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トラベルボイスで学ぶ観光経営学Vol.2「国境を越えた観光推進を強化」で学ぶ

「どこにいく?」で浮かぶのは

「よーし!旅行に行くぞ!」仕事に疲れ果てた時、突然思い立ってテーブルから立ち上がって独り言を叫ぶ。そんな仕事のストレスを感じてしまっている同業関係者も多い季節になってきました。

さて、「旅行いくぞ!」となったら、次に出てくる言葉は「で、どこに行こう?」ということになります。この記事を読んでいる皆さん。もし、休暇が取れて旅行に行けるとしたらどこにいきたいですか?ちょっと、胸に手をあてて考えてみてください。

1,2,3

はい。時間です。ちなみに、過去に学生に対して「予算もお金も関係なく行ってみて場所を思い浮かべてみよう」と話したら「金星」と言われたことがありまして、もはやツーリズム現場は「宇宙(そら)」か・・・は。と感慨にふけったことがあります(※ある年齢や、ある属性の皆さんにとって宇宙「そら」と読むものです。あと、専用とは「赤くて3倍」という意味です)

それはともかく、皆さんが思い浮かべたのは何でしょうか?

「ドイツ!」
いいねー。
「福岡!」
あるねー。
「北海道!」
それもいいねー。

さて、いま言ってくれた3つの地域ですけど違いがあるの分かりますか?今回取り上げるのは、この違いを理解していくための理論を教えてくれるニュースです。

ニュースの概要

それでは、早速ですがニュースの概要を見てみましょう。

ドイツ観光局(DZT)とフランス観光開発機構(アトゥーフランス)は、独仏国境地帯に広がるバーデン・ヴュルテンベルク州と黒い森シュヴァルツヴァルト地方をターゲットにインフルエンサーキャンペーンを共同で実施する。イベントパートナーはドイツ鉄道(DB)とフランス国鉄(SNCF)。両国観光局はこれまでも国境を超えた観光推進に力を入れてきた。

ドイツ観光局によると、2022年のフランスからの旅行者の宿泊数は310万件でコロナ前の2019年の80%まで回復した。ドイツ観光局のペトラ・ヘードルファーCEOは「両国を往来する人の数はコンスタントに増え続けている。インフルエンサーを起用したキャンペーンを通じて両国の観光推進を強化していく」とコメント。

フランス観光開発機構のカロリーヌ・ルブシェー理事長は「両国を列車で旅するということは、環境への影響を抑えながら、持続可能性の高い素晴らしい自然の景観と文化遺産を探訪すること」と話し、鉄道旅行の意義を強調した。

皆さんであれば、このニュースでどんなことを分析しますか?この行動を促す観光経営概念や理論について考えてみましょう。


今回の事例で学ぶ観光経営概念 「デスティネーション」

それでは、このニュースを題材にして観光地経営の重要トピックを学びましょう。今回の事例は「デスティネーション」という概念がKeyになります。ニュースを見ると

ドイツ観光局(DZT)とフランス観光開発機構(アトゥーフランス)は、独仏国境地帯に広がるバーデン・ヴュルテンベルク州と黒い森シュヴァルツヴァルト地方をターゲットにインフルエンサーキャンペーンを共同で実施

さて、どうでしょう?当たり前すぎるじゃん。と思ったかもしれません。ですが、ちょっと考えてみましょう。ドイツ観光局とフランス観光開発機構って観光地としてはどんな関係でしょうか?

そう。この2つの国は競合です。ヨーロッパ旅行に7日間行く人がいれば、その中でどの国にいくのかという割合を奪い合う関係になります。しかし、ここではそんなライバルである両国がタッグを組んでいます。ドイツだけに来てもらえれば3泊してもらえるかもしれないのに、わざわざフランスへ誘致するとなると宿泊日数が少なくなってしまうわけです。なぜ、ライバルにわざわざ協力するのでしょう?フランスとドイツは固い絆で結ばれているのででしょうか。

そういうヨーロッパ的な文化はあるかもしれませんが、本稿の目的は観光地経営を学ぶこと。実はこれは説明できます。それが「デスティネーション」という考え方です。日本語では「観光地」や「目的地」などと翻訳されますが、どうにも日本語にしにくい観光地概念です。

デスティネーションとは簡単にいうと観光客の目的地ということです。なお、デスティネーション概念は厳密にいうと観光だけではありません。出張とか帰省なども含めて自分の住んでいる場所から離れて一時的に他の場所に滞在する時の滞在場所も含みます(※この辺は日本語における観光という言葉の独自性が影響してしまっています。それはまた別の機会に)

ここでは詳細な説明を省きますが、デスティネーションという概念は1979年にLeiperという研究者が提言しました。それによれば、デスティネーションとは「ツーリスト(≒観光客)が一時的に滞在したくなるような場所であり、特にその魅力に貢献している特徴のことを指す」(Leiper、1979)というものです。

では、ここで質問です。デスティネーションとはどこにあるのでしょうか?
「えっ、世界中にあるじゃん?」と思った人。それはそうです。でも、間違ってもいます。実は、デスティネーションとは「どこにでもあるし、どこにもない」存在でもあります。考えてみてください。

はい。それでは説明してきます。


デスティネーションはどこにあるのか?それは「顧客の心の中」です。そう。デスティネーションとは顧客の目的地なので、理論的には顧客の心の中にあるものです。そう考えると、観光プロモーションというのは自分たちの地域を観光客にとってのデスティネーションにする作業ということになります。

そして、ここでもう一つポイントになるのがデスティネーションとは「行政区域ではない」という事実です。

ここで最初の問いに戻ってきます。ドイツとフランスが協力する最大の理由はそれぞれのエリアを別々に売るよりもセットにした方がデスティネーションとして魅力的だから。ということです。ちなみに、もう一つ現実的な側面としては協力すれば広告費用を分担できるというのもあります。

今回の事例では、「バーデン・ヴュルテンベルク州と黒い森シュヴァルツヴァルト地方」を1つのデスティネーションとして認知してもらうことを強化しようというキャンペーンであるということが分かります。なお、背景にはコロナ渦からの立ち上がりということでヨーロッパ住民のヨーロッパ内観光強化という面もあるかもしれません。

なお、本ニュースはデスティネーション概念以外にも「ステークホルダー」「サスティナブル・ツーリズム」といった概念を説明することにも活用できます。もし、実践されたならご連絡いただけると嬉しいです。

さて、「デスティネーションは顧客の心の中にある」ということが分かりました。ただ、このことは観光に関わる皆さんだとそりゃそうだと思っていることでしょう。実際には、理論的に正しいのは分かっているけど、それを実行するのが難しい。つまり「理論と現実は違う」というのが本音だと思います。特に予算は行政区域に制限されることが多いです。

ですが、このデスティネーションという概念で様々見ていくと色々なものが見えてきます。まずは冷静に事実を確定させていくことから物事は始まります。「理論とは現場の出発点」です。皆さんの地域を顧客視点の「デスティネーション」で振返ってみると色々と見えるかもしれません。ぜひ、やってみてください。



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