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100年後のモビリティ社会を考える「MaaSミライ研究所」をスタートします

はじめに

2年ほど前、父がヤフオクで車を買おうとしているのを見て、私は頭をガツンと殴られたような衝撃を受けました。当時の私には、「車は現物を見て、試乗してから買うもの」という先入観があったからです。

父は、決してITリテラシーの高い人物ではありません。むしろ、当時はLINEを使い始めたばかりのIT超初心者。
そのような人が、ヤフオクで車を探し、業者と交渉をしているという事実に「ものを選び、所有すること」における風向きの変化を感じたのです。そして、この驚きが、新しい事業の種になりました。

そして、2018年1月、私が代表を務めるナイル株式会社では、マイカー賃貸「カルモ」を立ち上げました。

カルモはネット完結で申し込みができ、月額定額料金でマイカーを保有できる、車のサブスクリプションサービスです。

「車と人の新たな関係性を作りたい」「次の100年においても日本が世界に冠たる自動車産業を持つ国であり続けられるようにしたい」
カルモの立ち上げは、このような想いを実現するための最初の一歩です。

いま世界では、さまざまなモビリティ革命が起きています。モビリティ分野は、4大プラットフォーマーと呼ばれるGAFA(※)もまだ十分に取り込めていない巨大なビジネス領域となっています。
つまり、かつての「IT革命」や、今まさに進行中の「AI革命」と同様に、さまざまなプレイヤーが参入し、競争が激化していくことが予想される分野といえます。

世界の勢力図がどうなっており、どのような新しい事業が生まれているか。モビリティ革命によって、近い未来、どんな交通社会が訪れるのか
そのようなことを研究するために、このたびnoteにて、「MaaSミライ研究所」をスタートすることにしました。

(※)GAFAとはGoogle、Apple、Facebook、Amazonのこと

MaaSミライ研究所とは

MaaSミライ研究所の目的は、MaaS(マース/Mobility as a Service)をはじめとするモビリティ革命について、さまざまな観点から検討していくことです。月に2本程度ずつ、記事を更新していこうと考えています。

さて、今この記事を読んでくださっている方の中には、「MaaSという言葉を初めて聞いた」という方も少なくないかもしれません。

MaaSとはモビリティの新たな概念です。切符や現金など、アナログツールの利用によって成り立っていた交通サービスをデジタルによって統合し、より快適な移動サービスを提供するというのがこの概念の軸となる考え方です。
もっと簡単に「スマートフォン1つで、世界のどこでも移動がスムーズになる社会を作る取り組み」と表現してもいいでしょう。

例えば、こんなシーンを想像してみてください。

あなたは、お友達の家に行こうと家を出たときに、お土産を買っていきたいと思いたちます。
そこであなたは、ポケットからスマホを取り出し、音声で「◯◯を買って(お友達の家の住所)へ行きたい」と呼びかけます。すると、スマホはいくつかの選択肢を提案。あなたが1つ選ぶと、わずか1分後に、あなたの目の前にドライバー不在の自動運転タクシーが停まります。

タクシーはあなたをある駅に連れて行きます。あなたが改札を抜けホームに出ると、ちょうどそこに電車がきます。そして指定された駅で電車を降りると、駅前にはシェアリングサービスの自転車が停まっている。
そこから自転車で数分のデパートへと向かい、お土産を買ったあなたがデパートを出ると、目の前に乗合バスが来て駅へと連れて行ってくれるのです。
このようにあなたはストレスなくスムーズにお友達の家にたどり着けるのです。

上のシーンでは、スマホに呼びかけた段階で、AIが周辺の交通情報を取り込み、最適なルートを検索してくれます。そのため、目的地に無事たどり着けるかという不安を感じることがありません。
また、利用代金は、スマホに連携したクレジットカードから引き落とされます。わずらわしいお金のやりとりは発生しません。

このように、自動運転車をはじめ、ITを活用した新しいテクノロジーは、従来とは異なる移動体験を可能にします。公共のバスを待つ必要はなく、交差点でイライラしながらタクシーの列に並ぶ必要もないのです。

すでに実現されている世界のMaaSの先進事例

いままで、SF小説やSF映画でしか描かれなかった、夢のような交通社会。その実現のためには、道路などインフラの整備や、道路交通法の改正など、テクノロジー以外の課題が山積みです。

しかし、このような移動の進化は、何百年、何千年という、遠い未来の話ではありません。各国ではすでに取り組みが進んでおり、フィンランドの首都ヘルシンキでは、2016年冬から、モビリティサービスの統合アプリ「Whim(ウィム)」の提供がスタート、また同じく2016年から米国のロサンゼルス市では市役所が開発したマルチモーダルなルート検索サービスがスタートしています。

フィンランドで実現しているMaaSの先進事例「Whim」

出典:https://maas.global/

Whimは、定額料金または都度料金を支払ってポイントに替え、そのポイントを利用することで、電車やバス、タクシー、ライドシェアなどの交通システムが乗り放題になるサービスを展開しています。予約から決済まで一括で行うことができ、最適な交通ルートを自動検索してくれるため、低コストで効率的な移動が可能になるのです。


ロサンゼルス市が開発した自治体主導のMaaS「GoLA」

出典:https://www.lacity.org/

ロサンゼルス市がゼロックスと共同開発したルート検索アプリの GoLAは、20社以上の公共交通やタクシー、配車サービス、カーシェアなどを組み合わせたルートが時間順、エコ順、費用順に提案されるものの、全ての決済がアプリ一括で行えないなどの理由で、Whimに比べて利用者の満足度が劣るようにも感じます。しかし、こちらの大きな特徴として注目すべきは、やはり自治体がサービス提供者となっていることでしょう。自治体が自ら動くことで、MaaSとは切り離せない街づくりとの連携が行われやすいわけです。そこに住む方々の未来の暮らしに対し、モビリティを含んだ快適なサービスが提供されていくことはたやすく想像できるでしょう。

世界各国でさまざまな取り組みが行われているMaaSですが、日本においてはまだ黎明期にあると言えます。日本でこれからMaaSを前進させていくためには、ライドヘイリングや電動スクーターシェアリングなどによる交通手段の増加や新たなモビリティサービスを設計する自動車ベンチャーの出現、また法改正などを含めた行政の後押しが必須と考えます。

なぜ今、MaaSミライ研究所を始めるのか

2018年1月にナイルはマイカー賃貸「カルモ」という新事業を立ち上げ、モビリティ領域への挑戦を始めました。

モビリティの分野で今注目されているサービスは「コネクテッドカー」「自動運転」「電気自動車」「シェアリング」の4ジャンルです。
この中で私がはじめに着目したのはカーシェアリングでした。しかし、日本ではマイカーのシェアリングはまだまだ普及期に入る見込みがないように思われますし、BtoCのカーシェアリングでも地方では採算が取れず、サービス展開が現実的ではない現状です。

日本の多くの人口が住まうのは地方や郊外。東京都23区や大阪市、名古屋市といった大都市に居住する人口は、全体から見れば一部です(総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」2019年1月1日)。

日本の地方都市は、人々がマイカーを所有していることを前提とした都市設計になっています。なんと、地方での人口1人あたりの自動車(乗用車)の所有率は、60%以上にも上ります(一般財団法人自動車検査登録情報協会と総務省統計局のデータから算出)。

地方での主役はまだまだマイカー。そこでナイルでは、その地方に着目し「車のサブスクリプションサービス」ならばニーズがあると考えました。

また、「マイカー」という概念は、地方においても徐々に変化を遂げようとしています。
これまで車は「購入し所有するもの」という考え方が一般的でしたが、近年、カーシェアやレンタカーの認知度向上もあり、車は「必要なときに利用するもの」と考える人が増えつつあるのです。

テクノロジーの進化や、新たなプラットフォームの誕生にともない、人の価値観は変わっていきます。「所有」から、「使いたいときに使える状態にあればいい」という価値観へ。この価値観の転換は、車のサブスクリプション事業を後押しするものにほかなりません。

先にも述べたとおり、カルモは「モビリティ領域への挑戦の端緒」となる事業です。この先、ナイルではコネクテッドカーや電気自動車などに関わる、新たなモビリティ事業を立ち上げる可能性もあります。

100年後を生きる世代に何を残せるか。MaaSゼロ年代といえる今だからこそ「MaaSミライ研究所」を立ち上げる意義があると考えています。

ナイル×MaaSで世の中をおもしろく!

カーローンの返済期間は3〜5年に設定されている場合がほとんどです。ところが、地方では同じ車に7年、8年、9年と長く乗る人が意外に多い。7年や8年の契約ならば、リースでも月当たりの金額は十分減らすことができるのです。

カルモでは現在、新車のみを扱っていますが、今夏を目処に、「中古車版カルモ」の立ち上げを目指しています。対象を中古車に広げることで、利用料金を引き下げ、地方でのさらなる拡大が期待できるためです。

また、これは試算中ですが、中古車版カルモなら月額7,500円程度からの価格設定も実現可能ではないかと見込んでいます。つまり、スマホの分割払いと月額利用料を合わせた程度の金額(あるいはそれより安く)で、車を持てるようになるのです。

現在、カルモでは車を「保有」することに軸を置いています。しかし、将来的に見据えているのは車を「共有」する世界。車を4〜5人で共同保有し、1人あたりの維持費を下げるサービスなどについても、2020年内の実証実験を予定しています。

モビリティの分野は、これから巨大な革命が起きていく革新的な分野です。しかし、日本ではプレイヤーはまだ少数。見方を変えれば、まだ誰も思いついていないサービスをいち早く世に出せる絶好のチャンスと見ることもできるでしょう。

今年4月、ナイルはトヨタ自動車などが出資する「未来創生2号ファンド」を運営するスパークス・グループをリードインベスターとして、複数の投資家から、総額約15億円の資金を調達しました。私たちはその資金をモビリティ革命に投じていきます

ナイルの使命は、デジタルマーケティングで社会を良くすること。これまで培ってきたノウハウを、モビリティ領域に還元することができれば、きっと世の中を変えるおもしろいサービスを生み出すことができると確信しています。

100年後も、ナイルが日本のモビリティ社会に関わるために何ができるのか――。
この「MaaSミライ研究所」で、未来のモビリティ社会のあり方をさまざまな角度から探っていきたいと思います。