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プリンスの1987年ユトレヒト・ライヴが楽しい

(9 min read)

Prince - Sign O The Times (Super Deluxe Edition) disc 7&8

(ユトレヒト・ライヴは、これをパソコンで見たときの7&8枚目)


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プリンス(ヴォーカル、ギター、キーボード、ドラムス、パーカッション)
シーラ・E(ドラムス、ヴォーカル)
ミコ・ウィーヴァー(ギター、ヴォーカル)
Dr. フィンク(キーボード)
ボニ・ボイヤー(キーボード、ヴォーカル)
リーヴァイ・シーサー(ベース、ヴォーカル)
エリック・リーズ(サックス、フルート)
アトランタ・ブリス(トランペット)
キャット(ダンス、ヴォーカル、パーカッション)
ワリー・サルフォード(ダンス、ヴォーカル)
グレッグ・ブルックス(ダンス、ヴォーカル)
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2020年9月25日に発売されたばかりのプリンス『サイン・オ・ザ・タイムズ』スーパー・デラックス・エディション、(CDでいうところの)七、八枚目に、1987年6月20日のユトレヒト・ライヴが収録されています(ユトレヒトはオランダの都市)。とにかく聴けば楽しいですね。

といいますのも、そもそもプリンスの公式ライヴ音源というのはめずらしく、あまり発売したがらない音楽家だったんで(生涯通じてほとんどなし)、ましてや1987年のライヴがCDに公式収録されて発売されるのは、初のことです。ちょこっと感想を書いておきましょう。

Spotifyで聴いているからバンド・メンバーがわからないなあと思って、それでもあきらめずネットで検索したら、やはりユトレヒトでの前日6月19日の情報が出ましたので、上のほうに記しておきました。たぶん同じでしょう。ユトレヒトではほぼ変わらないセット・リストで三日間ほど連続でやったみたい。

さてさて、生前のプリンスがライヴ音源を出したがらなかったのは、バンドの一回性の生演奏だから不確定要素も多くやや雑になって完成度が下がってしまう、それを商品化するのを嫌ったということじゃなかったかと思います。

そもそも生涯にわたり(一部を除いて)バンドでスタジオ録音するということのほとんどなかったひとで、ホーンズやストリングスなどは専門奏者に任せますが、ほぼすべての楽器を自分ひとりで完璧にこなしてしまうプリンス。その緻密な多重録音スタジオ作業で音楽の完成度を上げ、発売。それと同じレベルをライヴではバンド・メンバーに要求したといいますから、どだいムリな話です。それが発売されるようになったのは本人が死んだからに違いなく、ちょっと複雑な気分にならないでもなく。

1987年6月20日ユトレヒト・ライヴ。曲目をみるとやはり当時の最新作『サイン・オ・ザ・タイムズ』発売記念ワールド・ツアーの一環だったことがよくわかります。ライヴ冒頭の4曲目までが、この最新アルバムA面1〜3曲目で占められていますよね。バンド・メンバーは生演奏でかなり健闘しているんじゃないですか。厳しいトレーニングの成果でしょうか。

そのほか古いというか以前の曲はほとんどなく(「リトル・レッド・コルヴェット」「レッツ・ゴー・クレイジー」「ウェン・ダヴズ・クライ」「パープル・レイン」「1999」だけ)、すべて『パレード』『サイン・オ・ザ・タイムズ』収録曲で構成されているのは、やはり販売促進キャンペーンとの意図があってのことでしょう。

ですから、生演奏でもバンドがファンク寄りの音楽を展開しているのは必然的です。ジャジーな色彩感も出ているのはライヴならではですね。楽器ソロやボスのヴォーカル・フェイクなんかはアド・リブ満載ですけど、それでも曲の構成としては(一部を除き)おおむね公式発売されたスタジオ・ヴァージョンにそのまま準じているのというのも印象深いといいいますか、ある意味しめつけがきつかったんだろうなあと想像したりもします。

また、「リトル・レッド・コルヴェット」「レッツ・ゴー・クレイジー」「ウェン・ダヴズ・クライ」「パープル・レイン」「1999」といった以前の曲も、いかにも1987年プリンスだけあるっていう、当時のコンテンポラリーなファンク・アレンジメントを施されているのだって聴きどころですね。このあたりもライヴ・ツアーにあたりバンドでリハーサルを積んだのでしょう。

「レッツ・ゴー・クレイジー」「ウェン・ダヴズ・クライ」「パープル・レイン」「1999」の四曲はメドレーになって間断なく連続的に演奏されるのもソウル/ファンクのライヴ・マナー。ちょっと間を置いて、続く「フォーエヴァー・イン・マイ・ライフ」で、プリンス(だろうと思う)はアクースティック・ギターに持ち替え。後半はジャムみたいになります。

やはりそのままボスの掛け声で間を置かずそのまま「キス」になだれこみ。『パレード』収録のオリジナルからしてファンク・ブルーズ・チューンでしたが、それにないホーン・リフ反復などもここでは入って、いっそうファンク色が濃くなっていますね。

その終盤で「サンキュー、バイバイ!」とプリンスが言うけれど終わらず、そのまま次の「ザ・クロス」へ突入。やはりゴスペル・バラード調ですが、後半ぐいぐいともりあがるさまは、いかにもライヴだけあるなといった趣きですね。演奏が終わって「オランダ大好き!グッバイ!」とボスが叫んで、メイン・アクトは終了します。

がしかし「アンコール!」と叫んでからはじまる「イッツ・ゴナ・ビー・ア・ビューティフル・ナイト」こそが、この日のライヴ・コンサートのクライマックスに違いありません。バンドもボスもハンパじゃない熱量で迫ります。シーラ・Eのラップ・ヴォーカルが入ったあと、ホーン・リフ。その後のドラムス・ソロはツイン・ベース・ドラムのキック・スタイルに特徴がありますから、おそらくプリンス本人じゃないでしょうか。

そのまま長尺のサックス・ソロへ。かなり聴ける内容だと思っていたらパッと止めて「サンキュー、グッドナイト」と言うけれど一瞬置いてすぐ演奏は再開。ドラムス・ソロのあと、プリンスが「コールド・スウェット・オン・ザ・ホーン!ライト・ナウ!」と叫ぶと、ホーン二管がジェイムズ・ブラウンの曲「コールド・スウェット」のリフを(ヴァリエイション付きで)演奏しはじめるのも楽しいですね。

そしてその後ホーン陣は、おそらくプリンス・アレンジのかなりうねうねとした(ビ・バップふうの)二管リフの種々のパターンを次々と披露。途中でデューク・エリントン「A列車で行こう」のテーマまで出てきてニンマリ。その後も二管でうねうねリフをどんどん演奏。バンド一体となって熱いジャズ・ファンク・ライヴを展開するのが、ほんとうに楽しいったら楽しいな。「サンキュー!」で今度こそほんとうに終わり。

全体的にジャズ・ファンク色を濃く帯びていることもあり(マッドハウスの曲も一つやっているし)、個人的にこんなに楽しいライヴ・コンサートを聴いたことは少ないと思うほど。終盤のもりあがりかたもすごいし、本人がどうしてこういうものを生前リリースしなかったのか不思議に思えてくるっていうか、やっぱりそこまで徹底した完璧主義者だったんでしょうね。

(written 2020.9.27)

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