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ライターになって、天使と悪魔に出逢った話。

「もし今ココがパラレルワールドやったらどうする?」

娘は重要なことはなかなか言わないが、夢の世界へ誘われる5秒くらい前に色んな”問い”を投げかけてから眠りにつく。

「神様も、『生まれる赤ちゃんの指紋もネタ切れやばw』とかなるのかな?」

「土下座してる人を床側からみたら、両手あげてめっちゃ楽しそうじゃない?」

夢と現の間の寝ぼけた頭で考えてもよくわからない”問い”ばかりだが、今回の”問い”に関しては、思考のスイッチが入って、寝るに寝られなくなってしまった。


夢か絶望か。どちらにも転ぶ筆の魔術

芋づる式に思い出したのは、先日観劇してきた宝塚歌劇、雪組公演『ボイルド・ドイル・オンザ・トイル・トレイル-Boiled Doyle on the Toil Trail-』の物語。

『ボイルド・ドイル・オンザ・トイル・トレイル-Boiled Doyle on the Toil Trail-』

この物語は、かの有名な推理小説、「シャーロックホームズの冒険」を世にしらしめた精鋭作家・アーサー・コナン・ドイルが主人公。彼の「なかの人」として、架空の人物であるシャーロックホームズを顕在化させ、小説を書くなかで出会うあらゆる困難と対峙していき、「人生でほんとうに大切なもの」を見つける物語だ。

その物語の中でこんなシーンがあった。

本当は歴史小説を書きたいコナン・ドイル。だが、雑誌での推理小説連載は爆発的に人気で、ロンドン中の人がシャーロックホームズを求めてやまない。

コナン・ドイルにとって、シャーロックホームズの存在が「こころからの夢の前に立ちはだかるもの」として、だんだんメフィストフェレスに見えてくる。

打って変わってこれまでは、自分の人生の筆頭主ばりに崇められていたシャーロックホームズが、本人の視点で見れば何も変わらないのに、一夜にして一方的に悪魔のレッテルを貼り付けられる。

そこでシャーロックホームズが放った一言。

「物事は受け取り方次第で、どのようにも映る。」

翼を広げる言葉たち

好きなことに思いっきり向き合うこと。それは私もドイルも「書くこと」なのだが(同列にして申し訳ない)、フと、なぜ私は「書くこと」を選んでいるのだろうと考えた。

私にとって「書くこと」とはあくまでも手段。現実的には、平たく言うと稼ぎたい。家族や自分の人生の選択肢を拡げたい。

勉強や仕事以外で、頭や身体に汗をかいた経験が少ない分、失った時間を取り戻したい気持ちも強いのかもしれない。

多分、「強くたくましく生きる」ことに憧れている。専業主婦時代が長かったこともあって、「何を選び、何をするのか。全てを自分の意志で自由に決めて進めている」実感を私の場合はとてつもなく求めているんだと思う。

自由の幻影

自由に選択して人生を歩んでるつもりだが、時に「自由」に「自由」を潰される。私のシャーロックホームズもときどきメフィストフェレスと化す。

時には食べる時間も寝る時間も惜しんで書き上げる記事の代償として、ふかふかのベッドで家族と目を合わせながら、しょうもなすぎる話題で笑う時間を失う。

要領がそんなによくない方なので、自身の健康や、プライベートのバランスは常にぐらぐら揺らいでいるのが現実なところだ。
(この辺のバランスは来年こそ整えていきたいところ)

自由への燈

反対に私のシャーロックホームズは時々、無数に拡がる星空を飛び交う天使にもになる。

締切までにやりとげた達成感。言語化の過程で生まれた、人間が持つ感情の微々たる理解。取材を通して初めて知った、他人の素敵な人生。

この産物を活かして想像力を駆使すると、「今まで以上に人生が良くなる」というまだ見ぬ希望に出会える。

これらの希望は決して手に触れられない産物だけど、たしかにそこに存在する。これも「私の人生」なのだ。

天使と悪魔の間で、今日も筆を執る

洗濯物が積み上がった部屋のなか、すっぴんで鬼タイピングしたあと鬼スピードでママチャリをこいで子どものお迎えにいく私。(ちゃんと信号は守っている)

Sex And The Cityのキャリーのように、ニューヨークのお洒落なヴィンテージマンションで、ホームズのように人気連載を書き上げたあと、マノロブラニクの新作をはいて、恋人と一緒にコスモポリタンを一杯ひっかけにいく私。

天使と悪魔、どちらも私のシャーロックホームズで、どちらの世界でも生きている。

娘の何気ない問いが、「パラレルワールド」という私の思いがけぬサードプレイス(?)を生み出してくれた。

本記事はライターギルドblanks withさまが主催する、「【blanks with】ライター Advent Calendar 2023」15日目の記事として寄稿しています。
こちらのアドベントカレンダーには、他のライターさんや編集者さんの素敵な記事がありますので、ぜひチェックしてみてくださいね。


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