論点を意識して濃密な説明と議論をしよう -意識しておくべき3つのポイント-
説明が相手にうまく伝わらない、議論でよい意見が出せない、想定しなかった質問ばかりくる、質問に答えたはずが「ちゃんと答えろ」と怒られる…といったように研究のコミュニケーションがうまくいかない状況にある場合、「話の論点」をうまく操れていない可能性が高いです。この記事では、論点を操る上で知っておかなければならない4つの特徴を紹介したうえで、論点が大切な7つの理由を解説します。そして最後に、論点を操るうえで意識しておくとよい3つのポイントを紹介します。
※この記事は、著者のブログ「駆け出し研究者のための研究技術入門」の記事の加筆修正版です。
知っておくべき論点の4つの特徴
①話には必ず話題の中心となる論点がある
まず、話には必ず論点がある、ということをしっかりと認識しておきましょう。発表中の説明、議論の場での意見、質疑応答、雑談など、どんな場面での話にも必ず「今何について話しているのか」という論点が存在します。論点は話題の中心点であり、この中心点から話が逸れて散らばっているほど「話が発散している」という状態になり、逆に中心に固まって話がなされているほど「安定して濃密な話ができた」という状態になります。
②論点は答えが欲しくなる問いとして記述できる
さらに論点は、「AはBなのか否か」「AはなぜBなのか」など、Yes/Noを問う単純疑問文や5W1Hの疑問文で記述できるものとして捉えることができます。「話に納得できた」というのは論点である疑問が解消されたことを意味します。「なんだか腑に落ちずにモヤモヤする」というのは論点が解消されないままでいることを意味します。
③論点は移り変わる
次に認識しておくべきことは、放っておくと論点は勝手に移り変わっていくものだということです。雑談の場面を想像してみてください。朝のニュースでみたサッカーの試合の結果について友達に話しかけたものの、そこから話が弾み、活躍した選手の話、選手と似た芸能人の話、その芸能人の過去についての話など、思ってもみなかった話に発展していくことが多々あるはずです。一人で話すときにも、また複数の人がいる場合ならなおさら、話題の中心はこのようにふらふらと移り変わっていってしまうのです。
④話している相手と論点は必ずしも一致しない
認識しておくべき最も重要なことは、自分の論点と相手の論点は同じとは限らないということです。同じものを見たり聞いたりしたときでも、人によって全く別のことを考えたり疑問や意見を持ったりするように、同じ発表スライドを見たり、同じ説明を聞いたりした場合でも、人それぞれの論点での疑問や意見を持ちえます。このことを前提として把握しておかなければ、効果的で効率的なコミュニケーションを実現することはできません。互いに違う論点を持ったまま議論すると、うまく噛み合わずにお互いに「話の通じない相手だなあ」という印象になってしまいます。
論点が大切な7つの理由
上記のような論点の特徴を知っておくことは、研究活動や仕事を進める際には非常に大切です。なぜなら、論点の意識を疎かにすると、以下に挙げたような問題が生じる恐れがあるからです。
①説明が効果的でなくなる
一生懸命丁寧に説明しているはずなのに相手に話を納得してもらえない、という悲しい状況になります。これは、相手と自分の論点が食い違っていることが大きな要因の一つです。自分の論点(自分が答えようとしている疑問)に対する説明であっても、相手の現在の論点(解消したい疑問)の答えとなる説明でなければ納得感を与えられないのは当然です。
②質問の質が悪くなる
「そこは大事なポイントじゃないのに…」「なんでそんなことを聞いてくるんだ…」といったように感じてしまう質問が増えてしまいます。また逆に自分もそのような質問をしてしまうことになります。これは、相手が自分と違う論点を持ってしまうことで起こります。意見や質問の質の良さは、論点がどこにあるかで違うのです。自分にとっては大事でなく意味の分からない発言だと感じた場合でも、相手にとっては大事で意味のある発言だということは往々にしてあります。
③質問にうまく答えられなくなる
何を聞かれているのかわからずに回答に困ってしどろもどろになる、という苦しい状況になります。これも、相手が自分と違う論点を持ってしまっている証拠です。相手の論点が分からないから、質問の意図が分からず、効果的な答えも導き出せないのです。
④建設的な意見をもらえなくなる
発表はしたものの質問がない、意見を募ったものの誰もいい意見を出してくれない、といった状況になります。相手は意見を思いつけないのではありません。論点をどこに設定すべきかに悩んでいるのです。論点が定まらなければ、効果的な質問や意見は決められないので、当たり障りのない雑談的な発言しかできないのです。
⑤良い評価をもらえない
せっかく長い時間かけて研究した成果について必死に論文を書き、発表資料を作ったのに、いい評価がもらえないという残念な状況になります。これは、自分が設定して努力を注ぎ込んできた論点が相手に伝わっておらず、相手が別の論点を設定し、その観点から評価を行ってしまったために起こります。
⑥不毛な議論が続く
いつまでたっても議論が終わらない、議論をしたものの何も得られなかった、という状況になります。議論を収束させて実りを得るためには、回答を見つけるべき本当の論点に近い話が密に為されていることが必要です。1つの論点に話を引き戻そうとすることなく、また無自覚に論点を移り変わらせてしまっていると、話は発散するばかりです。
⑦怒られる
そして怒られます。そのつもりもないのに、「論点をすり替えるな」とあらぬ疑いをかけられてしまうかもしれません。もしくは、「今はそんな話をしてるんじゃない」と言われてしまって困惑してしまうかもしれません。このような不幸は、自分で自分の論点を見失っていたり、相手の論点を正確につかめていないことから生じます。
論点を操るための3つの意識
上記のような状況に陥らないための対策として、以下のような3つのことを意識しておくことが有効です。
①今の論点を常に明確に意識する
自分が話をするときでも、相手の話を聞くときでも、常に論点が何かを明確に把握しておきましょう。どんな疑問に答えようとするのかという論点を決めておけば、何をどのように説明するのが効果的なのか判断することができます。相手の質問をよく理解できず返答に困った場合でも、相手の論点を確かめることによって適切な答えを導き出しやすくなります。
②論点から話が逸れないように意識する
論点を明確にしていれば、説明の質の高さを見定めることができます。その「論点に対する答え」が最も質の高い説明であり、その答えから遠ざかるほど、その論点においては質が低いものだということになります。自分が話をするときには質の高い発言を心がけましょう。相手の発言が論点から離れている場合には、論点を再確認して互いに質を向上できるようにしましょう。
③論点が解消されたかを意識する
建設的な議論とは、多くの論点が次々に解消されていき、最終的に最も重要な論点の解消に辿りつくものです。また、丁寧な説明とは、今の論点は何か、その答えは何か、そして次に何が論点となるのか、の3点が論理的且つ明快に述べられているものです。論点の解消なしに次の論点に移さないようにしましょう。こっそりと論点を変えるのもだめです。
まとめ
この記事では、論点を意識して操ることがいかに重要かを説明し、気をつけるべき基本的なポイントを紹介しました。
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