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ルデーリの魅力(1)

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Ludere / Ludere

ブラジルはサン・パウロのジャズ・グループ、ルデーリ(Ludere)。21世紀のコンテンポラリー・ジャズに興味があるみなさんのあいだではわりと目にする「ルデーリ」ということばなんですけど、そこからちょっとでも外れたらまったく聞かない見ない名前ですよねえ。ジャズ聴きのかたがたですら話題になさっていない気がするし、ネットで検索してもほとんど解説など文章が出てこないし、ホンマどないなってるんや〜?

ともかくルデーリはブラジルの新世代ジャズ・グループで、その音楽性にブラジルらしさは皆無と言えます。四人組で、トランペット(ルビーニョ・アントネス)+ピアノ(フィリップ・バーデン・パウエル)+ベース(ブルーノ・バルボーザ)+ドラムス(ダニエル・ジ・パウラ)。牽引役はピアノのフィリップみたいですね。ぼくはドラムスのダニエルのセッション・ワークからルデーリに行き着きました。

ルデーリはいままでに三枚のアルバムを出していますが、その第一作目『ルデーリ』は2016年の作品。このグループはわりとカッチリしたアレンジ・ワークと統率のとれたアンサンブルで魅せるのが大きな特色であるようにぼくには聴こえます。ソロ時間もそこそこ長いんですけど、それよりアンサンブル・ワークでピシッと決めているのが気持ちいいっていう、そういった音楽じゃないですかね。

ソロやインプロに寄りかかっているんじゃなく、均整と統率のとれたアンサンブルの展開を中心に音楽を組み立てていく、盛り上がりもアンサンブルで、っていうのが21世紀的コンテンポラリー・ジャズの大きな特徴であるとぼくはみていますが、ルデーリはそういった傾向をはっきり表現している代表格かもしれません。ぼくの考えではブラジルの(ブラジル色を持たない)ジャズ・グループに特にこの傾向が強いような気がしています。

そのいっぽうルデーリでぼくがいちばん気に入っているのがダニエルのドラミング。細かくビートを割っていくその手法は本当に心地よく、ルデーリのアルバムではいつもダニエルを聴いているんですね。それはトランペット(やフリューゲルホーン)とかピアノとかのソロ時間でもそうです。背後で叩くダニエルの細かなビートがいいな〜と感じて耳を傾けているんですよね。

ダニエルのビートはちょっとマシンっぽくもありますよね。打ち込み的っていうか、これ、もちろんダニエルの人力ドラミングなんですけど、たとえばアルバム『ルデーリ』2曲目の「ルデーリ」を聴いてみてください。ハイ・ハットの使いかたといいスネア・ワークといい、まるで計算され尽くしたコンピューター・ビートを聴いているみたいな気持ちがしませんか。それを人力演奏でやっているというのがダニエルのドラミング。

ドラミングにしろ四人のアンサンブルにしろ、本当に細部まで綿密に計算されたトータル・ワークで攻めているルデーリですが、ルビーニョのトランペット・サウンドにはヒューマンでファジーなあたたかみがあります。シャープに突き刺さるような音ではなく、ふっくら丸い音色が聴こえるでしょう、それで大きくてゆったりした豊かな歌心のあるフレーズを展開していて、なめらかさもあいまって、このグループの大きな魅力になっているなと思います。

全体的にメカニカルというか細かく綿密に組み立てられた音楽をやっているように思えるルデーリですから、聴感上の印象もとても落ち着いている、クールであるということになるでしょうが、それでもたとえばアルバム3曲目の「ガーフィールド」や、なにより6曲目の「サルセイロ」ではかなり熱く激情的に燃え上がります。ソロ内容もそうだし、ダニエルのドラミングも躍動的に昂まって、個人的にはこういったあたりにもグッときますね。

(written 2020.3.16)

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