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「ムカデ人間2」に失望した

幼稚な映画趣味の人って「オススメの映画教えてくださいよ〜」って話繋ぎに聞かれてちょっとニッチな映画を教えて通ぶる傾向がある。逆にテルマエ・ロマエとか答えた方が株上がるけど知ったこっちゃないだろう。

しかしそんな映画趣味人間ですらきっと「ムカデ人間2」は敬遠することだろう。知的好奇心で、先日、本作を観たと頃私はすべてを後悔した。その日の全てをだ。

夕食を摂ったことも、映画をアマプラでレンタルしたことも。ただ救いもあった。翌日のバイトが休みだったことと映画を1人で見た事。

こんなもの他人とふたりで見てみろ、終わる。人間はこの映画を見た直後に他人に見せる顔なんてプログラムされていない。


人間の口と肛門を接合した“ムカデ人間”を創造するという設定と描写で賛否両論を巻き起こしたインモラル・ムービーの第2弾。前作に感銘を受け、自分の手でムカデ人間を作り上げようとする中年男の狂気と凶行を映し出していく。メガホンを取るのは、第1弾に続いてトム・シックス。前作『ムカデ人間』で注目を集めたアシュリン・イェニーが本人役で登場し、中年男の欲望のえじきになる女性を熱演する。バールやホチキスで肉体を傷つけ、つなぎ合わせる、凄惨(せいさん)な描写にも圧倒される。

この手の映画はグロ映画なんて安いレッテルを凌駕する「悪趣味映画」と呼ぶといい。「幸」のエネルギーがゼロだし脱力してる。人間を不快にさせるための代物。

しかも需要はある。テーマなんかなくてもいい。なんなら予算を全振りして本物の死体と役者を1人雇えば大雑把だが成立する。こんなのnaverまとめのグロ映画特集で観たいなーいつかってぼやいときゃよかったんだ。

実際観るべきじゃなかった。後頭部にまだ余韻がある。バイト先で理不尽に怒られた日か、葬式の後、それよりずっと酷い余韻が。

私は、グロ映画が大好きだ。多分人並みよりは耐性もある。二次元のグロとかCGには弱いけれど。その証拠にグロ映画で笑える。

グロ映画ないし悪趣味映画を楽しめる人間の特徴として、観賞中に笑うことが挙げられる。一部の人間は非現実的すぎる表現に圧倒されると笑ってしまうのだ。傍から見りゃとち狂ったその反応は案外よくあることなのだ。今のところ私の周囲にはひとりもいないけれど、きっと悪趣味映画の人たちはシャイなのだ。

つまり「ムカデ人間2」はその狂気的な笑いを起こす映画だ。100か0しか表現の幅がない。気持ち悪いか気持ち悪くないか。そんでもって大半のシーンが100に該当する。暴力、流血、内蔵、粘膜、排泄、比較的ポップな地獄が私たちを襲ってくる。

そしてこれらを繰り出す主人公、マーティン。まともにセリフがなく、ムカデ人間を作ろうと拉致を繰り返す変態野郎。こいつもギリギリだ。爬虫類なり水棲生物なり異星人なり混ぜ合わしたように不気味な容姿が、モノクロのせいで余計に怖い。

同じ人間とは思えない彼だが、あるシーンでは彼も人間らしい屈辱の感情を露わにする。何気にそのシーンはこの映画で最も気持ち悪くなかったシーンだ。

ただそれが跳び箱のロイター板踏み込み的なシーンだったのかも。その後の彼は極悪になる。極悪になって観賞者の大半の目を背けさせ、一部を笑わせる。

まさに映画界の消費者金融。大多数の恐怖であり極一部の救済。私にとっては救いの類だ。実際笑ったし。あれで笑ったの、キモっと思った人は世間の言う正常だ、ザマーミロ。

私はこの映画を楽しみ、最後まで観て失望した。それはほんのシーン、主人公のあるアクションをきっかけに結末まで続いた。ネタバレほどのことではない。

そもそも観賞者の大半が予想するとおり、この時代の映画の結末は「悪人がこんなこと思いついた、成功しました、おーわり🎶」では駄目なのだ。

主人公を陥れる展開、つまり苦難という主人公イジメが求められる。本作も例に漏れずいじめのシーケンスが見て取れた鈍重な映画に反してスムーズに進むムカデ人間計画だが、しかし一筋縄では行かずバグが生じる。

そのバグに対する主人公マーティンの行動。詳細は明かさないが、彼は感情的な行動に出たのだ。私はそれに酷く失望した。ここまで最低な演出で私を魅了した映画が、そのシーンをきっかけに色褪せてしまった。ほとんどモノクロで構成される映画だが、それだけ実際の色彩を想像してしまう魅力があった。その魅力が褪せたのだ。

本作の主人公は前作のハイター博士、似た立場なら「ソウ」のジグソウ、「羊たちの沈黙」のレクター、「冷たい熱帯魚」の村田、凶悪な悪役とはいつも一貫性があるものだ。マーティンはムカデ人間のために熱意を見せる、博士的な、冷静とは程遠いが魅力的な悪役だった。

しかし些細な失敗から途端に崩壊してしまう矮小さが、私には正直言って間抜けで、とても主人公の行いではないと思えた。予想を裏切るという意味でこの展開を選んだ製作者の意図は正しいのかもしれない。しかし私はそれ以上に、傑作になりかけたムカデ人間2が崩壊してしまったのがとてつもなく惜しかった。

花火が上がる直前に中止になった祭りとか、デートをドタキャンされたときと同じ気分で、失望が残った。

映画はそのシーンを境に、前半の最低から、また別の最低へとシフト、やはり最低な結末へと進んでいく。

ムカデ人間は最低。そして、娯楽映画しか知らない人間の世界を覆す怪作だったと思う。けど観なくていいし観るなら超健康な状態で臨み、翌日は休暇を取るべきだ。

Writer of Wide Scence