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教室の幽体離脱

大教室で大勢の学生相手に講義をしていて、受講者のやる気が下がり、ダレてくるのは、教壇にいるとよく分かります。

目の前には確かに数十人の身体があるのですが、観察していると、まるで抜け殻のようになった学生がいるではありませんか。魂は教室の天井付近に浮遊しているようです。あるいは窓をくぐり抜けて、青空の向こうのどこか遠くに行ってしまっているのかもしれません。


まるでコピーロボット

残念ながら魂は目には見えませんが、人形のように動かなくなった等身大の抜け殻はあそこに一つ、手前に一つ、向こうにも、ここにも、という具合に見えます。

服を着たマネキンか、藤子・F・不二雄の『パーマン』の主人公がその正体を隠すために登場するコピーロボットのようなものです。

魂が肉体を離れてさまようのは教室における児童や生徒、学生の専売特許ではありません。カルチャーセンターや教員研修会でも「大のおとな」の魂が幽体離脱します。バスや地下鉄の中では必ず目撃できます。

教員が傷つくとき

いつどこで起きるか予測ができませんが、会議中や、時間で言うとランチ後の会合で「幽体離脱」現象が起きる可能性が高いでしょう。

映画館でも、5000円払ったコンサート会場でもおきます。なんともったいないことでしょうか。しかし、映画館やホールでは通常、問題は起きません。誰の迷惑にもならないからです。

教室の幽体離脱で具合が悪いのは、抜け殻の無防備な姿が、前にいる教員には丸わかりになることです。

教員にしてみれば、「せっかく大事な話をしているのに」という残念な気分になります。

もっというと、「お前の授業、つまらないぞ」というメッセージを発信してるようにも感じます。正直言って、傷つきます。

それと、ひとつの幽体離脱が起きると、不思議なことに2つ目の離脱現象がすぐに確認されます。ここからは感染スピードはとても早い。教員なら誰でも知っています。

「目を開けたまま眠る」術を

実は私は幽体離脱の名人です。子どもの頃から学生時代を通じて、社会人になっても私の集中力は長く続きません。何かやっていても、魂はすぐどこかに行って、目前の勉強や仕事が進まないのです。

告白すると、「こころは上の空」は私の精神生活の大きな部分を占めてきました。

ただし、ここに来るまでの長い時間に、特に「教室で」「会議で」幽体離脱がバレないように努力してきました。だから、他人から指摘されることは滅多にありません。

なので、その一端を学生にも伝授しています。

例えば「授業を聞いていて眠たくなったら寝たらよい、ただし姿勢を崩してはダメだ」と教えます。何事も姿勢が大事。「机に突っ伏して寝るのは絶対にまずい。絶対に」と教えます。

講義の初日に、遅刻や欠席の扱いを知らせるときに、一緒に「指導」します。

さらに上級者には、一生ものの技術をアドバイスしています。「いいですか、授業中に眠たくなたら、背筋を伸ばしたまま、目を開けたまま寝る術を身につけてほしい。目を開けたまま」と。
(了)

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