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ZBrush & Blender on Linux

(4152文字)

Linuxは早い

最初にこのnoteで一番言いたいことを一言で書きます。

ZBrushもBlenderもLinux上が一番早いかもしれない

です。もっと使い込んでからでないと結論は出せないのでまだあくまでも仮説ですが。インストールして動かしてみたファースト・インプレッションでそういう感覚を得ました。

ZBrush2021をUbuntu Linux+Wineで動かす

WindowsのexeファイルをLinuxで動かすライブラリ「Wine」。この最新バージョン5.0が今年リリースされました。簡単に説明すると「Wine」は「Parallels Desktop」や「VMWare」「VirtualBox」「Virtual PC」などのようないわゆるCPUとOSを丸々仮想環境を作って動かすエミュレーションアプリではありません。「WindowsのexeファイルをLinux上でネイティブで走らせる」というコンセプトです。

詳しくはWikipediaに書かれていますので要点を引用しますと、「LinuxにWindowsと同じ挙動をさせてWindowsアプリを動かすアプリ」というわけです。なのでエミュレーションソフトのようにWindowsをインストールしてWin環境を作るわけではないのですね。Linux自体がWindowsアプリを動かしてるわけです。考えてみるとすごい技術ですね。

以下、ZBrush2021.1.1、Ubuntu Linux 20.04.1LTS、wine5.0、それぞれ2020年9月現在最新の環境で構築する、という実験・検証報告です。

まずPixologicのサイトからZBrush2021のWin版インストーラーをダウンロード。Terminalをダウンロードフォルダで開き、

 $ wine ZBrush_2021.1.1_Installer.exe

とコマンドを打ってWineでインストーラーファイルを実行します。すると、うまくインストーラーが起動。アプリによってはインストーラーさえ起動しないものもあります。このはじめの一歩で躓くとどうにもなりませんので、まず一安心。

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インストール中の様子です。タイトルバー周りなどGUIの部分はUbuntuですが中身はWindowsのアプリがそのまま動いているのがわかります。

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PixologicのMy Licensesからライセンス割当マシンを一台オフにし、マシン指定をUbuntuのインストールされているマシンに切り替えてアクティベートします。アクティベート完了、の図(↓)。

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アクティベート成功後、ZBrush2021.1.1がLinux上で無事に起動しました。

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実際の使い心地はどうなのか?

最も肝心の使い心地ですが、まず環境が以下のような感じです。

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マシンはアマゾンでよく売られてるグラボなしのhpの安い中古Win7マシン。購入当時たしか35,000円くらいでした。ディスクはSSDではなくHDD。CPUは第2世代Core i5-2500(4コア4スレッド)、RAMは16GBです。GPUは玄人志向のGeforce GT710という2014年頃に発売された3,000円強の安いGPUカードを挿してます。

これをWindows 10にアップデートして使用していましたが、今回ディスクはext4フォーマットで完全に初期化してWindows環境はすべて消去。まっさらの状態でデュアルブートなしのUbuntu専用機にしました。

マシン環境はこのようなどこにでもあるごくごく普通の事務機レベルのPCです。この環境を前提として考慮していきます。

【キャンバス(ビューポート)内の動き】

最新のZBrush2021.1.1が普通に動き、描画のカクツキもほとんどなくクルクルと回せます。リアル系人体全身1体を服を着せてスカルプトするくらいでしたら十分に実用レベルです。複数人体のシーンを作ったり超絶ハイポリゴリゴリのクリーチャーだと流石に少しキツいかもしれません。

【Wacomタブレットやブラシのタッチ】

Wacomタブレットの動きやブラシのタッチも良好で、通常レベルのサイズと解像度のファイルであれば遅延もなく普通にスカルプト出来ます。これは驚きです。流石に3GB近いファイルは開こうとすると時間がかかって途中で落ちてしまいましたが、1GB程度のファイルであれば扱えます。

【QuickSave】

QuickSaveもWindowsやMac版と同じようにきちんと動いています。

【Dynamesh】

Dynamesh化処理は早いです。高密度のDynameshをブラッシングするとさすがに重いですが、人体程度でしたら普通にブラッシング出来ます。

【ZRemesher】

ZRemesherの処理はZBrushの中でも重い処理の一つです。8コアRyzenでも重いことも多いので、このスペックではやはり流石に重いです。しかしこの同じマシンでWindows 10上で動かしているのと体感的にほとんど遜色はなく、Linux上でwineを介して動かしているのを忘れるくらいです。

【CPUやメモリーの使用状況】

CPUは効率よく使っているようで、すべてのコアを均等に90%前後で連続安定してフルに活用しています。下の画像は、左側の前半部分がビューポート(キャンバス)でオブジェクトをクルクル回しているときの動き、途中からグンと上がってる後半部分はZRemesherをかけたときの動き、となっています。(↓)

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ZRemesherをかけながらプロセスを眺めていると処理の終わり頃に使用コアが1個を残して残りの3つの稼働率はグンと下がりました。処理が終わると全てのコアが10〜20%程度に下がりました。メモリーの使用率も40%、5GB程度をきっちり推移して使っています。

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Mac版のように使い始めてクルクルとオブジェクトを動かすだけですぐにCPU稼働率がグングン上がって100%になり爆熱&ファン全開になることもなく、静かです。少なくともCore i5-6500/RAM28GB/SSDを積んでいるiMacよりは快適であることは間違いないです。

このCPUやメモリの動きだけで全ては決められませんが、この低スペックマシンでしかも推奨であるSSDでもない古いHDDでそこそこ動かせる事に驚きました。ZBrushはCPUやメモリにかなり依存するのでCPUの使い方と排熱処理は重要です。体感として限られたCPUやメモリのリソースを上手に使っている感じがあり、「LinuxはOSとしてとても優秀」という印象です。


WineHQサイトへ稼働を報告

Wineプロジェクトには稼働アプリケーションのデータベースがあり、ZBrushもあります。
2021はまだ誰も検証していないらしく、リストに上がっていませんでした。
検証報告を送って審査が受理されて2021.1.1が無事リストに追加されました。
Test resultに私の検証レポートも掲載されています。↓

(追記:2020-09-06 17:52:03)

きっかけはBlenderをLinuxで動かしてみたい欲求

「Wine」を初めて試したのは10年以上前にLinuxをメイン機にしていた頃です。その頃にiPhone登場。これの母艦アプリであるiTunesをLinuxで動かしたい、というのが試した理由でした。しかしその時は文字化けしたり実用レベルではありませんでした。時代はiPhoneだ、ということでこりゃLinuxメインだと色々厳しい・・・ということでメイン機をMacに戻したのです。

時は流れ、私がLinuxから離れている間にUbuntu Linuxも20.04、Wineも5.0までバージョンが進化していました。Blenderを使うようになり、色々と情報を貪っているとどうやらBlenderはLinux版が一番パフォーマンスが良い、という噂をちらほら。

それが気になっていたのでどうしても試してみたくなり、古いマシンにUBuntu LinuxとBlender入れてみた、というのがこの実験のきっかけです。

Blenderの動作は噂通り軽快。このような古いマシンでもパッと起動し、そこそこ快適に動きます。

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前述のようにGPUが激安のGPUであるため、リアルタイムレンダリングやCyclesでのレンダリング、ハイポリのスカルプトやClothシミュレーション、Blender公式デモファイルレベルのシーン作りなどはさすがに厳しいです。ですが、ローポリのモデリングや人体ヘッドや素体のスカルプト程度であれば十分に使えます。やはりBlenderもZBrushと同様、同じマシン上のWindowsで動かすより体感的に早い印象です。

「BlenderはLinuxが一番早い」という噂は以前からちらほら見聞きしていました。これを実際検証した結果をCG GeekさんがYoutubeで公開されてます。


なんとトータルとしてほぼ2倍、49%高速、という結果だったそうです。

また、Linux版BlenderではなくWindows版Blenderをwineを介してLinux上で動かしても、それでも15-20%高速だった、というコメントもしています。

CG Geekさんだけでなく他の方もWindows vs Linux対決をやっています。少し前の動画ですが、やはりどちらもLinuxのほうが早い、という結果。

Blender公式YoutubeチャンネルでおなじみのPablo VazquezさんもLinuxを使っているそうです。


まとめ

まだ使い始めたばかりなのでもっと使い込んでみないと今すぐに結論は出せません。他のアプリとの連携なども踏まえてワークフローをトータルで考えるとまだまだ環境としてはWindowsが一番だと思います。ただ、部分的な処理、例えばBlender専用機としてマシンを組むなど、特定の機能に特化した環境を安価に構築する場合、Linuxという選択肢を持っておくのは悪くないと思います。


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