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『HSI V8 stories』 プロローグ

 2XXX年、世界は条約を結び、現存する全ての国は武力を持つ事を禁じられる。

 エネルギー問題、地球温暖化、気候変動、海洋汚染、森林減少、水不足。

 長いこと人類が抱えてきた問題は、冬眠から目覚めたヘビの如くゆっくりと、それでいて着実に進んできていて、まるで地球を捕食対象と言わんばかりに、今にでも喰らいつきそうな様相で見つめていた。


 ――世界平和条約。去年の冬時にそれは交わされた。
人類は、共に手を取り合い歩む選択をしたのだ。
各国が所持する兵器は、とある国の無人島に集められた上で一斉に破壊される。

 そして各国の代表はその場に立ち合い、その光景を最後まで見届ける義務があった。




「――そして、来年には数世紀ぶりに戦争が始まるだろう」


 目の前に座る男、影野義晴はぶきっらぼうに吐き捨てた。


「どの国も考えることは同じさ。兵器をどうにかこうにか隠し持っているワケ。へそくりみてぇなもんだ」


 時代遅れの紙巻タバコの吸殻を灰皿に投げ捨て、彼は次のを取り出した。


「そして愚かにも他国が武力の全てを捨て去ったと思い込んでやがる。
いや、見て見ぬふりかも知れないがな。国民達が抱える環境問題に対するヘイトは政府へと向かい、政府はそれを流して他国へぶつけようとしている。エネルギー問題の解決に1番手っ取り早いのは、他国から奪う事なのは明白だからな」


 影野はオーバーな身振り手振りをしながら続ける。


「ある国は地中奥深く!ある国は海ん中!ある国は空!そして宇宙!各々が各々の兵器を隠し持っている。探知されないように細工しつつな。 そして我が国は……」


 影野はタバコを一吸いしてから煙を吐き、続けた。


「――アンドロイド。今や国中に蔓延る、『日常生活お助けロボット』の中に兵器を紛れ込ませた。無尽蔵な兵力を、どの国より速く動かすためにな」


 イカれてるよなぁ。とニヒルな笑みを浮かべた影野は、指で挟んだタバコを私に向けた。


「そして、『Hisui_Ver_8.0』。
幸か不幸か、心を宿したアンドロイドよ」




 私は、無いはずの唾を飲み込んで次の言葉を待った。 




「――お前は、我が国の最終兵器なんだよ」

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