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野球漫画『ドカベン』の山田と岩鬼
実に対照的な二人でした。

山田太郎は凄まじいスラッガーで
高校時代は七割、八割に届くかと
言われるほどの打棒!
しかし、セリフには重みがあり、
余計なことは(あまり)話さない。

まさに『無言実行』です。

対して岩鬼正美は物凄いパワーで
当たれば打球がすっ飛んでいくものの、
「悪球打ち」で、ど真ん中直球が打てない。
三振がすごく多い。
セリフだらけ、というキャラで
とにかくフキダシが多いんです。

まさに『有言実行』です。

二人が中学校で出会うところから
ストーリーが始まるのですが、
これほどまでこの作品が人気になったのは、
「好対照」のキャラ二人を
軸に据えたから
、とも言えます。

(もちろん、殿馬や里中など
他の魅力的なキャラや、強敵たち、
ファンタジーに見せてけっこうリアルな
野球劇なども理由で挙げられますが)

今回は、この二人になぞらえて、
『秘める』と『見せる』について書きます。

『秘める』とは、何かを持っていながら
あえてそれを見せない、さらさない、
これ見よがしにしない、ということです。

類語や連想語としては

◇『隠す』
◇『見せない』
◇『黙る』
◇『謎』
◇『切り札』
◇『耐え忍ぶ』

などが思い浮かびます。

山田太郎の話で言えば、
このキャラ、悠然と打ち、悠然と守る。
顔も非常に単純な描かれっぷり。
良く言えば泰然自若ですが、
悪く言えば外に出す表情に乏しい。


例えば明訓高校の一年目で
主将の土井垣から
色んな雑用をするように言われても
むしろ進んでやっている。
(妹のサチ子がなぜか手伝っていますが)

しかし、彼の中に闘志が無いわけではない。
むしろ野球に対する情熱と研究心は
作中で随一、と言ってもいい。
まさに『秘めた闘志』を持つ男です。

一方、『見せる』については
何か持ったものを外に表現する、
誰にでもわかるようにする、という
意味合いがありますよね。

類語や連想語としては

◇『明かす』
◇『魅せる』
◇『黙らない』
◇『明朗』
◇『さらす』
◇『耐えない』

などが思い浮かびます。

岩鬼正美の話で言えば、
とにかくこの人、思ったことを
すぐに口にする。

喜怒哀楽がとてもわかりやすく、正直。
弱点もバレバレで、モブキャラ投手にも
簡単に三振を取られてしまう。

例えば明訓高校の一年目であっても
主将の土井垣に
言いたい放題、何でも言っています。
三年目には明訓の主将になる。

まさに『見せる闘志』を持つ男。
自称、スーパースターです。

…このような対照的なキャラを出すと、
作劇がとてもやりやすいんですね。
作者もギャップ、対照的な視点において
物事を表現しやすいんです。
ドカベンの作者、水島新司さんも
二人の掛け合い(漫才?)を
楽しみながら描いていたのではないか。

私も、自分の小説などを書く中で
とても痛感しています。

…極端な話、キャラが「全員山田」だと
ホームラン連発でコールドゲームに
なるかもしれませんが、
まあ、作品としては成り立ちにくい。
はっきりいって面白くない。

キャラが「全員岩鬼」だと
フキダシがいくつあっても足りない。
全球ど真ん中ストレートで
三振二十七個で試合が終わってしまう。
これまた作品としては面白くない。

『秘めた闘志』と『秘めない闘志』が
「同時に」あってこそ、
そこに変化が生まれ、
対照的・多角的になり、
ストーリーが生じてくる
のです。

(余談ながら、名作バスケ漫画の
『スラムダンク』のキャラ設定でも
『ドカベン』が参考にされたと言います。
「桜木花道」と「流川楓」の対照的な
キャラ設定を考えれば一目瞭然。
もちろん、うまくパラメータと個性を
各キャラに振りわけてはいますが…。
※身体が弱いのに気が強い、という
里中キャラ特性は
「三井寿」がその役割を負っています)

さて、ここまで書いてきまして、
『秘める』と『見せる』のイメージが
何となく読者の皆様の頭の中に
浮かんできたでしょうか?

皆様は、相対するならどちらが好きですか?
『無言実行』『秘めた闘志』の山田?
『有言実行』『見せる闘志』の岩鬼?

皆様ご自身は、どちらですか?

…私は両極端の例として、誇張して、
山田と岩鬼を挙げました。

ただ、現実の世界においては、
『ケースバイケースで秘める』
『ケースバイケースで見せる』

ことが大半ではないか、と思います。
使い分け、ですよね。

常にどんな時でも
なんでも『秘める』ことは
他人に対して不安感、不快感を
与えてしまうことがあります。
何を考えているのかわからない、的な。
言いたいことがあるなら言えよ、的な。


常にどんな時でも
なんでも『見せる』ことも
他人に対して不安感、不快感を
与えてしまうことがあります。
それを言っちゃあおしめえよ、的な。
ちょっと空気を読めよ、的な。


『ドカベン』でも、同じチームに
この二人がいるからこそバランスが取れて、
強敵に相対することができるのです。

山田は、とてもクレバーです。理知的。
相手に怪我の状態を悟らせなかったり、
笑顔でえげつない投球のサインを
出したりして、「相手の裏をかく」ことを
(野球の試合上では)かなり行います。

岩鬼は、とてもパッションが強い。情熱的。
闘志をむき出し、言動は自由奔放、
味方を鼓舞するムードメーカー。
「相手に裏をかかれる」ことはあっても、
とにかく悪球を狙っていく。

…この『山田イズム』と『岩鬼イズム』を
現実世界の生涯では、一人で行っていく。


もちろん、会社内や家庭内であれば
自然と役割分担ができていくでしょう。
しかし自分の人生、一人旅、においては
うまくケースバイケースに応じて
使い分けていく必要がある、
とも思うのです。

最後に、まとめます。

本記事では『秘める』と『見せる』を
『ドカベン』の山田と岩鬼を例に挙げて
対照的に書いてみました。

おそらくですが、ご活躍されている方は
この『秘める』と『見せる』を
実に効果的にメンバーや場面に応じて
使い分けている。


すごく『見せる』のが上手な方でも、
すべて百パー見せているわけではない。
同様に『秘める』のが上手な方でも、
すべてを全部「隠している」わけではない…。

ただ「SNS全盛」の時代ですので、
「秘め方」と「見せ方」、特に見せ方のほう、
取捨選択、決めて出す、逆に決めて断つ、
そういったことは意識すべきだ、と感じます。


かく言う私も、まだまだ全然です。

皆様の秘め方、見せ方を参考にしつつ、
自分なりの個性に応じて
試行錯誤してみよう、と思っています。

※ちなみに『ドカベン』は
最初は野球漫画ではなく柔道漫画です。

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