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新聞記事と著作権 「コピーしたのですか、捕まりますよ」

連載『コピーライトラウンジ』(第3回。2015年1月)
月刊「パテント」(日本弁理士会)から転載(全14回)


訪問先の企業で、新聞記事のコピーをもらうことがあります。製品情報だったり、業界動向の解説記事だったりします。しかし、それらは無断コピー、つまり著作権(複製権)侵害である場合が多い。打ち解けた相手なら「それって、法律違反ですよ。捕まりますよ」と、冗談っぽく脅すと、たいてい次のようなやりとりになります。

「え? 新聞記事に著作権があるんですか」
「記事って著作物です。無断複製はしてはいけません」
「同じ記事は、新聞社のウェブサイト上にも出ています。使って良いということでしょ?」
「ウェブに出ていることと、コピーしてよいかどうかは別問題です」


◆コピーを同窓会で配布?

確かに「事実の伝達」に過ぎない短いニュースには著作権はありません(著作権法第10条2項)。新人記者が書いてもベテランが書いても同じようになってしまう数行ほどの短信や訃報、催事の告知に限られます。

それ以外のたいていの記事には記者の創意工夫が込められているため、記事は「著作物」に該当し、著作権で保護されます。

もちろん、記事を複写(コピー)したからと言って、ただちに「捕まる」ことは現実にはないでしょう。一般に、著作権侵害罪は被害者の訴えを必要とする親告罪であり、著作者(この場合、新聞社や記事執筆者)が訴えない限り刑事責任が問われることはないからです。

とはいえ、一般に新聞や雑誌の記事や写真、書籍、写真集を無断でコピーする行為は違法です。営業や広報PR活動などで用いる対外的な複製行為はもちろん、社内の企画会議や表に出ない戦略会議で使われる場合でも基本的には同じです。

「わずか数人の打ち合わせだ。それでも許可が必要なのか」

部数に関係はないし、密室での使用かどうかは関係ありません。非営利の団体であっても、他人の著作物を無断でコピーをすることは本来、ご法度です。

例えば、自分が卒業した学校に関する新聞の記事や写真をコピーして同窓会で配布する場合でも、厳密に言えば、新聞社の許可が必要です。

◆コピー機の急速な普及で

「コピー」は、著作権の最も基本的な権利である「複製権」に関係する行為です。著作権を、英語で「コピーライト(copyright)」というのを思い出してもらうと分かりやすいのではないでしょうか。

コピーをとることは、ほとんどの場合、著作権を持っている者(著作権者)の許可(許諾)を得なければ、複製権の侵害になってしまいます。

著作権者の許諾がなくてもコピーできる場合があります。たとえば、私的な使用を目的とする場合がその例です(第30条)。

他に、教育や福祉の目的であったり、立法、司法、行政のための内部資料としての複製では、著作権が制限される場合があります。

また、論説記事や社説は他の新聞や雑誌に転載したり放送したりすることは可能です。

コピー機の急速な普及のため、企業や団体では、新聞や雑誌記事を気軽にコピーしていますが、実は権利者に問い合わせるべきケースが多いのではないでしょうか。

しかし、コピーする人にしてみれば、個々の著作権者を探して、一つひとつ許諾をとるのは繁雑です。他方、著作権者側も、誰が自分の著作物をコピーしているか分かりません。このため、権利を集中的に管理して利用者に許諾する公益社団法人日本複製権センター(JRRC)があります。JRRCに加入していない企業や団体が、無断で記事を複製する行為は厳密には違法です。

◆「権利」を考えるきっかけに

とはいえ、誰かの許可を得ないまま、気軽に記事をコピーしたい人の気持ちも理解できます。
お金を払いたくないし、コピーに関する手続きや申請は面倒です。

これだけ、身の回りに「コピーせよ」と言わんばかりの複写機があふれているのですから、コピーする側からすれば、「そもそも複製に関するルールがおかしいのではないか」とグチりたくなるのも人情でしょう。

また、「そもそも、新聞社は新聞を発行し、朝刊、夕刊を販売した時点で、売り上げを回収しているのだから、それ以上、課金しなくてもいいのではないか」という声も聞こえてきそうです。

冷静に考えると、著作権制度にはほころびがあるかもしれません。企業内で日常的に行われているファクス送信も実は、遠隔地に複写物を届けるというコピー行為かもしれません。文書やイラストをデジタル化するスキャナー機の急速な普及は、著作権にとって「心配な」存在です。他人のメールを無断で転送することにも問題がありそうです。明快な説明がほしいところです。

「文化の発展に寄与」(第1条)をうたう著作権法は、あまたの法律の中でも、もっとも私たちの生活に身近な法律の一つと私は感じています。

同時に、私たちは、うっかりしていると「それって著作権侵害ですよ」と言われかねない状況に置かれています。

「これって誰かに断らなければならないかな」

記事をコピーしたり、スキャンする時にそのように考えてみてはどうでしょうか。単に著作権だけでなく、「法律とは何か」「ルールとは何か」「権利とは」について考えるきっかけにもなりそうです。
(了)
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(みやたけ・ひさよし)東京理科大学大学院イノベーション研究科教授。日本音楽著作権協会(JASRAC)理事。元共同通信社記者・デスク。著書に『知的財産と創造性」(みすず書房)など。最近ではエッセイ「売れる歌、残る歌」(『うたのチカラ』集英社。2014年11月)がある。

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