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がん社会におけるモビリティのニーズと可能性 ~「CancerX summit 2020」での登壇を終えて~

去る2月2日(日)に東京ミッドタウン日比谷で開催された、がんを取り巻く社会課題を共有・解決していくカンファレンスイベント「CancerX Summit 2020」に登壇し、がん社会におけるモビリティの可能性について話してきました。今回はそのイベントのレポートをお送りします。

がんに動揺しない世界を目指して

毎年2月4日は「ワールドキャンサーデー」として、世界中でがんのためにできることを考え、行動する日とされています。これは2000年2月4日にパリで開催された「がんサミット」から始まった取り組みで、今年で20年目を迎えます。

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CancerX summit 2020はワールドキャンサーデーを基にしたイベントで、「がんと言われても動揺しない世界へ」というコンセプトのもと、研究者や医師、がん経験者やその家族などが、立場を超えて情報や経験を共有できるコレクティブインパクトの場として、昨年からスタートしました。

イベントを主催する一般社団法人CancerXの代表理事は、テキサス大学MDアンダーソンがんセンター乳腺腫瘍内科教授の上野直人先生と、株式会社電通プロデューサーの半澤絵里奈さんのお二人です。

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上野直人先生(左)と半澤絵里奈さん(右)とともに

上野先生は、医師であり2度の白血病を経験されたがん経験者でもあります。医師という立場でも、いざご自身が告知されると動揺し、また奥様の動揺も痛いほど感じられたとおっしゃっていました。
一方の半澤さんは、3年前にお母様をがんで亡くし、ご自身も然ることながら、娘に先立たれた祖母が動揺から立ち直れずにいる姿を、家族という立場で目にしています。
お二人の経験から、がんにおける心構えや社会的サポートは、当事者だけでなく、患者の家族にも必要だと実感し、このプロジェクトの立ち上げに至ったそうです。

場内には「がん告知を受けるVR体験」のブースもあり、がんの告知を受ける患者の視点に立つことで、家族や医療のかかわりが当事者にどう響くのかを知り、家族としての在り方や接し方を考えるというテクノロジーを活用した啓発を試みていたのも興味深かったです。

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「がん告知を受けるVR体験」のブース

がん患者と家族のリアルを聞いて

私がCancerX summit 2020に携わることになったのは、半澤さんからのお声がけがきっかけでした。

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半澤さんからお聞きした話によると、がん患者の8割以上が社会のサポートに不足を感じており、がんに関する医療情報は通院先やネットから入手するものの、半数近い人が真偽に戸惑いを持ちながら治療に向き合っていること、また、年齢が若いほど家族と終末期について話しづらいと感じているなどの現状が、CancerXの活動を通して浮かび上がったそうです。「悲しむ両親を思うと、自分が死ぬ前にどうやって両親を殺そうかと思ったくらい、死の話を切り出せなかった」という若い患者さんもいたといいます。

また、日本人の傾向として、自身が告知を受けるよりも、大切な人ががんだと言われる方が受け入れられないという人が多いらしく、「周りからは『ご家族が支えてあげて』と言われがちだけど、本人と同じくらい家族やパートナーにも精神的なケアが必要ということを知ってほしい。そして、終末期についてきちんと対話できる社会にしていくとともに、当事者や家族に向けて、満足なサポートを受けるために活用できるサービスを周知し、まだ解決されていない課題には必要な取り組みを考えていきたい」と話してくださいました。

そのような現状を聞き、私は自分にできることはなにかを考えさせられました。

がんとモビリティを考える

第2回目となる今回のCancerX summit 2020は、専門家による6つのセッションと、テーマ別に掘り下げていく7つの分科会で構成され、50名を超える専門家と、医療従事者、患者や家族、行政で働いている人など600名以上の参加者を迎えて開催されました。

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私が登壇したのは、分科会のひとつである「CancerX JAM-モビリティ」。
移動に関する専門家という立場から、国立がん研究センター中央病院骨軟部腫瘍・リハビリテーション科の医長である中谷文彦先生、株式会社MaaS Tech Japan代表取締役CEOの日高洋祐さんと、ムツー株式会社代表取締役で歯科医師、医学博士でもある長縄拓哉さんをモデレーターに、「がん患者と家族の移動及び移動先の課題の解決」をテーマにディスカッションをおこないました。

がん患者の移動に伴う課題とは

がん患者の移動手段としてもっとも多いのは公共の交通機関。しかし、その中で次のような課題があるそうです。

・駅にある段差、ターミナル駅などでは乗り換えの移動距離といった困難があり、それらを避けて遠回りになる経路で病院へ通ったり、タクシーを利用したりせざるを得ない
・一見、健康そうに見えることで痛みやつらさが理解されづらく、優先席エリアでも席を譲ってもらえない
・ヘルプマークを着けていても周知されていない

また、外出に伴い「家族と出掛けたいが、迷惑をかけると思って躊躇する」「外出先で休憩できずつらい状況を我慢し続ける」といった声も多く、移動先の施設などに「休める場所がない」ことも課題となっているようでした。

このような課題に対し、「がんであることをどう証明するか」「具体的に検討したいサービス」という2点を軸に議論を進めました。

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国立がん研究センター中央病院骨軟部腫瘍・リハビリテーション科医長 中谷文彦先生

中谷先生はかつて、最寄り駅からがんセンターまでの道のりを車椅子で通り、困難に感じる箇所を把握する実証実験をおこなったそうです。そこで見えた課題をもとに、駅のバリアフリー情報や、がんセンターまでのバリアフリーマップをスマートフォンのアプリで提供することを考えたそうですが、工事などのリアルタイム情報にどう対処するか、困難度合いの違いにどう対応するかなど課題が多くてアイデア止まりのため、どう解決していくかをいっしょに考えたいと提起しました。

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株式会社MaaS Tech Japan代表取締役CEOの日高洋祐さん

日高さんは、条件に合わせた乗り換え案内を表示する経路検索アプリのように、段差は1段でもダメ、エスカレーターなら大丈夫といった困難度合いや、何分おきに休憩を取りたいかなどといった個々のニーズに沿って、病院や出掛け先までの経路や休憩所を提示するシステムについての考えを展開しました。

そして私は、がん患者の生活における「カーシェアリング」の活用を提案させていただきました。

カーシェアリングの意外な利用法

カーシェアリングの会員数は2019年時点で160万人を突破し、4年間で約2倍となる急成長を遂げています。
普及率の高まりとともに新たな活用法も見いだされていて、NTTドコモの2018年の調査によると、カーシェア会員の41.3%が「仮眠」「電話会議」「カラオケ」など、移動以外の目的で利用してみたいと考えており、12.5%が実際に移動以外の用途でカーシェアリング車両を利用したことがあるそうです。

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このデータとがん患者の課題を掛け合わせたとき、移動手段としての利用はもちろんのこと、“密閉されたプライベート空間”である車内を、体調が優れないときなどの休憩場所として活かせると思いました。

商業施設や駅などに仕切られた空間を作るには、設計段階から検討する必要があるため、既存の施設にがん患者が休憩できるスペース後付けするのは容易なことではありません。ポータブル会議室のような簡易ブースを置くのも一手ですが、例えば公共の交通機関を使って出掛けた先で気分が悪くなり、休みたいけど休憩できる場所がないといったときなどに、近くのカーシェアリング車両を利用すれば、周囲の目を気にすることなく横になって休むことも可能になります。

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視点を変えることで新たな活用法が広がるという気付きの一端となればとの思いも込めて、説明させていただきました。

参加者の考えるがんとモビリティの在り方

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登壇者によるディスカッションの後は、参加者が9つのグループに分かれて、「がんであることをどう証明するか」「移動手段にほしい具現性の高そうなサービス」「駅や商業施設、病院などにほしい具現性の高そうなサービス」をテーマにワークショップをおこない、各グループから実にさまざまな意見が挙がりました。

・電車内で確実に座れるように、ヘルプマークを着けた人が立っていたら近くの人のスマートフォンに通知がいくシステム
・重症度が高いなどで車を利用せざるを得ない患者さんの負担が減るように、夜間のタクシーや幼稚園の送迎バスなどの空き時間を活用して移動コストを下げる
・移動自体を少なくするために、セカンドオピニオンなどの遠隔化
・休憩スペースや病院のシャトルバスを民間企業で運営し、スマートフォンからの予約も可能にする

私もあるグループの席に着かせていただいたのですが、参加者お一人おひとりの話を聞くにつれ、置かれている状況によってニーズは千差万別なんだと、課題解決の難しさを改めて実感しました。今後はより多くのニーズに応えられる移動手段の在り方を追及していけたらと思った次第です。

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参加者それぞれの思い

CancerX summit 2020への参加を通してさまざまな立場の方の話を伺えたことを機に、ほかの方々はどのような思いで参加されているのか、会場にいらした数名にお聞ききしました。

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治療内科医を目指しているという内科医の女性は、診療の場における患者や社会とのかかわり方の重要性を感じ、専門家の話を聞きたいとの思い参加されたとのこと。
「いろいろな立場のかたの意見を聞けるというのは、普段の職場ではない機会。刺激になりましたし、自分ならどう応えていけるのかを考えるきっかけにもなりました」と、今後の診療に活かしていきたいと話してくださいました。
 
がんゲノム医療に携わる薬剤師の女性は、「国の政策に関わるかたや一般のかたなど、いろいろな立場のかたとのつながりが、医療者だけでは解決できない問題を解決に導くきっかけになれば」との思いがあるそうです。

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また、外科医の男性は、異なる立場の専門家がセッションする様子に「医師は専門知識の中の狭い世界にいるので、医療を違う視点からみられたのがおもしろかったです」としつつ、「反面、今後自分たちが各分野の方々とどうつながり、その関係性をどのように続けていけるのか、とても考えさせられました」と、今後の課題に思いを巡らせていました。

参加者の多くは医療関係者のようでしたが、がん経験者も次いで多く参加されていて、そのおひとりからもお話を伺えました。

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5年前に乳がんを経験されたという女性は、自身の経験を機に、治療による脱毛で髪を失った患者さんと家族との絆を写した写真展を全国各地で開催しているとのこと。啓蒙活動をおこなうなかで、さまざまな視点から“伝わるがん教育”を考えていきたいと参加されたそうです。
「地方に住んでいるとコミュニティが狭くなりがちですが、今日参加したことで、社会をよくしていこうと行動されているかたが全国各地にいるとわかって自分の希望になりました。また、その熱意が広がれば、社会がガラッと変わるのではないかと感じています」とおっしゃっていました。

CancerX summit 2020を終えて

がんとモビリティは一見、縁遠いものに思えますが、診察に必要な装備を搭載した車両を患者の自宅へ送って遠隔で診療するなど、移動しなくても必要なサービスが受けられる人証実験が、国内外ですでにおこなわれています。
弊社のモビリティ事業である「おトクにマイカー 定額カルモくん」では、直近ですぐに貢献できることはまだまだ少ないように感じますが、一方で、「人は移動することで幸福度が上がる」というデータもあるため、移動することや、移動先での楽しさというものにつなげていけたらとの思いも抱きました。

“すべての人のマイカーを届ける”という我々の思いは、がん患者の移動に伴う困難を軽減し、日常に移動の楽しさを提供することにもつながると思います。身体的、精神的な理由から外出が困難な場面では自宅に来てくれるサービスを利用するというオプションの必要性も見据えながら、引き続き信じる道を進んでいきたいと思います。