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読み返して分かる『プロゴルファー猿』の狂気

藤子不二雄Ⓐさん(以下Ⓐさん)の代表的な名作。
藤子・F・不二雄さん(以下Fさん)とは
ちょっとカラーの違う漫画を描かれている
Ⓐさんですが、その中でも断トツに有名な漫画!

本記事ではこの
『プロゴルファー猿』について、書きます↓

まず、作者のお二人の紹介を少し。

お二人がデビューしたのは、
1951年「天使の玉ちゃん」から。
当時高校生だったお二人が、
あるべきはずの手塚治虫さんの
連載が載っていない雑誌に向けて
「代わりに僕たちの作品を載せて下さい!」
と頼んで載せてもらったのがデビュー。

掲載時はあびこもとお、
ふじもとひろし名義でした。

後にこのお二人はコンビで作品を
生み出していくことになります。
Fさん、藤本弘さん。
Ⓐさん、安孫子素雄さん。
一人でやるより二人でやるほうがいい、
と合作を決意したのです。

最初は手塚さんにあやかって
「手塚不二雄」としましたが、
あまりにもそのままだったために
「足塚不二雄」にしました。
手塚先生の足元にも及ばない、の意味。
(このあたりは、司馬遼太郎さんの
「司馬遷に遼か(はるか)及ばない」
のペンネームにも似ていますね)

1954年、富山県から上京した二人は、
じきに「トキワ荘」に下宿します
(最初は江東区→豊島区のトキワ荘へ)。
ここは手塚さんが住んでいたのですが、
その転居後に同じ部屋に入ったのです。

…このあたりの経緯は、Ⓐさんの
『まんが道』に描かれているところですね。

このコンビは、1970年1月号から
「小学〇年生」シリーズに掲載された
『ドラえもん』の大ヒットなどもあって
有名漫画家になっていきました
(厳密に言えば、最初の大ヒットは
1964年の『オバケのQ太郎』ですが)。

…しかしそのうち、二人の作風の違いが、
徐々に明らかになっていきます。
人呼んで「白い藤子」「黒い藤子」。
Ⓐさんは「黒い藤子」のほうです。

1987年、コンビ解消。
各自で違う路線を歩んでいきます。
ここから、FとⒶに分かれる。
作品群もそれぞれの名義になりました。

例えば「オバQ」は共同名義。
「ドラえもん」は当初は藤子不二雄名義ですが
今ではFさんの名義になっています。

さて、ここまでが「藤子不二雄」さんの紹介。
では、ここから『プロゴルファー猿』について。

1974年から1980年の間に、
『週刊少年サンデー』で連載された漫画です。
その当時はまだコンビで活動中のため
藤子不二雄名義で、後にⒶさん名義になりました。

主人公は「猿」こと、猿谷猿丸。
少年漫画で、初のゴルフ漫画!

一言で言えば「賭けゴルフ」を生業とする
野生児「猿丸」が様々なゴルファーと
対決する漫画です。

…もう、このあたりの設定から
「黒い藤子」ことⒶさん全開ですよね。
少年漫画なのに「賭け」「ゴルフ」!
二重の意味でちょっと大人テイスト。

その中身も実はかなり生々しいものでして。

ラスボス的な存在は『ミスターX』です。
常に覆面をかぶり、その上に帽子と
サングラスをかける、異形の存在。

「フッフッフッ、猿君…」

と不気味な笑み(覆面なので表情は不明)
とともに登場しては、自分の配下の
「闇のプロゴルファー」たちとの対戦を迫る。
その敵たちも、いかにも少年漫画らしく
キャラが立っていて、最初のあたりだけでも

◆「コング・拳」(怪力の元野球選手)
◆「闇兵衛」(パットの名手)
◆「紅蜂」(肩にインコを乗せた美少女)

などなどエッジが効いているのですが、
何と言っても初期の敵キャラとして
圧倒的な存在感を出していたのは

◆『ドラゴン打ちの竜』
(香港からの刺客、功夫ゴルファー)

だと思われます。

いきなり初対面の猿に向けて
気合の一喝をかけて度胸を試してみたり、
なぜか上半身裸になって(功夫なので)
ヌンチャク型のドライバーでかっ飛ばしたり、
トンファー型のクラブで小技もできたりと、
もう、やりたい放題。
まさにブルー〇・リーのゴルファー版…。

その後も、インパクトのある敵キャラが
次々と出てくるのですが、
あと二人だけ挙げるとすれば、

◆『死神』(フェアウェイの殺し屋)
◆『鷹巣』(フラミンゴ打法の研修生)

ですかね…。

特に「死神」は文字通り
猿を「殺し」に来てまして、

プレイ中の猿を狙って打球を飛ばし、
その球が木に跳ね返って自分が死ぬ…という
衝撃的な最後を迎えます
(最後に正体を明かしていい人になります。
このあたりはぜひ原作でお楽しみください)。
あまりに悲惨な最後のため、アニメ版では
命が助かってゴルフ寺で修行する設定に
改変されています。

もう、この「死神」、ベタ塗りまくり。

彼が登場するとコマの80%は
黒いんじゃないか…というぐらい真っ黒。
喪黒福造より黒い。
「黒い藤子」の真骨頂キャラ。

「ブラックコーヒー通」の設定でして、
一口飲んだだけでコーヒー豆の配分%を
当て、店長にコーヒーをぶっかけると、
「釣りはいらねえよ」と一万円を渡して
「次に来るまでに美味いコーヒーを
出せるようにしておきな」と言って、去る…。
何とも香ばしいキャラに仕上がっております。

と、思わず語ってしまい、すみません。

これで「ゴルフ漫画界のジキル博士とハイド氏」
である「鷹巣」
まで語った日には
永遠に記事が終わらないので、まとめます。

アニメ版の「わいは猿や! プロゴルファー猿や!」
という主題歌の出だしの叫び
や↓

「旗包み」「岩返し」などのアクロバティックな
技に、どうしてもイメージが持っていかれがちな
このゴルフ漫画ですが。

中年世代になって原作を読み返してみて、
何というか、Ⓐ先生の
「狂気」にも近い「ゴルフ熱」が
凄まじい
ことに、改めて気付きました。

ゴルフ用語の解説が、異常に詳しい。
ジャック・ニクラウスはじめ
海外の伝説ゴルファーの逸話も異常に詳しい。

その内容は、令和のこの時代に読んでも
全く色あせておりません。
むしろ、今こそ読むべき漫画、ではないか?

中年世代の皆様、
また、元中年、これから中年の皆様、
ぜひ『プロゴルファー猿』の原作を
読み返してみてはいかがでしょう?

恵まれた環境で悠々プレイするセレブと
野生児の猿との残酷なまでの格差…。
ミスターXとの非情な契約に縛られ
闇の世界に堕ちたゴルファーたちの悲哀…。
プロテストに受からず夢をあきらめる
妻子持ちのゴルファーの悲痛…。

Ⓐさんは『魔太郎が来る!!』
『笑ゥせぇるすまん』などでも発揮する
ブラックな面を、実はこの「猿」で
存分に描いていた
のです。
これ、本当に少年誌で連載したの?!
というぐらいの密度で。
もしかしたらホラー漫画なのではないか、
というぐらいの迫力で。

子ども時代にアニメを見たり
原作を読んだりした時には気づかなかった
「世界の厳しさ、過酷さ、無常さ」が、
この漫画からは滲み出ています。


それこそが「黒い藤子」Ⓐさんが描きたかった
世界の闇、なのではないでしょうか。

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