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伝えるべき「結論」は相手によって違う -結論ファーストの3つの方法-

研究やビジネスの場面では、結論から話すことが求められます。「結論」を言わずに「結論でない話」を長々としていると、「つまりどういうことですか?まず結論から話してください。」と口酸っぱく言われることになるのです。これは、結論ファーストと呼ばれるもので、時間が無い中で効率的に議論を進めるために効果がある方法です。しかし、何が結論になるかは一意に決まるものではなく、相手に合わせて柔軟に決めるべきものであるため、実行はそう簡単ではありません。この記事では、「相手が抱えている疑問や懸念」「相手に期待する行動判断」「起こしたい感情の動き」を考えて結論を定める方法を紹介します。

※この記事は、著者のブログ「駆け出し研究者のための研究技術入門」の記事の転載です。一部修正を加えています。

同じ説明でも響くかどうかは相手次第

まず前提として意識すべきことは、みなさんが頑張って説明をしたとしても、その説明が効果的に伝わるかどうかは結局のところ相手次第だということです。みなさんが「これが結論だ」と考えた説明内容でも、相手は「聞きたい結論はそれじゃない」と考えることはよくあるのです。これが、結論から話すのが難しい原因の一つです。

世の中には、広告や新聞記事、論文、文学作品など、慎重に練られた質のよい説明で溢れていますが、みなさんが興味関心をそそられてより詳しく知りたいと思うのはほんの一部ですよね。興味を持たなかった説明は、みなさんにとっては重要でなく、記憶にも残らず、とるにたらないものだと認識するはずです。内容の質に関係なく、「聞きたい説明はそれじゃない」とみなさんの方で判断したということです。

相手に「響く」説明とは

相手に響く説明をするには、相手の立場や現状に合わせた説明をしなければいけません。みなさんがその時におかれた立場や状況によって興味や関心が変わるように、相手もそうなのだと考えないといけません。

みなさんが興味や関心をそそられる説明とは何でしょうか。それはたとえば、「今まさに求めている情報」であったり、「次の行動判断の決め手となる情報」であったり、「気持ちを動かされる情報」を含んだものであるはずです。相手にとってもそうなのです。これらの情報を含めることによって、みなさんの説明は相手に「響く」ようになるでしょう。以下では、このような情報を説明に含ませるための方法を解説します。

方法①相手が抱えている疑問や懸念への答えを伝える

1つ目の方法は、相手がどのような疑問や懸念を抱えているかを把握し、それの答えとなる情報を結論とする方法です。つまり、相手が現在抱えている論点に合わせる方法です。

質問をしてきた相手に対しては、その論点を見定めるのは簡単です。その質問それ自体が目下の論点であり、その答えが伝えるべき結論です。AかBかを聞かれたら、「Aです」「Bです」「どちらもです」「どちらでもありません」「判断がつきません」などです。なぜそのような答えになるのか、その答えをより丁寧に言い換えるとどうなるのか、ということはその結論の後に説明すればよいでしょう。

上司や同僚に対して行う各種報告の場面では、少し難しくなります。もし、「これがどうなっているか調べて欲しい」という質問形式で指示が与えられていた場合には、「こうなっていました」という答えを結論とすればよいので簡単です。しかし、そのような具体的な指示のなかった予想外の出来事を報告する場合などには、相手が心配しそうなこと、判断に困っていること、責任を抱えていることなど、相手にとって重要な論点を正確に把握したうえで、その論点に直接突き刺さる内容を結論としないといけないので、大変です。

たとえば、ある機械のねじが緩んでいることを発見した場合、安全管理の責任を抱えている相手(安全かどうかが論点)には「危険な事態が起こっています」、機械を設計した相手(設計が完璧かどうかが論点)には「設計に不具合がありそうです」、機械を利用している相手(機械が問題なく使えるかどうかが論点)には「しばらく使えなくなる可能性があります」という内容を結論とするのが良いでしょう。

方法②相手に期待する行動判断を伝える

2つ目の方法は、みなさん自身が相手にしてもらいたいことを結論とする方法です。機械のねじが外れているのを発見した場合、安全管理者に対しては「使用を禁止して修理に回してもらいたい」、設計者に対しては「壊れないように設計を見直してほしい」、使用者に対しては「使えないことを見越して計画を修正してほしい」という行動をしてもらいたいと考えることができれば、まずはそれを伝えればよいでしょう。

その結論を言われた相手は、自分の行動決定の判断に影響する情報が来たぞ、という明確な信号が得られるため、敏感に反応します。「それが何だというのですか?」ではなく、「言いたいことはよくわかりました。では、それはなぜなのか、もう少し詳しく聞かせてもらえますか?」という本心からの発展的な質問を投げ返してくれることでしょう。

ただし、この結論が相手に響くためには、「相手がその行動判断をする人である」ことが前提となります。機械の修理をするかどうかになんら関心も責任もない人に、「直して欲しいです」と伝えても、「私に言われましてもなんとも…」という薄い反応になるでしょう。相手がどんな行動判断をする人なのかをよく知っておくことが大切です。

方法③相手の気持ちをどう変えたいかを考えてから訴える

3つ目の方法は、相手の気持ちをどう変化させたいかを考えて、そう変えたいということが分かるような結論にする方法です。相手に喜んでもらいたいのであれば、「嬉しい報告があります」を結論とすればよいし、相手に悩んでもらいたいのであれば、「困ったことになりました」というのを結論にすればよいでしょう。

ただし、ここでも、この結論を相手に響かせるためには、「そのような気持ちの変化を大事にしている人」であることが前提となります。人の困りごとに無関心な人に「困りました」と伝えても、「そうですか。」と冷淡に返されてしまうことでしょう。日ごろから、相手がどのような気持ちの変化に敏感に反応したり、周囲に話したりしているかを把握しておくことが大切です。

まとめ

「抱えている疑問や懸念に対する答え」「相手に期待する行動判断」「起こしたい気持ちの動き」の3つを考えて結論を定める方法を紹介しました。これらのいずれかだけでなく、すべてを同時に考えて伝えるべき結論を深く検討することが最も効果的です。また、普段から相手についてよく知り、「この人はこのことを気にかけているのか」「こういった行動判断をする人なのか」「こんな気持ちを大事にしているのか」ということを把握しておくことが有効です。

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