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乗せてってくれぇ! 『平家物語』で翻作学習その1

首藤 久義

9時間 · プライバシー設定: 公開

 『平家物語』には、朗読劇にふさわしい場面が多くある。
 俊寛一人が島に残されてもがき悲しみのたうち回る「足摺り」の場面もそのひとつである。
 それを朗読劇に翻作して上演すると、翻作して作る演じるプロジェクトになる。
 次に示すのは、私首藤が試作した台本である。会話の部分は古語のまま書き写し、語りの部分は現代語に直している。

 舟が押し出されると俊寛は、綱をつかんでついて来て、水に膝まで浸かり、脇まで浸かり、深く足が立たなくなると舟につかまって浮かび、

 「さていかにおのおの、俊寛をば遂に捨てはて給ふか。是程とこそ思はざりつれ。日ごろの情も今は何ならず。ただ理をまげて乗せ給へ。せめては九国(くこく)の地まで」

と訴えたけれど、みやこの使者は、

 「いかにもかなひ候(さうら)ふまじ」

と言って、俊寛の手を舟から引き離し、沖に向かって進んだ。俊寛は仕方なく、渚にもどって倒れ伏し、幼児が乳母や母などを慕うように、浜に足摺りして悔しがり、

 「是(これ)、乗せてゆけ、具(ぐ)してゆけ」

と、わめき叫ぶけれど、漕ぎ進む舟は岸から離れて、あとには白波ばかりが残った。

 この朗読台本の、会話の部分の文字を大きくしたり色をかえたりすれば、さらに読みやすくなる。
 古語の部分については、本文の右側に読み方を書き添え、左側に意味を書き添えると、朗読がより容易になるだけでなく、その意味内容にふさわしい朗読の仕方を工夫しやすくなる。このような朗読台本を教師が作って子どもに提供してもよいが、教師の助言を得ながら、子ども自身が台本を作れば、さらに充実した学習になる。
 実際の授業では、『平家物語』全体から、朗読劇にふさわしい場面を選ぶようにするとよい。
 この活動を通して得られる学習上の効果としては、古典に親しんだり、内容理解をより正確にしたり、文章表現力が高まったりするということが考えられる。朗読劇の上演に向けて練習し、実際に朗読上演することを通して、古典の響きを肌で感じることにもなる。
 一つの場面を一人で朗読することもできるが、複数の子どもで役割分担して朗読することもできる。その際、配役を交換して朗読上演すれば、内容の理解がより多角的なものになる。
 あるいは、『平家物語』を現代語訳した漫画を利用して、朗読劇の台本に作りかえることもできる。その際、吹き出しの中の現代語訳に相当する原文を探して、それを、吹き出しの中に書き込んだ漫画に作りかえることもできる。

 拙著『国語を楽しく』第4章「翻作のすすめ」参照。https://amzn.to/3XSzSc9

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