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デアンジェロ・シルヴァの新作『ハングアウト』がカッコイイ

(4 min read)

Deangelo Silva / Hangout

ブラジルの鍵盤奏者デアンジェロ・シルヴァの新作『ハングアウト』(2021)がかなりいいですよね。Spotifyでは2021となっていますけど、2020年12月頭から聴けました。ところでこのひと「ディアンジェロ」となっていることが多いですが、ブラジル人でしょ、デアンジェロじゃないんですか。

『ハングアウト』、デアンジェロの鍵盤を中心とするカルテット編成で、ギター、ベース、ドラムス。音楽的にはジャズ・フュージョンと言っていいでしょうね。ブラジリアン新世代ジャズといった趣きですが、デアンジェロのジャズにブラジル色はこれまたほぼないので、ブラジリアンということばを付ける必要がないかもですね。

なにも予備知識なしに聴いていて、このドラムス、ずいずんいいな、だれだろう?と思って見たら、なんとアントニオ・ロウレイロじゃないですか。こういうドラミングができるひとだったんですね。このひとのピアノ演奏はまったくダメなぼくで、生理的に受け付けられないんですけど、ドラムス演奏はたぶんはじめて聴いたような気がします。見なおしましたね。っていうかそもそもはドラマー/パーカッショニストなひとなんでしたっけ。

全般的にちょっとウェザー・リポートやパット・マシーニーなんかを連想させる今回のこの『ハングアウト』、スペイシーなエレクトリック・ジャズでありながら、特に複雑な変拍子ビートがびしばし決まるアップ・ビーターはマジで快感。だからやっぱり1「Berlin」、3「Jack Herer」、4「My New Old Friend」ですかね。なかでも4曲目は大のぼく好み。

それらの曲ではアンサンブルとソロのバランスもとれていて、そこはいかにも新世代ジャズ。一分の隙もなくキメていく複雑なアンサンブルのあいだを、主にデアンジェロの鍵盤ソロが縫って活躍しているといった具合です。いやあ、ほんとうにカッコイイですね。アントニオのドラミングもすばらしいのひとこと。っていうか、あまりに気持ちいいのでちょっと惚れちゃいましたね、このドラマー。このドラムスだけずっと聴き続けていたい。

フェリピ・ヴィラス・ボアスのギターだっていいし、ブラジル色があまりないっていうのはいまの新世代ブラジル・ジャズ・ミュージシャンたちに共通する特色かもしれないですね。1曲目「Berlin」にしたって、(特に演奏後半の)キメの多いコンポジションがとてもよくできていますけど、アメリカのエレクトリック・ジャズのなかに混ぜたってなんの違和感もないです。デアンジェロのソロもいいけど、なんたってアンサンブルが気持ちいいし、そのなかで躍動するアントニオのドラミングも快感。

上でも書いたけど、高速でテクニカルにキメまくる4曲目「My New Old Friend」のグルーヴがやっぱりほんとうに気持ちよくて、これがぼくとしては今回の新作のクライマックスですね。カルテットの四人とも技巧的に文句なしで、練り上げられたコンポジションがみごとですけど、これだけの複雑な演奏をビシバシこなせるということに感心し、それになんといっても聴いていて快感です。

エフェクトやシンセサイザーでの音響的な効果がかなりくわえられた多層レイヤーなスペイシーな音楽で、アクースティックなジャズのソロ・インプロヴィゼイション的スリルは減じているかもしれないですね。前作『ダウン・リヴァー』を称賛したみなさんはそのへんイマイチかもしれないですけど、ぼく的には『ハングアウト』もなかなかいいぞと思います。

(written 2021.1.29)

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