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「桜回線・1年後」ヒスイの毎週ショートショートnote 字余り参加(笑)
「大事すぎるから、『愛している』なんていえないのよ」
五月の夜、彼女は庭の桜に手を触れて、そっとつぶやいた。
ちかぢか、彼女は息子夫婦と離れ、遠くへ引っ越す。だから名残りのつもりでひとり、つぶやいた。
初夏の夜。固く乾燥した老木は、ひそ、と身をふるわせて、緑の葉を揺らした。
声もなく。
ただ、彼女の言葉をしまい込んだ。
翌年、若い妻はマンションの5階から春の兆しを見る。眼下の桜並木がほんのりとピンクにけむり、夜の風を受けている。
妻は振りかえり、夫に言う。
「明日の夜、桜を見に行こうよ」
「まだ早いだろ」
「明日をのがすと、次の週末には散っちゃうみたい」
「そうかあ?」
夫は気が乗らなさそうに、冷蔵庫からビールを出している。
妻はむっとして、
「いいよ、行かないよ」
夫もむっとして、
「そんなこと、言ってないだろ」
そんなとき、春の夜にのって、さやさやと桜の花が揺れた。
5階の窓から見おろすと、桜並木がゆるやかに波打つように、歌うのが聞こえた。
『大事すぎるから』
『”愛している”なんていえないのよ』
「……ねえ、何か言った?」
「言わない」
「じゃあ、気のせいか」
気のせいじゃない、気のせいじゃない。
妻は静かに気が付く。
低く抑制のきいた、義母の声。
遠くに住む声が『桜回線』に乗り、1年の時間を越えて、やっと届いた。
妻は窓を離れ、冷蔵庫からもうひとつビールを出す。
「明日、ひとりで行ってくる」
「桜を見に?」
「ううん。お義母さんに会いに行く。
ねえ、お義母さんから『大事すぎるから、愛してるなんて言えない』って、言われたことがある?」
すん、と夫は黙り込む。
夜が静かに進んでゆく。
深更にかかるころ、夫が小さな声でつぶやいた。
「……俺も行くわ」
【了】(約660字)
本日は、一日早く たらはかに さんの #毎週ショートショートnoteに参加しています。
字数オーバーだから、そっと参加です(笑)
なおなお、本日のテーマは相方のへいちゃんからいただきました(笑)
同じテーマで別の人間が描くとこうなる。
なんか、2年くらい前?を思い出して、懐かしいです(笑)
ヤスさんの66日間つづけて書く、企画にも参加しています。
アークンさんも、とっくに参加していらっしゃいました(笑)
なんていうのか、皆さん行動が早いんですね。
……ヒスイがのろいのか(笑)
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