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ホレス・シルヴァーの、これは完璧ラテン・アルバム

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Horace Silver/ In Pursuit of The 27th Man

ホレス・シルヴァーの『イン・パースート・オヴ・ザ 27th マン』(1972年録音73年発売)は、全七曲のうち四曲がラテン・ナンバーなんで、これはもうラテン・アルバムだとしていいでしょうね。1、2、3、6曲目。これら以外はなんでもないジャズ・チューンでしょうが、四曲の印象があまりにも強いんです。このアルバム、当時まだ新人の部類だったブレッカー・ブラザーズをトランペットとサックスに起用しています。

1曲目「リベレイティッド・ブラザー」はウェルダン・アーヴィンの名曲。これはもうどこから聴いても完璧ラテン。ホレスはしかも1972年当時最新の音楽だったサルサをとりいれたピアノを弾きアレンジを施しています。出だしのエレベに続いてピアノのブロック・コード・リフが鳴りはじめただけで快感じゃないですか。ホレスはそのパターンをずっと弾き続けています。ランディのソロもよし、マイクルのほうはまだもうひとつといったところでしょうか。三番手ボスのピアノ・ソロがやっぱりいちばん聴きごたえありますね。

モアシル・サントスのペンによるブラジリアン・ワルツの2曲目「キャシー」もグッド。ミッキー・ローカーのドラミングも文句なしですが、ここで参加しているデイヴィッド・フリードマンのヴァイブラフォンがクールで、なんともみごとなラテン香味をかもしだしてくれていて、くぅ〜たまらん。ヴァイブはこのアルバム、ほかにも三曲で入ります。ホレスはこの曲、ちょっぴりボサ・ノーヴァふうなブロック・コードをずっと叩き続けていますね。そのままピアノ・ソロへ。ホーン陣はおやすみです。

3曲目「グレゴリー・イズ・ヒア」に来てようやくボスのオリジナル・コンポジションとなりますが、ここまでの他作二曲のラテン・ナンバーと比較してなんらの遜色もないんですね。もともとホレスはラテンなジャズ・ソングを書くのが得意でしたし、それでもこのアルバムほどのものはそれまでなかったとはいえ、もともと領域内のものです。三曲目ではマイクルのテナー・ソロがかなりいいですね。ホレスがずっとラテン・リズムを弾き続けています。ミッキー・ローカーも大活躍。

ストレートなジャズ・チューンは飛ばして、アルバムのクライマックスである6曲目「イン・パースート・オヴ・ザ 27th マン」。陰影に富むラテン名曲のこれでもヴァイブが参加、リズム・セクションと(特にミッキーのシンバル・ワークがすごい)ともに完璧なアフロ・キューバン・サウンドを形成しています。まずヴァイブ・ソロが出て、それも雰囲気満点ですけど、サビ部分は4ビートに移行しますね。二番手でボスのピアノ・ソロ。

このアルバムではホーン陣二名とヴァイブラフォン奏者は曲によって入れ替わり参加して重なっていませんので、この6曲目でもブレッカー・ブラザーズはおやすみ。ヴァイブ、ピアノ、エレベ、ドラムスのカルテット編成です。二名のソロが順番に終わった演奏後半は、ピアノとヴァイブがかけあいながらの四人合同集団即興みたいになって、超絶ラテンでありかつアヴァンギャルドなコレクティヴ・インプロヴィゼイションを展開。カッコよすぎてしょんべんチビりそう。

このアルバム、21世紀の近年流行のいわゆるラテン・ジャズのなかにもここまでの作品はなかなかないぞと思えるだけの内容で、1970年代もラテンが一大ムーヴメントだったとはいえ、もともと50年代からラテンの得意だったホレスが本腰据えたらどうなるか?みたいな傑作にしあがっていて、なんど聴いても感動しますね。

(written 2020.6.21)

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