「金か翠か、迷った末に」ヒスイの毎週ショートショートnote

「一緒に、とりになりませんか？」

公園にいた若い男にそう言われて、僕は立ち止まった。
良く晴れた秋の夕暮れ。すべてが金色に輝いていた。
「……とり？」
「鳥です。今日は『誘惑の日』なんですよ」
とり、ゆうわく、ひ、何の事だ？　ヤバい系か？

ヤツは続ける。
「金は、年に１日だけなんです」
「……へえ、じゃ失礼」
「翠か金か、迷った末に決めまして」
「きん…純金？」
「時間だ」

突風が立つ。
青年はいきなり服を脱ぎ始めた。

「ちょ、あんた、やっぱヤバい系……ええっ！？」

突風にあおられ、路上のイチョウの葉が巻きあがる。
小さな渦を作り、青年にまとわりつく。
やがて黄金の葉は見事な翼を作った。

彼は笑って僕を見た。
「金の誘惑に、負けまして。では」

翼を持った青年は黄金の渦に巻かれ、秋の夕暮れへ消えていった。

後には翠の葉が一枚、落ちていた。
何か書いてある。

『金色の小さき鳥の形して
イチョウ散るなり夕日の丘に――
翠の誘惑は６月です』

僕は、六月までの日にちを数え始めた。

【了　（改行含めず419字）】

本日は　たらはかに　さんの #毎週ショートショートnote 　に参加しています。
お題は「誘惑銀杏（ゆうわくいちょう）」

相方ヘイちゃんは、ただいまコロナ中。
治ったかなあ

なお、本日の作中に使った短歌は
『金色のちひさき鳥のかたちして銀杏ちるなり夕日の岡に』
与謝野晶子です。

やっぱり天才は、違う空気を吸っているなあと思います。

明日はシロクマ文芸部。
ノンビリかきますね

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