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「金魚鉢とる左手の薬指ーーー」ヒスイの夏短歌

「金魚鉢とる左手の薬指
白く抜けたり指輪の跡よ」ヒスイ


時代のせいもあるのか、
まわりに『リコン』だの『パートナー解消』だのという言葉が
聞こえるようになりました。

友人のひとりも、やはり、そうなりました。

決まるまでは、あれやこれや、事件がもろもろ起きて、
ああ、修羅場とは、まさにこう言うことなんだなあと
友人からの怒髪天を衝くようなLINEの文章や
電話の切り方の荒々しさに、
せつないような
不安なような気持ちになりました。

といっても、こちらに何かできることもないので、
だまって金魚のように見ておりましたら、
やはり
なるように、なりました。

久しぶりにカフェで会った時、
彼女がある意味では、解放された人のような
すがすがしい顔つきをしていたので、
「して、よかったんだね」と
不用意にいってしまいました。

こういうとき、雑駁な言葉を放ってしまうのが、
私のうかつなところです。

彼女は水のコップをじっと見てから
「まあね」と一言だけ、いいました。

その眼は
私には見えない水中の金魚をじっと追っていて、
やがて、架空の金魚が屈折で見えなくなったのか。
彼女はふっとコップを置きました。

「こうなるしか、なかったからね」

コップからはなれた彼女の指は
ちょっと行き先を迷うみたいにためらってから、
すばやくメニューを取りました。

「ヒスイ、なに食べる?」
「パスタ。茄子とツナのトマトソース」
「……トマトソースは、やめなよ」
「なんで? ここのトマトソース、おいしくないの?」

彼女はメニューから目を離しもしないで、
「あんた、白シャツを着てる。だとしたら、100%の確率でトマトソースをとばすもの」
「……サーモンとほうれん草の醤油ソースにする」
「いい子ね」


『いい子ね』。
私は、彼女が結婚の終了とともに子どもをおいてきたことを思い出す。
トマトソースの記憶は、この先も彼女を泣かせるのだろう。
私は、そんな人にわたす言葉を持ち合わせていないし、彼女もそれを求めていない。

それで、いいんだ。

ひらりと彼女の指が動いて、メニューを片付けた。
店のスタッフを呼ぶ。

「オーダーおねがいします!」

グラスを握る彼女の薬指には、白く抜けた指輪の跡が残っていて。

私がじっと見るうちに、金魚の尻尾のような指輪のあとは、
白くひらめいてから、
屈折で、見えなくなった。


「金魚鉢とる左手の薬指
白く抜けたり指輪の跡よ」ヒスイ

#ひとり66日ライラン
#出戻りライラン・笑
#19日目

本日は 小牧幸助さんの #シロクマ文芸部に参加しております。

ヒスイのシロクマ文芸部 参加作はここで読めます。
ヘッダーは、はそやm画伯から、借りっぱなしです(笑)



明日は、縁起のいいものをご紹介します(笑)!

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