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「群れない女子は最強の親友。初見から2秒で、元カレについて5時間マシンガントークしまくり、ヒスイの友人になった女子」のレアな話。

「女子高出身者は『女子どうしで仲良くしたがる』」なんて言う記事を見ると、
私は正直に
「ケッ、男の夢を勝手に背負わすなよ」
と思ってしまう。

私はずっと、集団女子に対して恐怖感があって、
それは夏の夕空を黒くおおいつくすムクドリの群れを見る時みたいな
根源的な恐怖だった。
同性に対して、抜きがたい不信感と恐怖心を持っていたのだ。

その恐怖心をあっさりとぬぐい取ってくれたのが、

『初めて会った2秒後から、元カレについて語りまくり、
語りまくるだけで、ヒスイの親友になった女子』

なのです。

信じられん体験ですが、事実なので書いてみようと思う(笑)。


===
私がフリーの仕事を始めた頃のある夜、電話がかかってきました。
見たことがない番号。
いつもなら出ないのですが、そのときはなぜか
『これ、出たほうがいい。絶対に出て。今すぐ出て!』と感じたので、
そのまま通話しました(笑)。

相手は、こっちが何も言わないうちにマシンガンを浴びせてきた。

『あの、タカノさんですね? あたし、和泉(いずみ)といいます。
中原敦(なかはらあつし)の元カノです』

はあ? 誰やん、イズミって? さらにナカハラって誰やん??
もう疑問符しか出てこない(笑)。
だけど大丈夫。相手はこっちの言う事なんか、句読点すら聞いていないから(笑)。

『すいません、アツシがあなたと付き合っているというから連絡しました』
「人ちがいです。ナカハラもアツシも知らないんで」
『知ってるはずです。ナカハラアツシ、××イラストレイターズクラブのメンバーで』

「……あっ、ナカハラくん。新年会の幹事を一緒にやるヒト……」
『昨日の朝、電話で話しましたよね。履歴が残ってました』
「うん、たぶん」
『すいません、ちょっとお話をさせていただきたいんですけど…… 
今が夜の10時なのは分ってますし、初対面で図々しいんですけど。
あたし今朝、千葉から名古屋に来て、アツシと話したあと、
部屋から放り出されたので、始発まで行くところもないんです』


普段なら、ヒスイも絶対にそんな人に会わない。
だけどその時は、電話ごしに彼女の腕が伸びてきて、
両手を合わせているみたいな気がして。
それに口調はハイテンションだけど、言葉遣いは、まともで。
だから考えるより先に、こういっていた。

「あたしはナカハラくんのカノジョじゃないです。それでもよければ話を聞くから、うちに来ますか?」
『はいっ!』

彼女はまるで約束されていたセリフを聞いたみたいに、素直に返事した。
そして25分後に、あたしの小さな部屋へやって来た。


イズミはごくごくフツーの23歳女子だった。カワイイというより、きれい系。
コンビニで買ったらしいおやつの袋を差し出すと、ぺこりと頭を下げた。
そして顔を上げた瞬間から、

「ごめんなさい! あたし、いろいろ伝えておいた方がいいと思って」
「事情は分かんないんですけど。とりあえず上がりますか」
「ハイ」
イズミは靴を脱ぎ、丁寧にそろえてから部屋に入ってきた。

時刻は22時半。
ちょっとまて、こんな時間に千葉から名古屋に来た元カノをひとりで放り出した?
どういう男だ、ナカハラ。いや、ほとんど知らないんだけど。
イズミは、こたつの端っこにチョンと座ると、深々と頭を下げた。

「あの、いろいろしゃべっても、いいでしょうか」
「いいですよ」

ここから、イズミのマシンガントークが始まった。
ナカハラとは高校時代からの付き合いだということ。
ずっと遠距離だったが、結婚する約束があったこと。
先週、電話していたらいきなり『二度と会わない。もう終わり』と言われ、
『カノジョができた』というから、問いつめたら『タカノミドリ』といったこと。

「えー、あたし、ナカハラくんとはイラストレイタークラブ以外で接点ないよ」
「ハイ。今日の昼間、アツシが部屋にいるところを強襲して問いつめたら、そう言っていました。
とっさに知り合いの高野さんの名前を出したって。高野さんなら笑って許してくれそうだと思ったって。だから、こういうことがあった、って話だけでも伝えたいって思って」
「まじ? 信じらんない、ナカハラ」

こんな調子で、イズミは延々と元カレ、ナカハラの話をつづけた。
イズミは話がうまくて、めちゃめちゃ面白かった。

彼女が話しはじめて5時間が経った頃には、
ナカハラの好きな食べ物も、口癖も、高校時代の成績も、
やりこんでいるゲームのタイトルも歴代の愛車のナンバーも、
果てはあんなことや、こんなことまで洗いざらい披露されていた。


もちろん、あたしはイズミの話しか聞いていないので
ナカハラにとっての真実は、別の場所にあるのだろうと思う。
それでも、イズミが自分とナカハラの距離感を理解しつつ、
どうしても我慢できずに新幹線に飛び乗って、単身、千葉から名古屋に乗り込み、
ナカハラをきっちり詰めてから、あたしに連絡してきたくだりを聞くと
その行動力に感服した。


途中、たぶん深夜3時ごろイズミに電話がかかってきた。
ナカハラからだった。さすがに、どこにいるのか心配したらしい。
イズミは落ち着いて話し、

「あたしらが、もう完全に終わったってのは分ったし。
今あたしがタカノさんの家にいるのは、あんたとは関係ないし」

さらに話した後、イズミは申し訳なさそうにあたしを見た。

「ごめん、ナカハラが謝りたいっていうんだけど」
「あたしに?」
「うん。どうしてもって」
「謝罪なんか、いらないけど」

電話を替わると、しばらく無言でいた後、ナカハラが言った。
『すいません、イズミは頭に血がのぼると
突拍子もない事を言ったり、やったりするんで。
そこから放り出してくれていいです。
もう俺にも関係ないですから』

その瞬間、私のなかの何かがスカッと切れた。

「あのさ、ナカハラくん。
あなたとイズミさんがどういう事だったのか、私は知らないです。
でも、今ここにいるイズミは私の友人なんで、今さらどうのこうのって言われる筋合いはありません」

ナカハラは黙った。わけが分からなかったんだろう。

「高野さん、イズミと知り合いでしたか?」
「5時間前に初めて会いました」
「……友人じゃないでしょう?」
「5時間で友人になりました。じゃあ」

ぶちん、と電話を切ってから、私とイズミはバカみたいに笑いころげた。
何に対して笑っているのか、わからなかったけど。
私もイズミも、糸の切れた凧みたいに
朝まで延々としゃべって、笑いつづけた。
翌朝、イズミは晴れ晴れした顔で新幹線に乗って千葉に帰っていった。



それ以来、イズミは私の親友だ。
数年のち彼女は結婚して子供が生まれ、毎年きちんと年賀状をくれる。
写真の中の彼女は、あの夜、私の部屋へ来た時と同じように
きちんと手を重ねていて、
爪の先から倖せが匂うようだ。

私はあれから、イズミの忠告にもかかわらず、
数々のダメな男にひっかかり、ろくでもない事を経験してきたけど。
あの夜、イズミと話したことで
同性に対する基本姿勢を作り直せたと思う。

どんなことがあっても、信頼できる女ともだちがいれば、
しゃんと立っていける。
群れない女子は
最強の親友だ、って。

【了】

ヘッダーはTHẢO TĂNG VĂNによるPixabayからの画像

#私だけかもしれないレア体験

#創作大賞2023 #エッセイ部門

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