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参加する楽しみをおぼえたぼく 〜 ライヴ・アルバムを聴くときに

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ダニー・ハサウェイの『ライヴ』(1972)ですが、たとえばこれの4曲目「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」。フェンダー・ローズ・ピアノを弾きながらダニーが歌っていますが、1コーラス目でサビのリフレインに来たら、一斉に観客が大合唱をはじめるでしょう、それでダニーはそれに任せて自分は歌うのをやめています。

実を言うとですね、長年ぼくはこういうのがキライでした。素人の観客の楽しみの大合唱なんか聴いてどうすんだ?と。マイクが立てられているわけでもないから声がオフ気味だし、現場ではいいかもしれないが、レコードやCDや配信だとどうにもちょっとねえ…、って思っていました。

ライヴ・アルバムだとこういうことはわりとよくあって、だれでもいいけどたとえばプリンスなんかでも有名曲、そうだなあ「パープル・レイン」「ラズベリー・ベレー」「リトル・レッド・コルベット」とか、その手の大ヒットして観客みんなが知っているものだと、その有名フレーズが出てくるサビのリフレインを客席の合唱に任せて、ステージの歌手本人は歌っていないんですよね。

そのほかライヴ・アルバムだと実によくあることで、だから上でも触れましたがその場にいる観客や歌手本人などにはいいでしょうけど、録音したものを、無関係のぼくら一般人にそのまま聴かせられてもなぁって、ずっと思っていました。キライでしたねえ。ぼくはプロ歌手がちゃんと歌うのを聴きたいんだからねっ、ってそう思っていました。

ところがですよ、ちょっと思い出してこないだダニーの『ライヴ』を聴きかえしたんですよ。「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」のサビのリフレインの、ダニーは歌わない観客の大合唱パートになると、どうしてだかなんだかほっこりした気分になって、これもいいなあ〜って、心からそう感じたんですね。

それで、あれっ?と思って同様のパートがあるライヴ・アルバムをいくつか聴いてみたら、やっぱりキライだと感じないんですね。むしろあたたかい気分になるっていうか、これがライヴの楽しみだよねえ、お客さんもみんな楽しんでいるんだなあ、ステージの歌手だっていい気分かも、録音されたものをSpotifyで聴いているぼくだって悪くない気分で楽しいひとときを過ごせるなあって、そんなことになっているんですね。

いったいいつからぼくはこうなったのでしょう?いつごろどうして変わったの?

自分のこの変貌の原因をちょっとさぐってみたんですけど、どうやら2018年暮れ〜2019年とあんだけたくさん通ったわさみんこと岩佐美咲ちゃんのライヴ・イベント生体験のおかげなんですよね。わさみん生イベントも参加型っていうか、サビで客席大合唱ということにはなりませんが(そういう曲のつくりになっていない)、ステージと客席が一体となって、声もどんどん飛ぶしぼくも飛ばすし、みんなでいっしょにもりあがろうっていう、そういうやりかたなんですよね。

それで、ぼくのなかでライヴに対する考えかた、接しかたが変化したということじゃないかと思います。わさみんイベントやコンサートに通うようになるまでにぼくが人生で体験してきたライヴといえばだいたいがジャズ系のそれで、だから客席からの拍手だって曲が終わってからのことで、曲や歌が進行中に客席がにぎやかだなんてことは皆無だったんです。

これはどうやら日本での事情らしい、アメリカなんかだとまた違うらしいっていうのは、40年ほど前にマイルズ・デイヴィスが「日本の客席が静かなのはブラック・ピープルがいないためだろうと思います」と、1975年来日時のインタヴュー(『アガルタ』付属ブックレット)で語っていたので、そうなのかと思ってはいました。

でも客席参加型っていうのが歌のないジャズ・ライヴで実現しにくいっていうのは、多少の差はあっても、たぶん世界共通じゃないでしょうか。歌がないと、客席はいっしょに口ずさめないですからね。そんなライヴにばかり、しかもただでさえ観客がおとなしい日本で開催されるものに、ぼくは何十年間も行っていたんですからねえ。

アイドル、歌謡曲、演歌、それからロックやソウルやファンクとか、その手の音楽(はどれもみな同じようなものだと最近ぼくは思いはじめていますが)だと、歌のサビのリフレイン部分でいっしょに歌えるパートがあることも多いんですよね。ビートルズの「ヘイ・ジュード」「レット・イット・ビー」のことを思い出してみてください。

実際このひとはライヴ・アルバムをたくさん出しているポール・マッカートニーの作品なんかを聴いていても、そういった曲の、みんなでいっしょに歌えるパートで、実際ポール自身も歌うことを客席にうながしているし、それはプリンスだってそうだし、みんなそうやっていて、ライヴってそういうもんなんですよね。

わさみん生イベント体験で変貌した、歌のライヴにはどんどん参加するものなんだと皮膚感覚で痛感し、それが楽しいんだと心から理解したぼくは、だからその後最近は、録音された過去のライヴ名作なんかを聴いていても、そんなパートに来れば自然と気分が乗ってあたたかいフィーリングに満たされていくのを感じるようになりました。オフ・マイクだから客席の合唱は聴こえにくいけど脳内で自然補正されて、自分も参加しているような気分になるんです。そうなったんです、最近。

あんなにキライだったのにねえ。

(written 2020.9.30)

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