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ポールにとってのビートルズ再訪 〜『フレイミング・パイ』

(5 min read)

Paul McCartney / Flaming Pie

今2020年、なんだっけな、デラックス…、じゃなくてアーカイヴ・コレクションか、そういう拡大版がリリースされたポール・マッカートニーの名作『フレイミング・パイ』(1997)。フィジカルだとCD五枚+DVD二枚のセットだそうで、CD部分の四枚目まではSpotifyで聴けますが、そんな拡大増幅版にもはや興味はございません。上にリンクしたのはオリジナル・アルバム。

がしかしでもそんなことで今年ふたたびちょっとした話題になったかもしれませんし、ぼくも思い出したということで、ポールの『フレイミング・パイ』をちょっと聴きなおし、いまの感想をすこし記しておきたいなと思うようにになりました。

『フレイミング・パイ』はポール、ジョージ・マーティン、ジェフ・リンと、三人の共同プロデュース。ミュージシャンは当時のツアー・バンドを起用せず、だいたいポールとジェフのふたりがほぼぜんぶの楽器を担当、多重録音のくりかえしで仕上げていったものです。若干のゲスト参加はいますし、管弦のオーケストラなんかは人員がいるんですけれども。

それから、これがたいへん重要なことになってくると思うんですが、ジェフ・リンが全面参加していることと関係ありますけど、このアルバムの録音は基本1995/96年で、ちょうどビートルズの『アンソロジー』プロジェクトと同時進行でした。<新曲>まで発表したりした時期でしたよね。

つまりアルバム『フレイミング・パイ』はポールがビートルズのことをもう一回徹底的にディグしたことと深い関係があるっていう、そういう曲づくりやサウンド・メイクになっているなと思うんですね。ジェフ・リンの全面参加もジョージ・マーティン起用も、この路線に沿ってのもの。

収録曲も、天性のメロディ・メイカーともいえるポールの真価を発揮したものがどんどん並んでいるし、実際1〜5曲目あたりなんかスキがまったくありませんよね。ビートルズふうに仕上げたサウンドとともに、ほんとうにチャーミングで、聴き手に感動を与えてくれます。1960年代ふうのポップ・ロックが好きなみなさんであれば、文句なしに楽しめるかと思います。

しかも、演奏にはスポンティニアスさがあるといいますか、ふたりだけの多重録音のくりかえしで仕上げていったにもかかわらず、生バンドの生演奏フィーリングが感じられるんじゃないかと思うんですね。ビートルズ時代後期からずっとそういう制作手法をとってきたし、ポールはソロ・デビュー初期からそうしているので、もうすっかり板についているということでしょう。バンドの生演奏感、ナチュラルさ 〜 これはこのアルバム『フレイミング・パイ』のキモですね。

アルバムは6曲目の「キャリコ・スカイズ」でちょっと骨休め。これはバンドではなくポールひとりでのアクースティック・ギター弾き語り。親密な感じで、なんでもアメリカ・ツアーの最中にその日終わってホテルの部屋でリンダに頼まれて、即興的にやった一曲なんだそう。それでここまでのレベルの楽曲が仕上がるとは、驚きですよねえ。

アルバム題にもなった7曲目「フレイミング・パイ」はファンキーなロック・ナンバー。ちょっとリズム&ブルーズ・フィールがありますよね。そういう曲はアルバム後半にほかにもあって、たとえばスティーヴ・ミラーが主導権をとっているブルーズ・ナンバーの9「ユースト・トゥ・ビー・バッド」(大好き!)、やはり変形ブルーズである12「リーリー・ラヴ・ユー」(ドラムスがリンゴ・スター)もファンキーでカッコいいですね。

そしてそれら以上にいまのぼくがもっとグッとくるのはバラードである切な系美メロ・ナンバーです。二曲、8曲目「ヘヴン・オン・ア・サンデイ」と13「ビューティフル・ナイト」。特に前者のおだやかでジャジーで落ち着いた都会的なフィーリングはポール流AORともいえ、もうほんとうに大好きです。個人的2020年気分ですと、この「ヘヴン・オン・ア・サンデイ」こそこのアルバムの白眉。

(written 2020.9.17)

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