おばんでした

そういえは、久しく、この挨拶を聞いた記憶がない。

そもそも、関東の人は、おばんです、とも言わない様に見える。

いや、こんばんは、すら少なくって、職場によっては、夜なのに、おはようございます、なんて言う。

これは、今日は、とか、今晩は、という語には丁寧形がないからかも知れない。

その点、おばんです、は、それ自体が丁寧語にも見えるけど、ちゃんと丁寧形がある。

それが、おばんでした。

勿論、おばんでございます、というのは、より丁寧だし、おばんでございました、なんて言ったら、それはもう、いと品高き、だ。

現在形を過去形に変える事で丁寧な表現となる。

僕は、確かに、そんな感覚のある時代に、そんな感覚のある場所で育ったから、当たり前に感じ取ることが出来るのだけど、どうも、東京で生活していると、この感覚は希薄らしい。

ご注文よろしかったでしょうか、なんて店員さんが使うのは間違いだ、という人も未だに多くって、それは言葉遣いにうるさい人ほどナイーブだ。

関東には関東のローカルルールがあるらしい。

大体、東京に住み着いた人ほど、東京のローカル性に無頓着な人が多すぎはしないかと思う。

僕だって、こちらに住んで15年は越えたけど、東京の当たり前というのは、別に日本の標準だなんて思わない。

いや、標準と定めたいのなら、それでも結構なんだけれども、そんなの全然全国基準じゃないんだよね。

僕の故郷の町のホームページには、つい最近まで、町の紹介の一文に、温暖な気候、という表現があった。

これを見た知人が大いに笑う訳。

道北にあるのに温暖はないでしょう、って。

その時、言われて初めて気が付いたよね、僕らの感覚では、故郷の町は周囲に比べて確かに温暖な気候だったのだけど、日本全土から見れば、まあまあ寒い方なのだ。

大体、世の中は、万事、こんなものでしょう?

だから、僕は、おばんでした、と挨拶する事はない。

東京には、東京のローカルルールがあって、それが当たり前なのだから。

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