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「結局は、聞いたことない きみの声」ヒスイのシロクマ文芸部+ イシノアサミさん・ひといろ展コラボ参加です

初夏の音を聴く。きみと二人で。
久しぶりに来た森は、緑に輝いていた。初夏の緑はミントのようで、色そのものが鮮やかに香った。

ピクニックシートに寝ころび、頭上の空を見る。
空はどこまでも青く、火星まで手が届きそうだ。青い空気の層の向こうに、赤く輝く星が見える。
地球から火星までのロケット音を耳の奥で聞きながら、きみが作ってくれたおむすびに手を伸ばす。海苔を巻いて口に入れる。
手の上でざりざりとこすれた海苔は、口に入れるとパリリとくだけて、無数の潮の香に変わった。
おいしい。

思わず笑うと、きみも微笑む。
手を伸ばし、僕の口元に着いた米粒をとる。軽くリズムを刻むように指を振って、それからパクリと口に入れる。
すぐに、顔をしかめる。
米粒についていた梅干しがすっぱかったみたいだ。
僕は笑う。
きみは怒ったふりをして、顔の前でおむすびみたいな三角形を作った。左右の手を顔の両側に分けると、手をすぼめて広げてから、両手でバツ印を作った。

『笑っちゃだめ』の手話。

だけどおかしくておかしくて、僕は大きな口を開けて笑った。
きみも一緒に笑いだす。まるで青空を振動させるロケットブースターみたいに。

僕の耳は、空気の振動をとらえないから、きみの声を聞いたことはないけど、それが初夏の音だってことは、わかってる。


僕にとっての初夏の音は、ミントの香りで、赤く輝く星に似ていて、舌の上で踊る海の匂いで。
結局は、聞いたこともない、きみの笑い声だ。



【了】

今日は #シロクマ文芸 に参加しています。

はそちゃんのは、これ。
サップグリーンのグラデーションが目に浮かぶような
ビビッドな作品です。



ということで(笑)、ヒスイもイシノアサミさんの 「ひと色展2023」コラボにも参加です。

ヒスイが選んだ色は「エメラルドグリーンノーバ」です。
人生って結局は
聞こえない音を探して聴く、みたいなことかもしれませんね。

#ひと色展
#シロクマ文芸部


ヘッダーはStockSnapによるPixabayからの画像

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