彼女を元気にしていたものは、
たまに家族で行く洋服屋がある。
妻が何かを買う日もあるし、娘の何かを買う日もある。などと言うとよほどの常連かのようだが、せいぜい半年に一度くらいの客である。そんな店にその日は私がロンTを探しに行った。
すると若い女性店員さんが話しかけてきた。
「(娘さん)〇〇ちゃんですよね?」
半年に一度のハンイチ客(んな言い方はない)であるにも関わらずよく覚えている。
「とても可愛かったから」
娘は上機嫌になった。そして持ってきていた「コメコメ」を見せた。説明しよう。コメコメとは現在放送中の「デリシャスパーティプリキュア」に登場するエナジー妖精(マスコット的なキャラクター)なのである。娘の拙い説明を聞いて、
「プリキュア好きなんだね」
その店員さんはプリキュアを知っていた。しかし一般常識として知ってはいるだろう。年の頃から彼女が子供のときからプリキュアは放送されていたはずだ。
「去年のが好きで」
プリキュアは毎年変わる。昨年は「トロピカル〜ジュ!プリキュア」一昨年は「ヒーリングっどプリキュア」である。どうやら彼女は一般常識としてプリキュアを知っているというレベルではなさそうだった。久しぶりに昨年のプリキュアを何度か観ていたのだろう。
大人になっても観るんですね、なんて野暮なことは思わない。私も最近久しぶりにZARDを聴いては中学受験の頃に感じた「負けないぞ」という気持ちを思い出し奮い立つことがあった。懐かしさは時に励ましになるのだ。
いつの間にか店員さんはバックヤードに消えていた。客は私たちだけではない。忙しい中、子供の相手をしてもらってありがとう。と思いながら本題のロンTを物色していた。すると、
「これ見て」
彼女がバックヤードから「トロピカル〜じゅ!プリキュア」のキーホルダーを持ってきて娘に見せていたのだ。なぜ職場にあるのか。
「鞄につけてるんです。元気をもらえるんで」
知っているレベルではないどころか、懐かしんでいるレベルでもなかった。今も日々プリキュアに元気をもらっているのだ。そして毎日頑張って働いているのだ(本業の接客も本当に素敵なのだ)。
三歳の娘はまだ「元気をもらっている」とは表現できない。でももしかしたら娘が言う「プリキュア好き」の意味は「元気をもらっている」ということなのかもしれない。「好き」という言葉の中にもいろいろな意味がある。
私は感動したことを伝える手段として、彼女に薦められたロンTを買った。
そしてさらに知るのだ。「買う」という言葉の中にもいろいろな意味があるのだと。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?