国語科を超えて広がる作文学習の場

1. 脱!原稿用紙作文
 作文の時間だから書く、とか、原稿用紙を配られたから書くとかいうような作文の場は、生活に役立つ書く力を高めるために効果的ではない。効果的な学習を成立させるには、学習者が、生活に役立てるという目的を持って、書く活動を展開するような場を設けることが必要である。

2. 生活上の目的のために書く
ここで言う生活には、日常の家庭生活だけでなく、仕事(学業を含む)や遊びなども含まれている。したがって、生活に役立つ文章には、日常実用文から、仕事や学習に役立つ文章から、物語・小説・詩・短歌・俳句等の文芸的な文章までが含まれている。
したがって、書くことの学習支援で扱う文章は、メモや手紙や届けなど日常実用の文章を書くことから、自然科学・社会科学・人文科学の全分野にわたる学習上の文章や、科学的な記録・報告あるいは論説を書くこと、及び広義の「遊び」に属する芸術の文章つまり文芸(物語・小説などの散文芸術から、詩・短歌・俳句など韻律のある韻文芸術までを含む。)にまで及ぶ広い範囲のものになる。
遊びや芸術が生活に役立たないとは考えない。遊びや芸術は、生活に潤いを与えて、生きる力をよみがえらせてくれるという仕方で、生活に大いに役立っていると考えるのである。

3. 国語科や教科を超えて広がる作文学習の場
 そう考えると、書く学習の場は、各教科、教科外、生活全般に見出すことができるようになる。掲示板に書いたり、学級新聞に書いたり、学級日誌に書いたり、七夕飾りの短冊に書いたり、年賀状や暑中見舞状を書いたり、親戚や友達に手紙を書いたり、入院中の友達への見舞い状を書いたり、理科や社会科のレポートを書いたり、卒業前の寄せ書きを書いたり、卒業文集を作ったり、学級歌を作ったり、各種のメモを書いたり、創作詩集や創作物語集を作ったり等々の場が、生活に役立てるという、種々の目的に応じて書く力を高める学習の場になる。
 具体的には、
①新聞やチラシを作ること、
②学校の廊下に掲示する標語を作ること、
③歌・俳句の色紙・短冊・句集・歌集、詩画集、創作物語集を作ること、
④芝居を作ること、
⑤人形劇や影絵劇やビデオ劇の台本を作ること、
⑥図書室の利用案内と蔵書紹介をする冊子を作ること、
⑦生い立ちの記を作ること、
⑧郷土を紹介する小冊子を作ること、
⑨修学旅行や見学遠足のガイドブックを作ること、
⑩運動会の案内状や保護者会で行う学習発表会への招待状を書いて届けること、
⑪学級郵便局を通して交流する手紙を書くこと、
⑫学校放送の台本を作ること、
⑬本を紹介する1分間動画の台本を作ること、
⑭生活科の学校探検で先生方に出す質問状を書くこと、
⑮生活科の活動の中で観察絵本や学校植物図鑑を作ったり、お店屋さんごっこで使う広告や看板や値札、展示物に付ける解説カードを作ったり、自己紹介文集やジャンボ名刺を作ったりすること、
⑯社会科の学習活動の中で、暮らしや水や国土についての冊子を作ったり、歴史新聞や地域情報紙や冊子を作ったりすること、
⑰社会科や理科や家庭科で各種の研究発表資料を作ったり、ポスターセッションのポスターを作ったりすること、
⑱自分たちの考えたマット運動のイラスト入りマニュアル・ブックを作ること、
⑲自分たちで考えだしたお菓子の写真入りレシピや地域に伝わる料理のレシピ集を作ること、
⑳学級生活を改善するための提言集を作ること、
㉑家庭訪問で使う「言葉の地図」を作ること、
㉒地球環境を守るキャンペーン冊子やビラやポスターなどを作ること、
㉓2番までしかない歌詞の3番を作ること、
㉔手作り葉書による季節の便りを出すこと、
㉕自作の詩をのせた手作りカレンダーを作ること、
等々、数えあげればきりがない。

4. 二重カリキュラム
 そのような広い視野に立って佐生遺文学習の場を考えるためには、「二重カリキュラムdual curriculum」という見方が必要になる。
「二重カリキュラム」という見方は、ある一つの学習活動の場の中で、書くことの学習が行われると同時に、書くことを通して、書く内容の学習が行われるという見方である。
言い換えると、書く内容の学習と、書く技能の学習との両方の学習が、融合的・相補的に成立するという見方である。
さまざまな教科等の知識・技能・態度が、書くことを通して学ばれる同時に、書く力も伸びると見るのである。
書くことは作文学習の時間に、社会科の内容は社会科学習の時間に、学校行事は学校行事の学習の時間にというように、ばらばらに切り離して学習させるのではなく、カリキュラム全体を見通す広い視野をもって、それらを、融合的・相補的に学習させようとするのである。
それが、「二重カリキュラム」という見方である。
聞くこと・話すこと・読むこと・書くことは、国語科の枠を超えて、学校教育のほとんどあらゆる分野で行われていて、そのすべてが、言葉を使い、言葉を使うことを通して、言葉を使う力を伸ばす学習の機会になっている。
その機会を、言葉の学習、つまり国語の学習の場として生かすためには、国語科の枠に閉じこもらない、広くて柔軟な発想が必要である。

5. 情報リテラシーとしての書くこと
 総合的に活動が展開される単元で学習者たちは、現地や文献資料を通して、見たり、聞いたり、読んだり、体験したりして、情報を入手し、選択・整理・修正を加えて加工して、図表や文章を作り、本にしたり新聞にしたりビラにしたり、手紙にしたり口頭で発表したりして、特定あるいは不特定の相手に向けて情報を送り出すという一連の活動を行う。
そこでなされる書く活動は、読む、聞く、話す、その他の方法で情報を受信し、活用し、生産し、発信するという、情報処理活動の一環として行われる書く活動である。
 高度情報社会と言われる現代社会に必要で役立つ書く力とは、通信情報機器や新聞・書籍等の紙媒体を活用して行う情報活用能力、言い換えれば情報リテラシーの一部としての書く力である。
そういう力を伸ばすためには、現代の生活全般にわたる広い範囲に役立つ、さまざまな文書を書いて役立てる場を考えて、その場を学校のカリキュラムの中に組み入れることが必要になる。
書くことの学習だけでなく、読むこと・話すこと・聞くことの学習についても言える。言葉の学習は、言葉による情報活用能力を伸ばす学習でもある。
作文学習は、原稿用紙に鉛筆で書くことであるという、古くて狭い作文学習のイメージから解放されることが、今こそ必要である。

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