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美咲はときどき神になる 〜「糸」

(5 min read)

2021年2月15日にBS日テレ『歌謡プレミアム』で放送された、岩佐美咲の「糸」があまりにもすばらしすぎました。最後のほうをちょっとカットした、番組用の短縮ヴァージョンでしたけどね。

(美咲サイドからのお知らせが皆無だったので)ぼくはこの放送を見逃したんですけど、YouTubeにアップされていると教えてくださったファンのかたのおかげで、聴くことができました。公式のものじゃないからその動画リンクを貼らないほうがいいと思うので、ご興味おありのかたはさがしてみてください。カンタンに見つかります。

美咲はいままでわりと頻繁に「糸」(中島みゆき)を歌ってきていて、いわば得意レパートリーの一つにしているわけですが、CD化されているのは二つ。2017年5月のライヴ収録によるギター弾き語りヴァージョンと、2020年秋発売のスタジオ収録オーケストラ伴奏ヴァージョン。

どっちがいいだなんて、議論の余地がありませんね。そりゃあもう断然2017年の弾き語りヴァージョンが神なわけですよ。CD化されたのでだれでも聴けますが、現場でそのライヴ・コンサートを体験したファンのみなさんのあいだでは、伝説の「糸」とまで言われていたものです。

ですから、2020年10月発売の「右手と左手のブルース」特別盤にカップリングであらたに録音しなおして収録するとなったときには、ちょっと心配したもんです。あの伝説の2017年ヴァージョンがあるのに、わざわざ録音しなおすだなんて、暴挙じゃないのか、超えるのは不可能じゃないかと。

はたして心配したとおりのできあがりになってしまっていたことは、ファンのみなさんならご存知のとおり。ところが2月15日放送の「歌謡プレミアム」ヴァージョンでは、伴奏がカラオケなんで2020年スタジオ・ヴァージョンと同じながら、美咲の歌が超絶的にすばらしかったですよねえ。伴奏のオケ音量が控えめなのも功を奏したでしょう。

いつごろ収録したものか1ミリも情報がありませんが、美咲は1/15〜2/7まで新型コロナウィルス感染で完全に休養していたので、たぶんその前でしょうねえ。2/15放送の「糸」では、美咲本来の持ち味である、リキまずストレート&ナイーヴに、素直にすっと歌うというスタイルがフル発揮されていて、これこれ、これだよ!これが美咲の「糸」だよ!と、快哉を叫ぶ最高のできばえでした。

2017年ヴァージョンを超えたとまでは言えないように個人的には思いますが(それほどあれは神かがっていた)、それでもスタジオ収録のカラオケ伴奏で歌った2020年以後では、2021年2月15日放送ヴァージョンが間違いなくベストな「糸」に仕上がったと断言できます。

思うに、やっぱりスタジオよりも一回性のライヴ収録のほうが、神が降りることがあるのかもしれないですね。「スタジオではなにも起きない、絶対にな」(by マイルズ・デイヴィス)とのことばもありますが、美咲もスタジオ収録だといろいろと考えすぎてしまうっていうか、結果どうしても歌に力が入ってしまうのかもしれません。

美咲はなにも考えないナチュラルな自然体歌唱法でこそ歌の持ち味を最大限に発揮できるっていうそういう魅力の歌手なんで、だから無観客の番組収録であれ一回性のライヴのほうがいい歌が生まれやすいんでしょう。歌そのもの、アレンジ、歌手のコンディションなど条件がそろえば、それでたまに神になることがあるっていう。

2021年2月15日放送の「糸」は、まさしくそんな神回だったんじゃないかと納得できる歌唱でした。

美咲の今後の歌手活動においては、スタジオ収録にあっても、いかにライヴ現場に臨むのと同じ心境でいけるか?っていうのが課題になってくるかもしれませんね。まだまだ成長の余地を大きく残している歌手ですから、それができるようになったら、と思うと、末恐ろしいです。

(written 2021.2.18)

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