見出し画像

トラベルボイスで学ぶ観光経営学Vol.6「JR西日本、懐かしい列車シリーズでデジタルスタンプラリーを開催」で学ぶ

今日のポイント

内部資源・サービス産業化

「懐かしい」って何だろう

駄菓子は大人になっても何となくテンションがあがるものです。もっとも、子どもの時と違ってたくさん食べたいとは思わないわけなんですが、お店で見つけると何かときめきます。個人的には、何と言ってもかば焼きさん太郎はビールに合うと思っておりまして、これは大人の駄菓子シリーズとしてつまみにすればいいよなーとか思っていたりします。

さて、なんで駄菓子って盛り上がるんだろうか。ちょいと考えますと、やはりそれは子ども時代に買いたいけど買えなかったなーという憧れであったり、駄菓子屋で色々とあった思い出が一役買ってるのは間違いないだろうと思います。一言でいえば「懐かしい」ってやつですね。不思議なもんで、どうも人というのは、この懐かしいに弱い。苦しかったこと、嬉しかったことすべては「懐かしい」という一言に吸収され、時の流れに無常を感じつつも、なんとなく良い気持ちになります。

でも、なんで「懐かしい」ってだけで盛り上がるでしょうか。人の気持ちというのは何とも不思議なものです。

ということで、今回取り上げるトラベルボイスのニュースはこちらです。


ニュースの概要

それでは、ニュースの概要について見てみましょう。

西日本旅客鉄道(JR西日本)は2023年11月21日~2024年1月31日の期間中、リバイバル電車デジタルスタンプラリーを実施する。同社は「懐鉄(ナツテツ)」シリーズとして、西日本エリアで活躍した列車をテーマに「リバイバル列車」を運行しており、さらに楽しんでもらう企画としてデジタルスタンプラリーを展開する。

JR西日本が提供する移動生活ナビアプリ「WESTER」とギックス社が提供するスタンプラリー「マイグル」を活用。デジタルスタンプを設置した岡山駅、米子駅、出雲市駅、防府駅、下関駅でスタンプを集めた人を対象に、抽選で「やくもヘッドマークプレート(縮小版レプリカ)」、「115系行先板(レプリカ)」などの賞品をプレゼントする。スタンプを1個でも獲得すると、「懐鉄オリジナルスマートフォン壁紙」をもらえる仕組みだ。



今回の事例で学ぶ観光経営概念①「サービス産業化」

とても短いニュースですが、授業には使いやすい要素が入っています。まず、施策としてはスタンプラリーとなっています。最近鉄道ではスタンプラリーが盛んに実施されてます。今回の記事のために調べたらJR東日本が首都圏スタンプラリー情報局というサイトまで開催していました。

背景には、鉄道需要の減少があるだろうことは推測されます。少子高齢化は当然としてコロナ渦に一気に普及したリモートワーク。ただでさえ利用者減少傾向が続いていた地方路線には大きな打撃でしょう。

その中で、鉄道会社が新たな鉄道需要を生み出すための方法として考えた施策の一つがスタンプラリーです。この辺は観光列車にも通じる考え方があります。それを一言でいえば、「サービス産業化」です。

鉄道はもともと、大規模輸送に向いた交通手段ですし、そもそもが輸送を目的にしています。つまり、移動という「機能的価値」のために存在しているわけです。ですが、先に示したように「移動」という需要は減少が止まりません。他にも車など競合も増えています。そうなると、鉄道は移動以外の需要を生み出さない限り縮小せざるを得ない。

そこで、鉄道に乗る目的を「移動」ではないものにしようという発想にしました。鉄道の目的をスタンプラリーにしたわけです。そうなると、鉄道の提供価値は変わります。今までは「目的地に到達させる」という提供価値だったのが、「スタンプラリーのサービス」という提供価値になるわけです。

厳密にいえば輸送もサービス業なので、サービス産業化という表現は少し違うかもしれませんが、単なる輸送サービスという「機能的価値」から電車が輸送を活用した「経験的価値」を提供しているという面で、サービス産業化しているといえます。

更に自社で開発したアプリも活用しているようなので、アプリという新サービスの利用拡大も同時に狙っています。鉄道会社が単なる移動という「機能的価値」から電車を活用した「経験的価値」の提供へとシフトしていることも見て取れます。

今回の事例で学ぶ経営概念「内部資源」

さらに面白いのはサービス産業以外の概念も今回は学べます。それが「内部資源」という考え方です。内部資源の内部とは企業を指します。つまり、「企業内部の経営資源=内部資源」ということです。内部があるなら、当然外部もあります。「企業外部の経営資源=外部資源」ということですね。

さて、鉄道会社によるスタンプラリーはここ数年非常に多く開催されているわけですが、その中にはアニメや映画といった人気コンテンツとのコラボも多く存在しています。ガンダムやポケモンなんかは人気ですよね。自分の最寄り駅がどんなMS(モビルスーツ)なのかちょっと気になったものです。

こうした人気コンテンツとのコラボは当然良いよねと思うわけですが、1つ問題があります。それは、コンテンツが外部資源であるということです。どんな問題なのか分かりますか?もちろん、鉄道スタンプラリーでいえば、当然コンテンツ利用のために費用がかかりますが、それだけではありません。ちょっと、考えてみてください。


さて、分かったでしょうか。正解は「外部資源は競合も使える」ということです。ガンダムに惹かれてスタンプラリーに参加する人にとっては、何も電車に乗らなくてもいいわけです。高速サービスエリアだっていいし、フランチャイズ店舗でもいい。そうなると、人気コンテンツになったら競合が真似してくることは容易に考えられます。せっかく頑張ったやったのに、より大きな予算で別の競合にやられてしまったら終わりです。

一方で、内部資源は外部資源に比べて模倣することが難しい。自分のものですからね。しかも、今回はJR西日本の懐かしい車両ですから、100%JR西日本が独占している内部資源です。独自価値といってもいいですね。これは絶対に他社は真似できません。つまり、このスタンプラリーは競合がいないのです。

では、この内部資源はどのように創られたものでしょうか。それはJR西日本の歴史そのものです。JR西日本の歴史を総動員して完全に独自性がある、つまりブランド化されたスタンプラリーになっています。そう、歴史は模倣できないのです。だからこそ、競合が存在しない独自サービスを生み出すことができます。

私はこうした歴史によるブランディングを『ヒストリカル・ブランディング』と呼んでいますが、今回の事例もその1つだといえます。この詳しい内容については以下の私の著作をご覧ください(宣伝、すいません!)

良い事ばかり言っていますが、今回の課題としてはJR西日本ファン以外をどれだけ巻き込めるのかという点は気になるところです。差別化はされていると思うのですが、ビジネスという面でいうとどうしても人数が限定される傾向があるものだからです。ただ、ロイヤリティ向上であったり、ファンへの満足度向上といった施策として振り切っているのであれば問題はないかもしれません。

なお、外部資源も上手く使えれば今までにないお客様へのアプローチに繋がる有益な施策です。最近ではコンビニでも特にファミマさんがアプローチしてますね。皆さんも周りのビジネスで展開されているものは内部資源なのか、外部資源なのかを考えてみると面白い視点が見えるかもしれませんよ。



よろしければサポートお願いします!いただいたサポートは執筆・研究の活動費に使わせていただきます!