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タイムレス&コンテンポラリー 〜 ミス・テスのいる応接間

(3 min read)

Miss Tess / Doucet

きのう最新作のことを書いたミス・テスですが、昨年リリースの前作『ドゥーセ』(2020)はグレイト・アメリカン・ソングブック系のスタンダード曲集だと知り、そういう世界が大好きなので、Spotifyでさっそく聴いてみました。

トラックリストをごらんになれば、みなさんも親しみのある有名曲ばかりのコレクションになっているのがおわかりのはず。一個だけ、8曲目の「リヴァーボート・ソング」はミス・テスのオリジナルですが、それもアメリカン・ソングブックにあわせたスタイル。6「ヌアージュ」はジャンゴ・ラインハルト(フランス)の曲ですね。

本人の公式サイトやBandcampに載っている説明を読むと、どうやらミス・テスの育った家庭環境がオールド・スタンダードの流れるものだったそうで、両親、特に父親はヴィンテージなスタイルで古い曲を演奏するジャズ・バンドをやっていたそう。

ミス・テスもそういうのを聴いて育ち、家のなかにそんな音楽があふれていて、また両親から折に触れて1930〜50年代のジャズ系ポップ・スタンダードをコレクトしたCD-Rをもらって聴いていたとのことで、本人もそんな音楽志向ができあがっていったのでしょうね。

『ドゥーセ』でもそんな曲の数々をとりあげながら、ミス・テスがレトロな味をたたえたチャーミング&ややセクシーなヴォーカルを披露しています。伴奏はアップライト型のコントラバス(ザッカリアー・ヒックマン)とホロウ・ボディのピックアップ付きギター(ライル・ブルーワー)の二名だけ。

これまたまさしくパーラー・ミュージックそのものという趣きで、この手の音楽は、端的に言えば<ロック勃興前>のポップスの主流だったもの。それがまた近年、ここ10年か15年くらい?リバイバルしつつあるような傾向がみられますよね。

2007年デビューのミス・テスもまたそんなレトロ・ムーヴメントのなかにいるひとりなんでしょう。『ドゥーセ』でもヴィンテージ・スタンダードをとりあげながら、なつかしくもあると同時に、こういった音楽はタイムレスでもありますからね、たんなるレトロ志向というだけでなく、近年のオーガニック・ポップスの流行のなかに位置付けることだってできます。

コントラバス、ギター、ヴォーカルのアクースティックなトリオ編成によって同じ部屋のなかでライヴ収録された『ドゥーセ』、この親密で家庭的なムード、音響のやわらかさ、聴き込むでもなくじっくりくつろいでリラックスできるこじんまりした安心感 〜〜 そういったまさに応接間で流れている音楽がここにはあります。

(written 2021.12.6)


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