全体に対しての大規模な反乱なのか。

ロッカに聞かれたカヌーレは、
言い淀んで即答しない。

「それは…」

言おうか言うまいか迷っている、という表情。
そこに、後ろに控えていたホイップが、
はきはきとした口調で、彼に進言した。

「商館長。いずれはお耳に
入ることでございます。
お早めに皆様にもお伝えしておいたほうが、
何かとよろしいのではないでしょうか?」

「うむ…、そうか、確かにそうだ」

うなずいたカヌーレは、ホイップから
一枚の紙を受け取り、それを四人に見せた。

「実は、先日来から、
このような怪文書が街に出回っていたのです。
なに、流言飛語のたぐいだと思いますがね。
陰謀論を信じたがる輩は、
どこにでもいるもの」

ここで初めて四人は、
カルダモン商会のカフィーが発した
流言を目にしたのである。
文書の中身を真っ先に否定したのは、
他ならぬ大公の娘であった。

「なんやこりゃあ。失礼にも程があるで!
ココロンが、父上と
ニューグリーン商会の幹部を
害した犯人やと…!
カヌーレはん。まさかあんたも、
こんな与太話を信じたんやないやろな?

この子はな、むしろ被害者なんや。
我が国にわざわざ挨拶に来てもろうた時に、
曲者によって父上がやられたから、
海路でいったん帰国しようとしとるだけ。
ココロンが無実なのは、
他ならぬうちがよう知っとる。
誰や、こんなあほな噂をばらまいたんは!」

パンナの剣幕に押されて、
カヌーレはなだめるように、
何度もうなずいた。

「ええ、ええ、よくわかっております。
私はココロン姫を信じております。
アキナス殿も、皆様に
お会いしたらくれぐれもよろしく、
と申しておりました。
まあ、おそらくこれは、
二つの国の仲を裂こうとする、
幽霊か何かのしわざかと。
そうだな、ホイップ?」

「その通りです。私の調べによりますと、
おそらく噂の出どころは、
カルダモン商会です。
姿を表に見せぬ、カフィー館長の
企みかと思われます。

ただし、この流言は、
アルバボンとガリカシスの
両方面から同時に流れてきました。
この二つの都市を震源地として、
怪文書は相当な範囲に広まっている、と
考えたほうがようございましょう」

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『凸凹バラ「ストロングリリーフ」
ミシェルとランプ』
作:ヒストジオいなお
絵:中林まどか

◇この物語は、フィクションです。
◇noteにも転載していきます。
◇リアクションやコメントをぜひ!
◇前作『凸凹バラ姉弟
ミシェルとランプ』の続編です。
(全6章のうち、5章まで公開)
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