ウッディとバズ・ライトイヤーの声〜トイ・ストーリー3』論〜

 2022年6月17日(金)、日本テレビ系列『金曜ロードショー』で『トイ・ストーリー3』(2010年劇場公開)が放送された。トイ・ストーリーを観たのは久方ぶりであるため、ストーリーを殆ど忘れていた。久しぶりに観たが、子供心に帰って楽しむことができた。

 観ている中で、1つ思ったことがある。主役2人の声優である。ウッディは唐沢寿明氏、バズ・ライトイヤーは所ジョージ氏。二人ともいわゆる本職の声優ではない。だが見事にキャラクターにはまっていた。

 今回は、『トイ・ストーリー3』における2人の演技に注目して考察していきたいと思う。今回も、ストーリーにはあまり触れず、声優としての演技に着目して考察していきたい。

1.トイ・ストーリーの舞台設定
 舞台は、アメリカのとある住宅街にある、一軒家の子供部屋。基本的にはこの子供部屋を中心として物語が繰り広げられる。物語の展開として、子供部屋を離れることもあるが、ウッディ達の持ち主であるアンディとは他の家や保育園、ゴミ焼却場となる。つまり、我々人間にとって日常的な世界に留まる。
 もちろん、ウッディ達おもちゃにとっては、アンディの子供部屋以外は見知らぬ世界に映っている。こうした、「人間にとってありふれた世界も、おもちゃ達の視点から見るとどう映るか」といったコンセプトが、『トイ・ストーリー』シリーズの魅力を作り上げている。
 だが舞台設定の観点から見ると、人間の日常生活の世界に留まっており、別世界に行くことはない。あくまで、日常世界を舞台としたファンタジーとなっている(日常世界を離れ、異世界を舞台とするファンタジーの例としては、『オズの魔法使い』(1939年)、『ネバーエンディング・ストーリー』(1984年)がある)。
 こうした観点から見ると、主人公の片割れのウッディに唐沢寿明氏を起用した理由も導けると思う。

2.ウッディの声優=唐沢寿明
 唐沢寿明氏(以降「唐沢氏」と記す)は、広く人口に膾炙しているように、舞台、テレビドラマ、映画で活躍する俳優で、主にアクション系の作品に出演している。声質としては、よく通るセカンドテノールのキーであり、ヒーロー向きの声を持っている。
 『トイ・ストーリー』におけるウッディは、悪者を取り締まるカウボーイのおもちゃであり、おもちゃ達を取りまとめるリーダーポジションに位置している。おもちゃの持ち主にも「あんたは俺の相棒だぜ!」と明るく呼びかけるようなキャラクターである。
 ウッディのキャラクターを考えると、「おもちゃ」というよりも「人間」に近いキャラクターとして構想されたと考えられる。とすると、「生身の人間のアクション演技」に声を当てる、という視点からキャスティングするのが適当かと思われる。
 そう考えると、アクション俳優として自らもアクションをこなす唐沢氏を起用したのは見事だと思料する。実際、唐沢氏も変に声を作ることなく、自然な演技をしていて、ウッディと一体化していた。

3.バズ・ライトイヤーの声優=所ジョージ
 所ジョージ(以降「所氏」と記す)は歌手、コメディアンとして活躍するタレントであり、俳優としてドラマへの出演経験もある。
 声質としては、セカンドテノールに位置するが、角張ったような特徴的な声を持っていて、聞くと所氏とすぐに判別できる。
 すぐに判別できる声質の持ち主の場合、「所ジョージ」として出演するのであれば、他の出演者とすぐに区別がつくので、本人として出演する場合非常に適している。だが吹替やアテレコといった、自分とは別人格、あるいは別キャラクターの声を当てる場合、声の持ち主のキャラクターが強く出てしまい、溶け込めない可能性が出て来る。
 だが『トイ・ストーリー』におけるバズ・ライトイヤーは見事に嵌っていた。理由としては、バズのキャラクター設定と、『トイ・ストーリー』の設定にあると思われる。
 バズ・ライトイヤーは、宇宙を駆け巡るスペースレンジャーのおもちゃであり、電池式のロボット型のおもちゃである。ロボット型のおもちゃということで、無機質な角張った声質が向いていると思われる。
 似た例として、『ロボコップ』(1987年)がある。主人公の警官がロボットの部品を接続され「ロボット」として生命活動を行う場合、サウンドエフェクトを施し無機質な声質にしている。
 また、『トイ・ストーリー』という作品は、ウッディとバズ・ライトイヤーの2人を主人公とする作品である。主人公が複数いる場合、物語を豊かにするため、キャラクターは異なったものにする必要がある。ウッディは人間のようなキャラクターであるため、もう一方はいかにもおもちゃらしいキャラクターにする必要がある。
 さらに、『トイ・ストーリー』シリーズは子供向けのアニメ作品である。子供達の楽しい記憶に残るように、すぐにあのキャラクターだと識別できるような声質の持ち主が適当である。これはルパン三世の声を当てた山田康雄氏を挙げれば容易に想像がつくだろう。
 以上の理由から、特徴的な声質の持ち主である所氏が起用されたと思料する。実際、所氏もバズのキャラクターに沿うように出来るだけ抑揚を抑えた演技をしていた。これが見事に功を奏していた。

4.まとめ
 以上の理由から、『トイ・ストーリー3』を観た限りにおいて、本職の声優ではない、唐沢寿明氏と所ジョージ氏を主人公に起用したのは大正解だと思料する。
 こうした、本職以外の声優については考察したい作品は幾つもある。今は『天空の城ラピュタ』(1986年)のムスカ大佐を当てた寺田農氏について考察したいと強く思っている。
 最後に、『トイ・ストーリー』といった素晴らしい作品に、彩りを添えて更に魅力的なものにした唐沢寿明氏と所ジョージ氏に敬意を表し、筆を置くこととする。


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