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知っておきたい「バカズ理論」

知ってた? 岡本太郎の「芸術は爆発だ」は間違い。本当は「芸術は場数(バカズ)だ」らしいよーー。

これは私が記者をしていた時に、先輩デスクから聞いた「秘密の話」です。本当のようなウソのような話。でも私は「爆発でなく『場数』こそ」と思います。


破格な芸風にふさわしい

インタビューで、記者が岡本太郎(1911-96)に「先生、芸術の本質って何ですか」と直球の質問を投げたのが発端です。太郎は一瞬、沈黙します。やや時間をおいて静かに答えました。

「そうだね、君。芸術はね。芸術は場数だよ」

これを聞いた記者が「え? 芸術は爆発ですか」と応答したのです。単に聞き違えたのですが、このアートの巨匠は一瞬にして「爆発」を気に入ったのです。

「そうだ、芸術は爆発だ」と、大きく両手を広げて確信に満ちた声で言い換えたと言うのです。

それが後に誰もが知るTVコマーシャルになました。以来、太郎のTV出演も増え、日本を代表する巨匠がちょっと変わった感じの人気キャラクターになりました。

即興で作られた空前のキャッチコピー誕生の秘話です。「芸術は爆発だ」はすぐれたコピーです。「爆発だ」には、無の世界から圧倒的な破壊力で、あらゆるものに影響を与えるインパクトがあります。

太郎の破格な芸風にふさわしい。

「失敗を恐れるな」を支える法則

実際、「芸術は爆発だ」は太郎のトレードマークなりましたし、テレビによく出ていた生前の岡本太郎のおちゃめぶりを知らない世代でも共有されています。

だけど私は「爆発」でなく「場数だ」に惹かれます。

たくさん描いて(作って)、たくさん失敗する。結果、良い作品ができる。経験を積むことの重要性を太郎は説きたかったのだと思います。

芸術分野だけでなく、「バカズ理論」はどんな活動にも当てはまりそうです。社会のあらゆる分野や人生を貫く普遍性の高い法則ではないでしょうか。「失敗をおそれるな」を支える理論と言ってよい。

失敗に寛容な社会を

このエピソード、実は都市伝説のように出回っています。本当にインタビューで、日本を代表する巨匠がそんなことを言ったのかどうか誰にも分かりません。

真相は巨匠だけが知っています。出どころは何であれ、とにかくたくさん手を動かす、量産する、そしてたくさん失敗することに意義がありそうです。

大学の教員として二十歳前後の学生を見ていていると、彼らはとにかく極度に失敗を避けようとします。失敗することを忌避しています。同時に、いつも近道を探します。ネットがそれを助けます。

だから余分なことはしません。こじんまりとします。

彼らが悪いのではありません。そんな学生に一体誰がしたか。社会に出る前に(出てからも)、いろんな分野でせいぜい場数を踏んでほしいと思います。

私たちの社会ももっと失敗に寛容であったら、と願います。
(了)

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