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亡命者としてのアラブ・アンダルース・ジャズ 〜 アヌアール・カドゥール・シェリフ

(3 min read)

Anouar Kaddour Chérif / Djawla

マンドール奏者のアヌアール・カドゥール・シェリフはアルジェリアでバンド・リーダーとして活躍してきた存在ですが、2019年に24歳でスイスへと亡命。その後三年目にしてリリースしたのが今回の新作『Djawla』(2022)です。インターナショナル・デビューとなりました。

いままでになかった、一種のアラブ・アンダルース・ジャズとでも呼べそうな内容になっていて、なかなかおもしろいと思います。アヌアールのマンドーラ以外はスイス人ミュージシャンでしょうか、バス・クラリネット、コントラバス、ドラムスという編成での演奏。

アラビック・ジャズというか、アラブ・アンダルース伝統に沿った曲づくりとマンドール演奏なのがわかりますが、それをコンテンポラリー・ジャズの語法でやっているというのはちょっとビックリですよね。聴いたことない音楽です。

たとえば5曲目「Sirocco」なんかでも、アヌアールのマンドール演奏はシャアビふうにアルジェリア音楽ルーツに則しながら、三人のバンド・アンサンブルは躍動的な現代ジャズそのもの。即興的演奏力も卓越しています。

どの曲もヨーロッパにおける亡命アルジェリア人という哀感と、日々の生活の厳しさから来るものであろう灰汁のようなフィーリングが強くにじみでていて、しかしそれが音楽にさほどのエッジをもたらさないのはやはりヨーロッパ人三名によるジャズ・マナーゆえかもしれません。

アップ・ビートの効いた8曲目「Vigule」はアラブ要素抜きの純正ジャズとして聴いてもすばらしい演奏で、アヌアールふくむバンドの四人でエモーショナルにもえあがり、ジャジーな意味ではアルバム中いちばん聴きごたえがあります。

続くラスト9曲目「Amiret Erriyam」では冒頭なぜか親指ピアノが聴こえますが、おそらくドラマーが演奏しているんでしょう。アヌアールはシャアビ・マナーな歌も披露しますが、そのあいだも伴奏はジャジー。ヴォーカルはほかにも使われている曲があります。

亡命者としての生活実感や心象風景がかなり鮮明に刻まれているようですが、ジャズ・バンドでそれを表現したいと思ったのはなぜだったんでしょうか。

(written 2022.4.21)

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