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まるでハービー・ハンコックみたいにファンキーでかっこいい「ジョイシー」でしょんべんチビる 〜 メアリー・ルー・ウィリアムズ

(6 min read)

Mary Lou Williams / Joycie

ジャズ・ピアニスト、メアリー・ルー・ウィリアムズ1965年の演奏「ジョイシー」、あんまりにもファンキーでカッコよすぎて、しょんべんチビリそうですよねえ。Spotifyとかにはないけれど、上のYouTubeリンクでみなさんぜひ!お聴きください。

このメアリー・ルーの演奏「ジョイシー」は、『ザ・ジャズ・ピアノ』っていうCDアルバムのなかの一曲で、このアルバムは1965年6月20日のピッツバーグ・ジャズ・フェスティヴァルにおけるライヴ録音を収録したものなんですね。

ピッツバーグあたりからはむかしからたくさんの好ジャズ・ミュージシャンを輩出していますが、この年のピッツバーグ・ジャズ・フェスティヴァルは<ジャズ・ピアノ・ワークショップ>というものを開催。メアリー・ルーのほか、ウィリー・ザ・ライオン・スミス、アール・ハインズ、デューク・エリントンなどなど、古参ジャズ・ピアニストが一堂に会して、さまざまなスタイルのジャズ・ピアノ演奏を披露して競演するといったものをやりました。

みんなが自己のスタイルを確立した際のその古典的なジャズ・ピアノ・スタイルで演奏するなか(それもすばらしくてぼくは大好きなんですけど)、メアリー・ルーだけは、やはり1920年代頭に活動を開始したという古参キャリアの持ち主でありながら、しかし1965年というコンテンポラリーなその時代のファンキー・プレイをくりひろげたのでした。ビックリですよねえ。

上でリンクしたそのYouTubeファイルはぼくが自分で上げたものなんですけど、も〜うあまりにもすばらしいと思ってですね、これぞ音楽ファン、ジャズ・リスナーのみなさんとぜひシェアしたいと、その思いでアップしました。でもいままでの再生回数がたったの552回ですよ。なんてこった。7つのイイネがついていますから、それでも好評の部類に入るのかもでしょうけどね。

でも再生回数がちょっと少なすぎるように思いますよ。こんなにもカッコイイのにねえ。1965年でここまでファンキーに弾けたジャズ・ピアニストって、ほかにはハービー・ハンコックくらいじゃないのですかね。メアリー・ルーのほうはしかも1922年に活動をはじめて、第二次大戦前に評価を確立しているっていうキャリアなのに、どうですか、このファンキー・ジャズ・ロック!いったいどうしたんですか、なにがあってこんなにファンキーになっているんですか?

この「ジョイシー」は、お聴きになればわかるように、曲としてあらかじめ書かれたものではありません。ただの12小節3コードの定型ブルーズなんで、キーとテンポだけ決めて、あとは三人せ〜の!で演奏をはじめただけの完全即興なんですよ。だからナチュラルでスムースな、自然発生的なフィーリングでこんな8ビートのファンキーなジャズ・ロックができあがっているということで、メアリー・ルーがシックスティーズの時代の空気をまさに呼吸していたというあかしですよね。

ちょうどこの二、三年前に録音・発表されたハービー・ハンコックの「ウォーターメロン・マン」とかリー・モーガンの「ザ・サイドワインダー」とか、完璧にその系譜に連なる演奏で、いやあもうカッコイイなんてもんじゃないですね。最初の1秒目から音が消えるまで、すべてインプロヴィゼイションで成立しているんですけど、シングル・トーン弾きもブロック・コード叩きもピアノの音の粒が立っていて、1960年代を生きるブラック・アメリカンとしてのファンキー・ジャズ・ピアノ感覚横溢じゃないでしょうか。

もうこのメアリー・ルーの「ジョイシー」がぼくは大好きで大好きで、でもCDアルバム『ザ・ジャズ・ピアノ』じたいこの世でほとんど知られていないものですから、こんなにファンキーでカッコいい「ジョイシー」だってだれも聴いていないんだ、ましてやその魅力を語って伝えようとする人間なんてだれもいないんだ、と思うとくやしくて、残念でたまりません。

ほ〜っんと〜っに!カッコイイんですよ、このメアリー・ルー・ウィリアムズの「ジョイシー」。もしこの路線でアルバムを一枚でも制作していたならば、たとえばそれがブルー・ノートからでも発売されていれば、そのアルバムはいまごろ1960年代ジャズの名盤としてあがめられ、メアリー・ルーだってその時代を生きたピアニストとしていまだハービー・ハンコック並みの評価を維持していたはずですよ。

(written 2020.9.4)

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