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わたしばっかりわたしだけ

わたしがなんにも映さないので テレビは帰りたがっている わたしが仕事を与えないので 冷蔵庫は旅に焦がれている 私が何も求めないので 本は風に吹かれたがっている 私が眠ってばかりいるので 布団は内臓を傷めている 私がからだを休めたので この部屋は呪いをためこんでいる 私がごみを捨てるので この街はしかめつらをきめている 私がなにでもない様子なので この国はどんどん膨らんでいる 私がため息をついたので この星は希望を少しだけ削る

    • コミュニケーション

      すっかり朝な線路沿いの憂鬱 自転車駆けていく静かな道路 空白を見つけては歌を歌い すれ違うたびに黙った 数分 辿り着いたマンション エレベータで親切な男と乗り合わせ 酷い体臭に目を細めて 気づかれるように会釈した 帰ってきた自宅はそれはもう 笑えないほど散らかっていて 気づかなりふりした人間性が わたしにもあると思い知る わたしだって独特の匂いを まとって生きていると思う 堪らず伸びた髪を嗅いだ まだシャンプーの香りがする 夜に目覚めて働いた 朝我に返って帰宅した わ

      • あんぐすと

        住宅地を横切れば 制服姿と目が合えば 可愛い目に睨まれれば 優しい香りの不安に まとわりつかれて呼吸困難 耳栓も身分非証明にはならないから 手をポケットに隠して強がる 本能が唸っている 目的地が見当たらない 地図を疑う気力も湧かない 残された命が帰ろうと 君のいない部屋へ帰ろうと言う

        • 考えたくない

          見栄を張って歩くこと 許されなくて背を丸めた 耳を塞いで 口を隠して 許さないのは何より僕だってこと 本当に気づかなかった真実は つまらないから空き缶に詰めて捨てた 歩いても歩いてもすぐにお腹が 痛いと喚いて振り出しへ戻る 戻った途端に収まる慟哭 怒りだけ残して死んでいく 体がやる気をなくして 空模様のせいにする どうか希望を見せないで 断る理由を探さないで 否定の否定を否定しないで 本当を枯らさないで

        わたしばっかりわたしだけ

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        記事

          インサイド・バイオレンス

          「やめて」 と言うとゲニルがえ?と聞き返した。体はテレビの液晶に向けたまま、首をひねってこちらを見る姿はくだらないヤンキー風情のポージングにも似ていた。不安定にしゃがんで、プレイステーション3のコントローラでビデオサブスクリプションを起動したのがさっき。変わらない体勢で、画面は見えないけれど、きっと再生までもう間もない。 「お願いだからやめて」 「カノコ」 ゲニルが立ち上がった。ソファとテーブルの合間を縫って、すっかり古びたフェイクファーのスリッパをポコポコ言わせて、

          インサイド・バイオレンス

          鮮度

          初恋の味がなくなる前に とびきりの幸福を手に入れて 落ちぶれてしまいたい 苦痛はみんな道端へ投げてさ 肉が育つほど 髪が伸びるほど 骨が折れるほど生きた町を 愛して務めるからその代わりに 醜い憎悪を抱かせないで 田園を走る火車が脱線して 生まれた瓦礫の上に城を立てた 歴史は先人といっしょに消えた 次の列車は

          ひと駅の詩

          忘れた流行歌を数えて ワンフレーズの呼吸 呟いた愛の言葉 またも数えて時間無駄にした 何の文句がある 時間は有限だが膨大 命はからっぽで無限 筋のないクレームならやめて ひとりになって電車に乗った 車内は国道と同じく孤独が隣合う 孤独がふたつの目でこっちを見ている 組んだ足を思わず戻した

          ひと駅の詩

          かわいいが溢れて

          かわいいが溢れていて 息をつくのも大変な日々 空いた電車の窓から ふっと顔見せるのは たとえば今にも壊れそうな家屋 禿げてしまった広告看板 がらんどうのビルの一角 待合室で崩れた人 みんなかわいいを孕んでいる 死ぬまで消えないから かわいいはかわいそう ざまあみろ、嫌な意味じゃなくて

          かわいいが溢れて

          なにがなんだか

          君はよく比喩表現するよね あれが似ていてこれは異なる わかりません何一つ もっと簡潔にお願いします 何がなんだかわからない世界は 色とりどりの暗黒だね お幸せで何より そのまま死ねたらいいね すきま風に苛立っては またカロリー消費して そのくせ体積は現状維持 疑うのは正気だけじゃないぜ 何がなんだか知りたいのよ それくらい整理してもいいでしょ 全部あなたのせいで 世界は滅んでしまうの 右手に重ねた右手 左手が拾った汚染 無理しないでよ凡人 気持ちは一緒 何がなんだか

          なにがなんだか

          世界を滅ぼして

          動機なんて単純 仕方ないの繰り返しが 体を強ばらせて 私を温めて世界を冷たくする 嫌になったから叫びたい 叫ぶ場所をレンタルしないと そんな金ないから働いて 振り出しに戻る 世界を滅ぼしてよカルチャー 働きアリになった赤ん坊をあやして 正解を滅ぼしてよベイビー 共倒れまで許容するから 紙の裏側で声がする 罵詈雑言の軽いバージョン 俯きがちな訴え文句 解釈は大抵が上っ面のビューティフル 世界を滅ぼしてよジーニアス 毎日を敵のない革命で彩って 政界を滅ぼしてよジェネラル

          世界を滅ぼして

          詩を書きました

          詩を書きました しをかきました shi wo kakimashita 死を書きました 死を描きました 紫を描きました 紫を書きました 紫を欠きました 詞を欠きました 詩を欠きました 死を夏季真下 死を覚悟しました 詩を覚悟しました 詩を書きました 詩を書きました 詩を書きました 詩を詩を詩を詩を まっさかさま

          詩を書きました

          ダーリン

          変わっていく友達を見送って 内省をひたすらに拒んだ 半年経った私には 狭い部屋だけあてがわれた 薄闇の夜明けを走り 私のためだけの光に逃げ込んだ 閉じ込めた孤高の天才 永遠を握りしめた 体のないダーリン 私今夜はまだ眠りたくない まだまだ遊んでいたいの 炭酸のジュースもらってきて 不安が肌を撫でるのは きっと退屈の予兆であります 手軽な異空間を開いて 無関心の世界があるでしょう 後ろめたいダーリン 疲れたからもう眠りたい 冷たい夜に幕を閉じた 丸まった毛布を伸ばして

          ダーリン

          巨乳好きがおっぱいに触るとき思っていること【A~Fカップ】シナリオ

          ○Aカップの乳房が画面いっぱいに表示される。  男がそれに手を触れる。 男「なんということだ。まったくといっていいほど余計な凹凸がない、肌から手が滑り落ちそうだ。肌をなぞっていけばやがて指がたどり着くのは確かな主張を続ける硬い乳頭。この落差が、決して衰えぬ若々しい形が愛おしすぎる」 ○Bカップの乳房が画面いっぱいに表示される。  男がそれに手を触れる。 男「これはすごいぞ。小高い丘のようななだらかな膨らみは、しかし疑いようのない柔らかさで満ち満ちている。這わせた指は暖かな湯

          巨乳好きがおっぱいに触るとき思っていること【A~Fカップ】シナリオ

          瞬間、言葉、重ねて

          腹に水が溜まったら 凍らせて言葉にしなさい 忘れられないのなら 思い出したくなくなるまで 保存して 瞬間の言葉を重ねて できあがった氷は きっと文字の芸術

          瞬間、言葉、重ねて

          光が漏れて あたしの頬を焼いた 向こうから光が迫る 逃げろ! 燃えてしまうぞ 光源が 身体に触れたら なくなってしまうぞ! なにもかも

          Gを巡る堕落

          人間は生まれ落ちた瞬間が最高。それこそ肌が赤くて毛が薄い、外気にさらされて数秒の時期が人間としての絶頂なのだ。後は身体が無駄にでっかくなって、蛇足な知識やら肉体やら本来不必要な体力なんかをぶくぶく蓄えて堕落していくのだ。成長とか進化とかは体の良い堕落だ。 そんなこと考えていた時期があった。実際のところそいつは小説を書くためにでっち上げた思想で、実際はきっとそんなことないのだ。だって赤子のまま美しいまま生きたら、生涯美味いものは食えないし、身体をいじくり回して遊べない。衣食住

          Gを巡る堕落