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「影ふたつ西風なごむ――」ヒスイの秋俳句+410字チョイ恋ショート②

「影ふたつ西風なごむ秋汀」
(かげふたつにしかぜなごむしゅうてい)

季語:秋汀

ヒスイのちょっと恋 410字
『秋汀の影踏み』

たった半月で、海は勝手に秋になっていた。
あたしは脱いだ靴をもって浜を歩く。少し前を彼が行く。背の高い影が、足元に伸びてきた。

影を、踏んでやった。彼はぴたりと止まり、こっちを向いた。あたしが、
「影を踏んだの、バレた?」
と尋ねると笑って、
「踏まれるのが影なら、安いもんだ。俺の未来まで踏まれたら、どうしようもねえや」

ざあっと音を立てて西風が走ってくる。音のわりに、風が当たってこなかった。
顔を上げる。

大きな背中が、風をさえぎっていた。
あたしは、どうしていいかわからなくて。
彼の前に回り込んで、そっと自分の靴を置いた。

「踏んでもいいよ」
「踏まねえよ。その靴を洗うの、俺じゃねえか」
「……ちっ。こっちの出方、すっかり読むようになっちゃって」
彼は笑い出した。また歩き出す。背中で、西風をさえぎったまま。

たった半月で、彼の背中はあたしがすっぽり入れるくらいに大きくなっていた。

ずるいでしょ、そういうの。


惚れなおすやん。

【了】(改行含まず400字)



#俳句幼稚園

俳句幼稚園のお題に、ちょっと遅れで参加しております。
秋の海辺、ささやかな風景を描いてみました。
10月はnote公式のショートショートフェスにも参加してますから、なるべくたくさん書きますねー!

では。
明日もきっと、ショートショートを書きます。
17文字の緊密さと
410字の小さな構築感を 体に叩き込みたいヒスイです。

ヘッダーはEstebanescuによるPixabayからの画像



※追記

コメント欄でのアドバイスありがとうございますー!
次のように直してみました。

「風やみて影ふたつゆく秋の浜」
(かぜやみてかげふたつゆくあきのはま)

 だいぶ流れがきれいになったかなという気がしてます💛
ありがとうございます。

次回も皆さま、アドバイスよろしくです。

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