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長編小説『凸凹バラ「ストロングリリーフ」ミシェルとランプ』78

「…陛下! 何を、…いったい、
何をおっしゃるのです!?」

「新しい酒は新しい革袋に
入れろ、と言うだろ?
新しい国が、もうすぐできる。
ピノローズ帝国という国だ。
その国の未来を担うのは、
お前たちの世代だ。俺じゃない」

自分に言い聞かせるように一つうなずくと、
盟王は三人に言った。

「先発投手だけがいつまでもマウンドに居座ると、
控えの投手がずっとベンチを温める。
それじゃだめなんだ。
俺の国には、何人もの力強いリリーフがいる。
そう、お前たちがな」

ここでココロンが、勇気を出して声を上げた。

「父上! 父上は私たちの国を、
ローズシティ連盟を
…お見捨てになるのですか?
私たちは、父上をまだ必要としています。
どうぞ、どうぞ一緒にお戻りください!」

父と娘の視線がぶつかり、
盟王はふと視線を逸らした。
その表情は、何かを
こらえているかのような、そんな表情だ。

黙って聞いていたデローアが、
ここで口を挟んだ。

「…ココロンさん。ドグリンはね、
見捨てるんじゃないのよ。
むしろ、あなたたちの国を守るために、
ここに残る、と言っているの。
そこはおわかりかしら?」

「…おい、デローア!」

「いずれ知られることでしょう?
この子たちには、もう話したほうがいいわ」

デローアは、三人の顔をじっと見つめると、
急に、にこっと笑った。

「ドグリンはね、この私と
外交交渉をするためにやって来たのよ。
トムヤム君民国との条約を結びにね。
私は条件を出した。
あなたたちの国で最も重要な人物を、
カトルエピスに常駐させて、
連絡係にするようにと。
保証人と人質も兼ねてね。
そこで彼が挙げたのが…」

はっと気づいたイナモンが、声を上げる。

「…陛下が御自ら、この国に常駐する、
ということですか!?」

「その通りだ」

イナモンは、思わずのけぞってしまった。
何という大胆な提案だ!
確かに連盟にとって、
これほど重要な人物はいないだろう。
大国、トムヤム君民国を動かす鬼手!

「さらに、もう一人つける、と
彼は言ったわ。それは…」

「デローア。全部言うな。
わかった、わかった。俺が言うよ」

彼女の言葉を引き取って、盟王は、
ずい、と三人の前に出てきた。

「さあ、考えてみろ。
ローズシティ連盟は
ピノグリア大公国と合併する。
となると、新しいピノグリア帝国の
連絡係は、俺一人では足りないな。
…どうだ、わかるか、ロッカ?」

急に名指しされて、
ロッカはびくっと身を動かした。
以前の彼女ならば、
つつしまやかに、謙虚に振舞い、
自分の意見を言うことは無かっただろう。

しかし彼女もまたこの旅で、
違う自分を見つけている。
イナモンやココロン以上に、
必死に考えを巡らせていたのだ。

「…申し上げます。
ローズシティ連盟からお一人、
盟王陛下がこちらにいらっしゃるとのこと。
とすれば、ピノグリア大公国からもお一人、
いらっしゃらなければなりません。
二つの国は、対等に合併するのですから。
両国の代表として、お二人」

イナモンとココロンは、
思わずロッカの顔を見直した。

「残念ながら、シャー・ルドネ大公陛下は
刺客に襲われ、こちらにいらっしゃることは
難しゅうございましょう。
リーブル王子は、大公の座を継ぐ。
とすれば残るは」

「…まさか、パンナをこちらに!?」

ココロンが、思わず声を上げた。

「正解だ、ロッカ。よく考えた!
その通りである」

盟王の笑顔につられて、
ロッカは照れ臭そうに笑った後、
はっと気づいて平伏した。
盟王は、今度はココロンに向き直る。

「この俺とあの駱駝姫が、
二つの国を代表してこちらに常駐する。
元々、あの姫はリーブル王子と同様、
トムヤム君民国に留学していた身なんだ。
特に問題はないだろう」

ココロンの目をじっと見て、彼は言った。

彼女は思った。
この厳しくも温かい眼力に、
今は亡き母上も
吸い寄せられていったのだろうか、と。

「王子とお前は結婚して、
新しい国の指導者となる。

何の心配もいらん。
チャンバが、ミシェルとランプ、
それにセインたちと組んで、
国内の『クリーンアップ』、
つまり大掃除をしてくれているんだ。
闇でうごめく見えない敵どもを
一掃していることだろう」

「見えない敵、ですか。
それはいったい…?」

ココロンの問いに、盟王は答えた。

「カルダモン商会の奴らだ」

憎々し気な声で、
盟王は吐き捨てるように言った。

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『凸凹バラ「ストロングリリーフ」
ミシェルとランプ』
作:ヒストジオいなお
絵:中林まどか

◇この物語は、フィクションです。
◇noteにも転載していきます。
◇リアクションやコメントをぜひ!
◇前作『凸凹バラ姉弟
ミシェルとランプ』の続編です。
(全6章のうち、5章まで公開)
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