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「行列リモコン~有機か無機か」ヒスイ毎週ショートショートnote 字数オーバー編

夕暮れどきのマクドは混んでいる。向かいに座っていたカレシの俊一が、ぺりぺりと紙コップの底を剥がしはじめた。
なかに、何か詰め込んでいる。

ニヤリと笑うと、空の紙コップを望遠鏡みたいにして覗いてきた。
「これ、『行列のできるリモコン』だぞ」
「はあ?」

俊一が紙コップ越しに、ぱちっとウィンクすると周囲の人がとつぜん立ち上がって並び始めた。
もう一度ウィンクすると、みんな、不思議そうな顔をして席に戻った。

底のない紙コップを受け取って、中をのぞく。ポテトのカケラやケチャップがついている。

「何の冗談よ、これ」
「いろいろできるぜ。テレビに向かってやってみろ」

ぱち。
するとスタジオにいるキャスターたちが一気に行列をつくった。
もう一度ウィンクする。
全員、首をひねりながら戻る。キャスターはあらためて説明しはじめた。

「えー、次のニュースです。今日は惑星が直線状に並ぶ『惑星直列』の日です。天文ファンの皆さん、お楽しみに。
また、水星の向こうに白色矮星が発見されました」

水星やほかの惑星と、よく見えない白色矮星が写ったとき、俊一がウィンクした。
ぱち。

「聞いたか、『惑星直列』だとよ。オカルトマニアが騒ぐぜー、世界の終わりってな」
「まじ? 『惑星直列』が起きると、引力のせいで潮の満ち引きが変わって大地震が起きるって言うじゃん」
「ばーか。たいした影響はねえんだよ」
「……白色矮星を計算に入れなきゃね」
「え?」
「通常は問題ないけれども、惑星直列に白色矮星や中性子星が加わる場合は、地球上の一点と中心との引力差が GMr/d3になり、距離の 3乗に反比例する。地球なんて引き裂かれるわ」
「おまえ、いったい何を言って……やばい、いまので白色矮星も行列する……! リコ、そいつを貸せ!」

俊一がひったくったはずみに、紙コップが破れた。
ひらりと床に落ちる。
俊一の顔面が蒼白になる。

「……嘘だろ、壊れた。リセットできない……地球の破滅だ―!!」

バタバタと走って逃げていった。
私はゆっくりと床から紙コップの残骸を拾う。

隣のカップルと目があったので、ぺこりと頭を下げておいた。

「すみません。彼、オカルトマニアなんです」

カバンを持って店を出た。

「あーあ。おバカさん。あんなもんで白色矮星の軌道が変わるわけないじゃないの。
 マクドの空コップとケチャップ+ポテトの組み合わせは『有機物限定・行列リモコン』の作り方。
『無機物対応』にしたければ、マスタードとバンズのゴマ2粒も、つけなきゃね」

私は破れた紙コップを張り合わせ、さらに取っておいたマスタードとゴマをはりつけた。

空を見上げて、ぱち、と一回ウィンクする。
白色矮星が軌道を変える。こっちへ近づいてくる。

「はい、これで地球の最後。それにしても、あんな男だったなんてね」

つぶやいてから、もう一度ぱちり。
白色矮星が軌道をもどってゆくのが、紙コップ越しに見えた。

あたしの恋も、ゆっくりと遠ざかっていった。

【了】(約1200字)

本日は たらはかにさんの 毎週ショートショートnoteからお題のみ借りております。
『行列のできるリモコン アオハル風味』。

ヘイちゃんは、きっちり字数内でおさめてますよ!

アオハルだなあ。
これこそ、アオハルだなあ♡

明日は シロクマ文芸部の日です。
ヒスイ、がんばります♡

ヘッダーはUnsplashKobby Mendezが撮影

参考サイト
あすとろん11号さま

https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/hosizora/astron/astron11/astron11_P24-27.pdf

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