ショーロ・クラリネット、真の名手の証 〜 パウロ・セルジオ・サントス
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Paulo Sergio Santos / Peguei a Reta
ブラジルのショーロ・クラリネット奏者、パウロ・セルジオ・サントス。今年の新作『Peguei a Reta』(2021)は、自身のクラリネット+ギター(カイオ・マルシオ)+ドラムス or パーカッション(ジエゴ・ザンガード)のみという、たった三人の編成。それなのに不足ないこのサウンドとグルーヴはどうでしょう。
演奏されている曲は、従来どおり新旧さまざまのショーロ・ナンバーで、アナクレット・ジ・メデイロス、エルネスト・ナザレー、ピシンギーニャ、ラダメス・ニャターリ、カシンビーニョ、アベル・フェレイラ、シヴーカなど。
テンポよく軽快にスウィングするものも、バラード調でしっとりした情緒を聴かせるものも、いずれもなめらかですべらか、(いい意味で)ひっかかるようなところがまったくなく、もうベテランといえるパウロのクラリネットもすっかり円熟し、具合よく枯れてきているように聴こえます。
音色もまろやかだし、よく聴けばたいへんな難技巧を駆使しているにもかかわらず、聴いた感じがとてもスムース。なんでもないようにさりげなくあっさり吹いてしまっているもんだから、あぁ気持ちいいなとそのまま耳を通りすぎてしまうのは、真の名手の証でしょう。
個人的に特に強く印象に残ったのは、ゆったりしたバラード調の二曲(4、7)。いずれもテンポ・ルバートで、パウロが実に切々とした哀感をつづる様子が胸に迫ります。こういった曲想では、クラリネットという楽器の湿って丸く柔らかな音色がとても似合いますね。もうほんとうに最高です。
後者7曲目なんか、伴奏なしでのパウロのクラリネット独奏なんですけど、たったひとりでここまで深い表現をみせるその吹奏ぶりに心から降参。こんなの聴いたことないです。まったく過不足ない独奏ぶりで、ショーロ・クラリネット現在最高峰の境地と言ってもさしつかえないでしょうね。
(written 2021.11.10)
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