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「名言との対話」3月19日。 夏樹静子「椅子がこわい」

夏樹 静子(なつき しずこ、1938年12月21日 - 2016年3月19日)は、日本の小説家、推理作家。享年77。

東京出身。慶應義塾大学文学部の3年時に江戸川乱歩賞への応募(最終候補)がきっかけとなって、NHKテレビで人気の「私だけが知っている」のレギュラー執筆者になる。

結婚して沈黙の後、1969年に『天使が消えていく』で江戸川乱歩賞の最終候補に残る。以後、ミステリーを量産していく。弁護士朝吹里矢子シリーズ。検事霞夕子シリーズ。長編小説。中・短編小説。アンソロジー。エッセイ・ノンフィクション。翻訳。

また、作品は日本テレビ・TBS・フジテレビ・テレビ朝日テレビ東京などでテレビドラマになっているから、この人の名前はよく知られている。ミステリーは300本ほど書いている。1984年の『妻たちの反乱』はベストセラーになった。

趣味の囲碁ではドライアイを和らげるためにグリーン碁石を開発し普及した。これで日本棋院から大倉喜七郎賞を授与された。2007年、日本ミステリー文学大賞を受賞。

二冊目の単行本『見知らぬわが子』では、7編の短編が収められており私も読んだ。ここには夏樹ミステリーのルーツがある。家庭を媒介とする男女の葛藤のドラマであり、女性と母性の視点が特徴だ。

夏樹静子は福岡に住んでいた。夫君は石油の出光の関係者で新出光の会長である。夏樹静子の本名は出光静子である。

1997年の『腰痛放浪記 椅子がこわい』は、日本での心療内科が広まるきっかけをつくったと言われている。54歳の完璧主義者の仕事人間・夏樹静子は1993年からの約3年間腰痛に悩まされた。「遺書」「死」「真暗闇」などの言葉が踊る。その克服の記録である。多くの読者の共感を得て、今なお売れ続けている作品だ。良い評判を聞くとすぐにかかり絶望するという遍歴と放浪を重ね、最後に行き着いたのは自身の心の問題であり、夏樹静子を捨てて本名の出光静子に戻るというミステリー仕立てになっている。

この本の中で、私の知り合いが3人登場していて驚いた。彼女が二ヶ月入院した大分県中津市の病院長・川嶌真人先生(50前後)は私の母の友人(ちょうど本日、川島先生の80歳の傘寿記念の『玄真堂と私の歩み』という冊子が届いた)。JALの塩田年生福岡支店長(夫の親友)は私のJAL広報課長時代の広報部長(故人。常務取締役)。九大教養部心理学科の藤原勝紀教授(50歳)は私の九大探検部時代の先輩(51歳のときに河合隼雄先生に招かれて京都大学に転出)。

内科と心療内科の医師である平木英人は「典型的な心身症」という診断を下し、自律訓練法森田療法、絶食療法などで、自身の心では支えきれなくなったワーカホリック夏樹静子から別れ、1年間かけて出光静子への再生を図り、ようやく平穏な日々が訪れる。そしてまた本の執筆が始まる。「この本(『椅子がこわい』を、私に心身の健康を取り戻して下さった平木英人先生に捧げます」という感謝の言葉には、万感の思いが凝縮されている。

2024年3月に、臨床心理の大御所となっている京都大学名誉教授の藤原勝紀先生夫妻と、腰痛経験のある妻も交えて食事をした折に、夏樹静子の『椅子がこわい』が話題になった。藤原先生は、夏木静子と結婚後の出光静子、それに加えて旧姓の五十嵐静子という3つの自分の矛盾が腰痛の深因だと指摘していた、それが最後に書かれていたらもっとよかったが、と言われた。心因性の腰痛にはこういう原因もあるということを知った。


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見知らぬわが子 (光文社文庫)

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