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拡散するエルメートの遺伝子 〜 マリアーナ・ズヴァルギ

(4 min read)

Mariana Zwarg Sexteto Universal / Nascentes

たいへんキレイなジャケットですね。それだけで聴いてみたくなる、ブラジルのフルート奏者マリアーナ・ズヴァルギ(Mariana Zwarg)のアルバム『Nascentes』(2020)。デビュー・リーダー作ですかね。マリアーナはイチベレの子だそうで、そっちのほうはベーシストにしてエルメート・パスコアールのブレイン。マリアーナもそうかどうかわかりませんが、かなり密接な関係があるそうです。

なんでも、そもそもこのアルバム『Nascentes』は、エルメートきっかけで誕生したみたいですからね。2016年にスペインの音楽フェスティヴァルに招かれ、そこでエルメート・パスコアールに捧げるショウのディレクションを任されたのがマリアーナだそう。

それでマリアーナは多国籍編成の七人バンド(ブラジル人二名、フィンランド、オランダ、ドイツ、フランス人が一名づつ)を結成。それでセッションを重ね音楽の完成度を上げていったのが、このアルバムの完成につながったそうですから。Sexteto Universalという名称だってエルメートを意識したものでしょう。

それにですね、このアルバム『Nascentes』では、三曲でエルメート本人がゲスト参加。父イチベレも二曲参加していますけど、そんなわけで、このマリアーナのデビュー・ソロ・アルバム、エルメートの遺伝子を濃厚に継承・展開したような音楽だと言っていいと思います。

エルメート参加曲は、まず2曲目がそうですけど、ここでのエルメートのヴォーカルはぼくが苦手とするタイプのもので、ガラガラ、ブルブルって、なんなのこれ。エルメートはいろんなアルバムでこれをよくやりますけど、う〜ん、どこがいいんだろう?でもマリアーナの書いた曲はキレイですし、全体としてはバンドの演奏もいい。

そう、曲がいいし演奏も充実しているなというのがこのマリアーナの初リーダー作で言えることで、このへんはエルメートのDNAをイチベレ同様継承しているんだなと実感することができますね。エルメート自身のパフォーマンスはいただけないばあいがときどきあっても、音楽的アイデアや曲はいいんだ、それをサウンド化する実力がないだけで、と以前bunboniさんもおっしゃっていました。

イチベレの2018年作『Intuitivo』がまさにそんな音楽で傑作でしたけど、マリアーナのこの『Nascentes』も同じ。エルメートの抱く音楽的アイデアをみごとに具現化してみせたアルバムと言えるでしょう。書く曲やアンサンブルは、たいへん難度の高いものでありながら気負いがなく、音楽の喜びと躍動感に満ちあふれれているのがよくわかります。自身のフルート演奏だってみごと。スキャット・ヴォーカルはまあまあですけど。

こんなふうになってくると、エルメート・パスコアールという音楽家っていったいなんなのか、どういう存在なのか、考えなおさざるをえないかもしれませんよね。1970年にマイルズ・デイヴィスと共演したもの(『ライヴ・イーヴル』など)を聴いて以来ずっとぼくはエルメートが苦手で、遠ざけてきたんですけど、ズヴァルギ親子のようなアイデアを具現化できる高い能力の持ち主にかかるとこんなに楽しい音楽になるわけですからね。

(written 2020.12.30)

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