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ホレス・シルヴァーのスピリチュアル・ジャズ

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Horace Silver / Silver 'N Percussion

ホレス・シルヴァー1977年の『シルヴァー・ン・パーカッション』。こういうアルバム題ですし、実際ドラマー(アル・フォスター)以外に三名のパーカッショニストが参加しているということで、リズム面に重きを置いたアルバムなんだろうなとは思いますが、聴いた感じ強く印象に残るのはむしろヴォーカル・コーラスですね。全編スキャットなのか、歌詞のないクワイアで、作品の色彩感を決定しています。

曲題は「ヨルバの神」とか「マサイの太陽神」とか「ズールーの魂」とかアフリカ志向で、パーカッション群の起用もそれに沿ったものなんだろうと思います。四曲目以後は「インカ」「アズテック」「モヒカン」なんてことばが使われていますからアメリカン・インディアンがテーマなんでしょうね。レコードではそれが両面に分かれていたみたいですけど、続けて聴いてアルバムが二分されているといった印象はないです。テーマが連続的なのかもしれません。

それで、アフリカとかアメリカン・インディアンとかが作品のテーマになっているとはいえ、この『シルヴァー・ン・パーカッション』、そんな味がそこまで濃厚に出ているわけでもありません。曲題がなんだか大仰なので身構えてしまいますが、聴くとアクの薄いあっさり感に拍子抜けすらしますよね。パーカッション群とコーラス陣を起用してのアフリカン・ジャズ、アメリカン・インディアン・ジャズといった趣は(音楽的には)弱い、というかほぼなしとしてもいいくらいです。

むしろこのアルバムは1960〜70年代的な意味でのいわゆるスピリチュアル・ジャズといった感触で、そうとらえれば理解しやすいし親しめる好作品なんじゃないでしょうか。ヴォーカル・コーラスが大きく聴こえサウンド・テクスチャーを支配していますが、打楽器群はどうなんでしょう、これ、ミックスの際に小さめの音量に抑えたということなんでしょうか、そんなに積極的に聴こえないっていうかアピールしてこないですよね。

クワイアでムードをつくっておいて、リズムはファンキーでダンサブルなものを使ってあって(60年代ジャズふうでもある)、しかし音楽そのものにアフリカンだとかアメリカン・インディアンな要素は直接的にはなく、もっとこう姿勢というかアティテュード、取り組みかたとしてのアフリカ志向みたいなものがこのホレスのアルバムにはあるんじゃないかなと、ぼくはそう聴くんですね。ジョン・コルトレインやそのフォロワーたちがやっていた、ああいった音楽をここでホレスはやっているのかなと。

あんまり使いたくないことばなんですけど、精神性、みたいなものが強くこのホレスのアルバムでは打ち出されているなというふうに聴こえます(特にヴォーカル・コーラス部分でそれがかもしだされている)。ホーンズにしろクワイアにしろ、両者が溶け合うアンサンブルとして使われている時間が長いんですが、なんだかヴェールみたいなふわっとしたオーラみたいなものを表現しているなという印象ですね。

そんなわけなんで、1977年のレコード・リリース当時このアルバムがどれだけ聴かれ評価されたかわからないですけど、90年代以後現在まで続くスピリチュアル・ジャズ再評価の機運のなかに置けば、じゅうぶんイケる作品じゃないかなと思うんです。ホレスのピアノ・ソロがアルバム全編で大きくフィーチャーされているのも特色です(だれのソロよりもホレスが弾く時間が長い、というかホレスしかソロを取っていないかと思うほど)。また、ベースのロン・カーターがかなり弾きまくっていて内容もすごいぞとは思うものの、そのベース・サウンドがこの時期特有の例のピック・アップ直付ぺらぺらサウンドなんで、減点です。

(written 2020.6.24)


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